@無窮



※遊星とラモンが医者、鬼柳が患者のパロです

遊星→20代
ラモン→30前
鬼柳→20代


俺の担当医の不動遊星先生はこの病院の院長の息子らしい。俺はその院長とやらを見た事がないのでわからないが、とても良く似ているそうだ。勿論見た目だけでなく腕前も。
俺の家は金のある方で、この病院に投資までしていたから、この原因もよくわからない病気を看てもらうにはこの大きい病院が良かったらしい。

俺の病状は、定期的に記憶が飛ぶというもの。といっても小一時間だけとかほんな数分だけであったりとかだ。当時それが病気だと思わなかった俺は辛い人生を歩んでいたのだと思う。あまり覚えていない。
最近だと30分に10分に一度くらいの間隔で、何かある度にノートに自分のした事を記録している。それを見る事で自分の覚えていない事を理解するのだ。

それから体も病弱であった為に、通院で済む筈の俺は入院をしている。自分の為にホテルのように豪華な一人部屋が設けられていたのだが、きっとこれは親が行った厄介払いなのだろう。
俺には健康体で成績優秀な、俺とは全く容姿の似ない兄が居る。そちらに掛かり切りなのだ。跡取りも兄で決まっている。

毎日そんな事を考えて生きていた。俺のベッドからは病院の庭が見える。この病院は大きい。沢山の科医があり、沢山の病室がある。


「こんにちは、元気ですか?」

「ラモン、こんにちは」

やる事もなく、ノートに定期的な事を書いていた時、静かに開かれた扉からラモンが入って来た。向かい側にある病室の子の担当医であるラモンは、たまに俺の病室へ遊びに来る。
そうしょっちゅう遊びに来て大丈夫なのかと以前聞いた時は、その分仕事しているから大丈夫だと説明された。そんな無理してまで来なくていいのにと思う。

「何書いてるんですか?」

「30分前から今までの事…」

「お、じゃあ『ラモン先生が来てくれた』って今から書いてくれんですね?」

「…ああ、まあ」

言われてみればそうだと、『昼食を食べた。メニューは……』と書かれた下の行に文字を書く。
ラモンは何故か俺に敬語を使う。多分、俺の親がこの病院に投資しているからなのだろうけれど。

「…『ラモン先生がまた遊びに来た。遊びに来た事をノートに書くよう俺に催促をする』…これじゃあ俺がガキみたいじゃないすか」

「嘘書いたって意味ないからな」

「あーひっでぇ」

ラモンはそう言って笑う。それこそ子供みたいで俺もつられて少しだけ笑った。
このやり取りも忘れてしまうのかもしれない。笑いながらそう思うと、胸の中で得体の知れない不安がぐにゃりと蠢いた。最近はこういった思考を頻繁に抱くようなり、日常が怖くなって来ている。



ある日、起きてから朝食を食べた後の散歩の時間までの記憶がなくて、昼食の時間になりかけていたので焦ってノートを取り出した。
つまり五時間近く記憶が飛んだ事になってしまう。今までなかった長時間のそれに、心音が騒がしいのを堪えてノートを開いた。

『朝起きる。看護師さんが俺の寝癖を直してくれた、それから……』
『朝食。メニューは……』
『朝食中に不動先生が来てくれた。病状についての話をして、あとは……』
『散歩前にラモン先生に会った。新しいノートが必要なんじゃないか、と新しいノートをくれた。まだ大丈夫なのにお節介な人だ』
『散歩から帰って来ると不動先生が居た。何か話があるらしい。これから聞くのだけど、今書いているノートをのぞき見てくるので困る』

ああ普段と何も変わらない。普通だ。良かった。胸を撫で下ろして、けれどこれだけの事が記憶にない事に恐ろしくなる。何故こんなにも楽しそうな事柄を忘れてしまうのだろうか。
ノートを下の方まで見て行くと、おかしな文に首を傾げた。

『不動先生に』

とまで書かれて終わっている。いや、よく見ると消しゴムで消した跡があった。強く消した跡だ。
先程の不動先生から話があるらしい、という記述の真下にあるそれは、多分その話の内容を書こうとしたのだろう。何故消したのだろうか。横に小さく書いてある時間を見ると、俺が記憶がないと焦るほんの数分前の事らしい。思い出せる訳がないのに思い出そうとして、酷く頭が痛む。
目を凝らして消した跡を凝視するも、どうやら濃く横線を書いてから消したようで下の文字は全く見えない。

不動先生に、なんなんだろうか。何か言われたのだろうか…それとも何かしてもらったのか。全く思い出せない。何故消してしまったのだろう。思い出せないのに無理に思い出そうとして気持ち悪くなって来た。

「こんにちは、元気ですかー?」

「……ラモン」

吐きそうだと掌で口元を覆ったのと同時、ラモンが扉を開いて入って来た。白衣のポケットに手を突っ込んで流暢に入って来たのだが、俺を見ると吃驚したように足を止める。それから駆け寄って来た。

「どうしたんですか?」

「…あ、いや…思い出せなくて…」

心配そうに俺を見るラモンに、簡単に説明をする。あまりに長時間の記憶が無い事、それからノートにある途中までしか書かれていない文。
ラモンは聞いて、首を傾げる。

「いつも綺麗にノートを書くのに、珍しいですね…最後まで書かないなんて」

「……」

「それから長時間というのも…」

少し考えたようにラモンは俺から目線を反らす。開いたノートの『不動先生に』という文字を眺めて、口を開いた。

「俺の担当は違うけど、一応医者だから言えます。記憶障害は脳の病気だ、だから…」

そう呟きラモンは俺を見遣る。普段茶化して笑う表情が常なので、真面目な表情をしているラモンに少しだけ驚いた。

「普段より長時間の障害を受けるっていうのは、なんらかのショックがあって脳に影響を与えた、というケースが多いです」

「……つまり?」

ラモンの言いたい事の核心が分からなくて、俺は首を傾げた。ラモンは真面目な表情から一転、俺を安心させるようにへらりと笑んで見せる。

「……不動先生に聞いてみるのが一番ですね…彼が原因でしょうし」

「……え?」

「過程ですけど」

そう言い、ラモンはノートに書かれた『不動先生に』という文字を指先でなぞった。それから俺の首筋に触れる。いきなりのそれにぞくりと体を震わせると、ラモンは首筋の一箇所をただ眺めていた。

「不動先生は好きですか?」

「………嫌いじゃない」

「そうですか」

ラモンはぱっと俺から離れ、またへらりと笑う。俺は意味がわからないながらもラモンにつられて小さく苦笑した。

「今から、忙しそうでも不動先生を呼んで来ます」

「…いや、それは」

制止の言葉は無視され、ラモンはそのまま部屋から出て行ってしまう。止めようとして上げた片手が意味がないとわかって落ちた。

手持ち無沙汰になったので、する事もないのでノートに目線を落とす。『不動先生に』という文字を見て、その後の消された箇所を指先で撫でた。
今から不動先生が来る、と考えて、何故がずきんと痛むくらいに焦燥を感じる。何故だろう。息が詰まって混乱した。

鬼柳
俺はお前が好きだ
だから俺は
…すまない

ぼんやりとした言葉が頭に響く。
これは誰に言われた?
言われた記憶がないのに、何故か頭に響く。
誰に言われた?

ちくりと首筋が痛み、即座にその場所に触れる。少しだけ凹凸になっていて、首を傾げた。虫刺されのような跡である。こんな跡は記憶にはない。

「……不動先生に」

ぽつりと呟き、首を傾げる。この先の言葉は知らない筈だ。だが言える気がする。

俺は不動先生に

「……不動先生に…告白された…?」

何処から出たともわからない声が漏れる。記憶はない。だけどその言葉が口から漏れた。確証もない、だけど絶対に違うとも思えない。

病室の扉を几帳面にノックされるのはすぐの事。



***



遊+ラモ×馨 医者な二人と患者な鬼柳さんパロ、との事でこんな感じです!

遊星出番なくてすいません…正直ラモンのが動かし易かったんですorz
しかし書いていて楽しかったので満足でした(^ω^)

言い訳をすると、

遊星先生は鬼柳さんに片思いをしていて告白して勢いで押し倒しちゃって我に返って逃げた。

鬼柳はショックで長時間の記憶がぽーん。でも本能的に覚えてる。

ラモンは鬼柳さんが好きだけど遊星先生が鬼柳さん好きなの知ってるから複雑な心境。首筋に赤い跡があったの見て色々察しちゃった感じ。


です。なんだか適当設定ですいませんでしたしかし楽しかったです(^ω^)←

ではリクエストありがとうございました!







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