もうすぐ夏を迎えるからか、地球温暖化の影響なのか。
嫌みなほど照り付ける太陽とは裏腹に、私の心は冷めたかった。
否、この頬を流れる涙の方が冷たいだろうか。


どうでもいいことを考えてしまうのは、俗に言う現実逃避というモノだろう。
どんなにこの現実から目を逸らそうが、結果は同じだと解っているのに。
解っているからこそ、夢を見てしまう。



「なまえ」



自分の名を呼ばれて下げていた顔を上げれば、強い覚悟を灯した瞳に僅かに困惑の色があった。


それはそうだ。
今から任務に行くと告げれば、家族でも彼女でもないただの部下が、いきなり涙を流したのだから。



「どうしても、行くのですね」



訊くことはしない。
どうせ返ってくる返事は解っているのだから。



「あぁ、ザンザスがそれを望むからなぁ」



ほらね。貴方はザンザス様のために、その命を捨てる覚悟もあるのよ。
それがどれだけ私を傷つけているのか、貴方は知らないのでしょうね。


そして、貴方のその強い覚悟に私がどれだけ惹かれたのか。
貴方をどれだけ愛してるか。
貴方は、気付いていないでしょう?


本当はね、暗殺なんてやめて欲しいのよ。


別に人を殺してほしくないから、とか。そんな綺麗事を言うつもりじゃない。
私だって、たくさんの人の命を奪ってきた。朱にまみれてきた。


そんなこと言えるような、立派な人間じゃない。
私はただ、貴方が傷つく姿が見たくない。


任務がある度に私は心配で、このまま帰ってこなかったら、と不安なの。
任務になんて行ってほしくない。
戦ってほしくない。
傷ついてほしくない。



ただ、傍にいてほしい。



だけど、貴方が戦う姿は楽しそうで、「やめて」なんて言えなかった。
「やめて」なんて言える立場でもない。


だから、代わりに言うの。
私の精一杯。



「スクアーロ様」



気付いていますか?
私が貴方をどれだけ想っているか。



「怪我、しないように気をつけてくださいね」

『行かないで』


「あぁ」


「それと」



『愛してる』



「……っ、ちゃんと、帰ってきて、くださいよ」


「あぁ」



苦々しく笑ったスクアーロ様に、私も精一杯の笑みを浮かべる。


今の私はあまりにも臆病で、この想いを貴方に伝えることができない。
行かないで、と言うことすらできない。


泣いて泣いて、涙を流し続けて。





祈り、待ち続ける





(彼が無事でありますように)





 


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