小湊きょうだいとおままごと

 ーーいつも亮ちゃんと春ちゃんの遊びに付き合って野球ばっかり。たまには私の遊びにも付き合ってもらうんだから!

 今日はそんななまえの提案のもと、おままごとが行われることになった。小湊家の子供部屋には亮介、春市が絨毯に座り込み、なまえからの配役の発表を今か今かと待ちわびている。
 なまえは大役を任されたように、改まった咳ばらいをひとつ。

「えへん……では今から発表します」
「もったいぶらなくていいから早くしてよ」
「うう……」
「ちょっ、亮ちゃん! 今日はなまえちゃんの遊びに付き合うんでしょ」
「わかってるよ」

 亮介にとっておままごとは少々照れくさく、どちらかといえば苦手だった。けれどいつもなまえは野球という男の子の遊びに付き合ってくれているため、たまにはあちらの遊びにも付き合ってやらなくてはいけない。兄貴分としてそれがわかっているから、亮介もいやいやながらもやるしかないのだ。
 春市にフォローしてもらい、気を取り直したなまえがすぅっと息を吸った。

「まずはお母さん役!」

 その時、兄弟は思った。きっとなまえは嬉々として「わたし!」と宣言するのだろう。しかし次の瞬間ーー

「春ちゃん!」
「「…………」」
「春ちゃん?」
「……えっと……僕?」
「そう!」

 なまえがニコニコ顔で春市を指す。亮介がわずかに眉を寄せた。

「次は口うるさいお姑さん役!」

 兄弟の頭にお揃いの疑問符が浮かぶ。

「亮ちゃん!」
「……なにそれ」
「りょっ、亮ちゃ……ん」

 亮介のただならぬ黒いオーラに押され、涙目になるなまえだったが、なんとか言葉を絞り出した。なんだかだんだんと雲ゆきが怪しくなる子供部屋。

「最後はわたし! わたしはここの家で飼われてるペットの犬です」
「なまえちゃんが犬?」
「うん。トイプードルでよろしく」
「なまえが犬……」

 自分からトイプードルなんてあつかましいことを言うあたり、こいつらしい。まぁ、似てなくもないけど。亮介は思った。

「じゃあ最初のシーンね。お姑さんの亮ちゃんは、お嫁さんである春ちゃんをいびってください」
「ええっ?!」
「なにそのヘンなおままごと」
「リアルさを追求したの」
「なまえ、ドラマに影響されすぎ」
「あ、あの昼ドラか……」

 えへんと胸を張るなまえに、兄弟は開始する前からすでに疲れていた。野球をするよりもずっとずっと。

「はい! スタート!」

 亮介はひとつ息をつき、覚悟を決めた。本棚の天板にすっと人差し指を走らせ、それをじっと見つめたあと、ふっと息を吹きかけて埃を飛ばす。

「春市、そうじが全然なってないよ」
「す、すいません! 今後十分気をつけます!」
「ホラ、ここも埃が落ちてるよ」
「すいません」

 春市が亮介にペコペコと頭を下げ謝る。それを見たなまえは、わたしの目に狂いはなかったと興奮を隠しきれずにいた。
 亮介に叱られいびられ続けた春市が、一人しょんぼりと肩を落としている。そこへ現れたペットのなまえ。

「春ちゃん、元気だしてワン」
「あ、なまえちゃん」
「気にすることないワン。お姑さんがいじわるなんだワン」
「うん……。ありがとう」

 なまえが春市の肩に手をポンと乗せる。

「あ、そうだ。なまえちゃんお腹空いたでしょ。クッキー食べる?」
「うん!!」

 春市は先ほど母親からもらったクッキーを思い出し、なまえへと差し出した。

「ストーップ!」

 するとそこへ、亮介が待ったをかける。

「なまえは犬でしょ。なんで人間の言葉しゃべってんの?」
「それは……そういう設定で……」
「リアルさ追求してるんじゃないの?」
「……う……」
「それに犬は人間のクッキー食べちゃダメなんだよ」
「えー! でもお隣のペスはクッキー食べてるもん」
「なまえちゃん、あれは犬用だよ」

 春市がすかさず冷静にツッこむ。

「そんな……言葉も通じなくてクッキーも食べられないなんてイヤだよ……」

 うるうると半泣きになるなまえを見下ろしながら、亮介はすっと目を細めた。

「じゃあさ、役を代えない? 今から俺が配役を発表するから」
「うう……わかった」
「いい? お父さん役は俺。お母さん役は春市。そして子供役がなまえ」
「うん」
「ここの一家は野球が大好きなんだ。テレビはシーズンになると必ず野球中継。土日は家族で野球観戦。普段はいつも野球の練習をしている」
「う……ん?」
「だから、これはおままごとの続き」
「あ、うん」
「よし、じゃあこれから家族で野球しに河川敷に行くよ」
「えっと……わ、わかった」

 なまえは一瞬首をひねっていたが、すぐにいそいそとグローブを用意しはじめる。

「今日はバッティング中心でいくよ」
「うん!」

 それを見ていた春市は胸の内でつぶやいた。
 ーーさすが亮ちゃん。
 春市は兄へ畏敬の念を抱きながら、子供部屋をあとにしたのだった。


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