スピカといっしょ!
*純さん引退後の設定です。 わたしの名前はスピカ。花も恥じらう二歳の女の子。花ちゃんいわく、乙女座の中で一番明るい星の名前らしいわ。
あ、でものんきに自己紹介してる場合じゃないわ。今わたしはとっても困ってるの。あたりは夜で、もうすっかり真っ暗だしお腹も空いたし。昨日、散歩中にクラクションの音にびっくりして思わず飛び出してしまって花ちゃんとはぐれちゃって。おかげで一晩野宿よ。しかもさっきから変な男の子二人に見られてるし。
「......迷い犬か?」
「だろうね。首輪もリードもついてるし」
なんなのこの男の子たちはジロジロと。わたしは見世物じゃないわよ。チョビヒゲの強面と桜色頭の細目なんていかにも怪しいわ。
『キャンキャン!』
「へー。スピッツがよく吠えるってホントなんだね、純」
「亮介、テメェ俺の顔見て言ってんじゃねぇよ!」
「別に何も言ってないじゃん。ま、このテの犬はだいたいこういうところに......」
きゃー! 首元触らないでよ!
「ほら、この首輪についてるチャーム」
「お、ちゃんと名前書いてあんな。......えーと、飼い主は山田......花子。こいつはスピカだとよ」
「へー、スピッツのスピカね」
何よ、単純なセンスって言いたいわけ?
「迷い犬みてーだし、とりあえずここの番号に電話してみっか」
なになに? あなたたち助けてくれるの?
............
............
「あ? 一晩だけ預かれってどういうことッスか? うち寮なんで困るんですけど。あぁ?! 出張だ? そんなんそっちの都合だろーが! は? おい、ちょっ」
チョビヒゲは携帯見つめてどうしたのかしら?
「何? 飼い主迎えに来ないの?」
「なんか出張だから一晩預かれだと。勝手なことぬかしやがって! テメーの犬だろが!」
え、もしかしてわたし帰れないの?
『クゥ〜ン......』
「うん、じゃあ純が預かるしかないんじゃない?」
「なんで俺なんだよ?!」
「俺と丹波キレイ好きだから、犬なんて部屋に絶対入れたくないし」
「俺だって入れたくねーよ!」
「スピッツなんて仲間みたいなもんじゃん。それにスピカって確か乙女座の一番明るい星だよね。純も乙女座だしなんか縁があるんじゃない?」
「関係ねぇっつの!」
あんたたちケンカはだめよ。落ち着きなさい。
『キャン!』
「落ち着けってさ」
「......っだーもう! わかったよ! 預かりゃいいんだろ預かりゃあ!!」
*
......ん? この建物、アパートの一室かしら? わたしも花ちゃんと二人暮らしだからだいたいこんな感じの部屋よ。でも若い男の子三人で住んでるって、このコたち一体どんな関係なのかしら? ますます怪しいわ。
「つーことだから坂井、フミ。一晩だけ我慢してくれ」
「俺は構わねーぜ。犬好きだし。こいつ結構かわいいじゃねぇか」
あら、あんたわかってるわね。さっきいかつい顔って思ったのは取り消すわ。
「俺もいいよ。でも監督たちにバレないようにしないとね」
きゃ〜こっちのハンサムに頭なでてもらったわ。
「ま、一晩だけだしどうにかなんだろ。とりあえずメシでもやっとくか」
ご、ごはん? わたし花ちゃんとはぐれて以来何も食べてないの!はやくはやく!
『ワンワンワンワン!!』
「静かにしろ! 周りに聞こえんだろーが!」
『キュウーン?』
「とりあえずご飯でもやるか。オラ、さっき食堂で取ってきたやつだ。食え」
『ゥワン!』
白飯?! 白飯なのね?! やったー!
「犬に白飯なんてあげてよかったのかな?」
「仕方ねーだろ。こんなとこにドッグフードなんてねぇんだし。ま、空腹よかマシだろ、ガツガツ食ってるし」
おっおいしいわ! ご飯なんて普段は食べられないから魅惑の味よ! チョビヒゲなんて言って悪かったわ。あんた確か純って言ったわね。これからは純って呼んでやるわ。
『ワン!』
「だからうるせぇって!」
「ははは、伊佐敷のこと気に入ったみてぇだな」
うう〜ん美味しっ、......ん?んん? 何か玄関で物音がするわよ?
「......あれ? なんかノックの音したような。こんな時間に誰かな?」
「ヤベェな。俺と坂井でスピカ隠すからフミ出てくれ」
「わかった」
ちょっ苦しい、わたしに布団被せるんじゃないわよぅ。
『キャンキャン』
布団がジャマでハンサムくんの声が聞こえないわ。
「......ちょ......おい、......るや?」
「......んです」
「おい降谷待てって!」
「テメ降谷、何すんだコラ!やめろ!」
まっ眩しい! でもやっと布団から解放されたわ。......ん? でもまた目の前に新しい男の子が。
「......やっぱり犬いたんですね」
またえらく図体の大きいコね。なんでわたしをそんなキラキラした目で見るわけ?
「久しぶりの動物......。色も白クマみたいだ......かわいい。ぎゅってしたい」
おえっ、く、苦しい......。したいってもうしてるじゃないの。力任せに抱きしめるんじゃないわよ。
『キュ、キュウン......』
「もふもふだ......」
「オラ降谷! そのへんにしとけ! スピカぐったりしてんだろうが」
じゅ、純......もっと言ってやって......。
「ご、ごめん。つい」
『キャンキャン!』
「つい」で押しつぶされてたら体いくつあっても足りないわよ!
「......すいませんでした。犬の鳴き声が聞こえて、いてもたってもいられなくて」
「ははは、降谷は動物好きだからなぁ」
「はははじゃねぇよフミ! 降谷、テメーも絶対黙ってろよ! 一晩預かるだけなんだから」
「......はい」
「んじゃあ、わかったところでさっさと部屋戻れ」
「あ、最後にもう一回だけもふもふを......」
「全然わかってねぇじゃねーか!」
「降谷は絶対、動物を可愛がりすぎてノイローゼにさせるタイプだよね......」
「ああ......」
「スピカ。もふもふ......」
「さっさと出ろ!」
降谷、じゃあね。犬に対する接し方を学んでからまた来なさい。
「あいつ最後まで粘りやがって」
「意外にしつこかったね。あ、そうだ、そろそろ素振り行く?」
「おー」
「スピカは置いてくか」
なによ純。置いてく気? わたしだって「すぶり」に付き合うんだから。
「おいコラ邪魔すんな! ドアのそばに立つんじゃねぇ!」
『ワンワン!』
わたしも行くわよ〜。
「もう連れてってあげたら?」
『ワン!』
「チッ、ちょっとだけだからな」
やったわ!
*
うわっ! 男の子たちがいっぱい! しかもみんな棒きれみたいの持って一体何がはじまるのかしら。わくわく。
「とりあえずここにリードしばっとくか」
あっ! 男の子たちがわたしに近づいてきたわ。えーと、さっきの桜色頭の細目と、凛々しい感じの男子と、ヤンキーと、メガネ? だから見世物じゃないってば!
「ヒャハハハ! なんすか純さんその犬?」
「はっはっはっ、純さんがスピッツ連れてる!」
「何か文句あっかコラァ?!」
「「何も!」」
「む? ついに純にも同族の子分ができたのか」
「同族って何だよ哲!」
「そのまんまの意味だよね」
『ウワン!』
違うわよ、純がわたしの子分よ。
「しゃべってねーでとっととやんぞ!」
............
............
なんか「すぶり」って地味ね。ひたすら棒きれ振ってるだけじゃない。ああ、でもみんな何か一生懸命だわ。よくわかんないけどがんばるのよ!
『キャンキャン!』
「だからスピカうるせぇ!」
*
純がさっきから何やら用意してるわ。今日のわたしの寝床はバスタオルなのね。
「とりあえず今日はこれで我慢しろ」
『ワン!』
ま、野宿よりはマシね。おやすみなさい。
「おう、おやすみ......って何言ってんだ俺?」
あんたも頭ひねってないで早く寝なさい。
............
............
なんだか眠れないわ。うちじゃないからかしら。やっぱり花ちゃんがいないと淋しいのかも。
『キュウーン......』
ん? 何か物音が。あ、二段ベッドの上から純が降りてきたわ。
「眠れねーのか?」
『キュウン』
「しょうがねぇな」
え? えええ? わたしを抱き上げてどこへ連れてく気?
「こっちなら淋しくねぇだろ」
純のベッド? 一緒に寝てくれるの?
『キュウン』
あ、なでてくれるのはうれしいけど、手がカサカサしててちょっと毛に引っかかるわね。でも仕方ないから黙ってなでられてやるわ。ありがとう、純。
*
「本当にありがとうございました! 私の勝手な都合で預かってもらっちゃって」
「いや、大丈夫っス」
『キャンキャン!』
ちょっと純! 花ちゃんが美人だからって鼻の下伸ばしてんじゃないわよ。
「あの、お礼にこれを。スポーツドリンクなんですけどよかったら皆さんでどうぞ」
「あ、あざっす」
ますますわたしとは態度が違うわね。
「ほら、スピカもお礼言って」
ふ、ふん。ま、手くらいなめてやるわよ。
「うおっ?!」
「スピカがこんなに懐くの珍しいんですよ。さては伊佐敷くんのこと気に入っちゃったかな?」
『キャン!』
違うわよそんなんじゃないわよ!
「気に入ったって言ってますよ」
『キャンキャン!』
花ちゃん! その認識間違ってる!
「おい、今度ははぐれるんじゃねーぞ?」
『ワン!』
でも、また来てやってもいいわよ。
............
............
「スピカ行っちゃったね」
「亮介?! テメいつから見てやがった?!」
「純が鼻の下伸ばしてるあたり?」
「んのやろ......」
「結構淋しかったりして?」
「なっ、誰がだバカヤロー!!」
HAPPY BIRTHDAY JUN ISASHIKI
2014.09.01
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