INFINITY | ナノ


「明日昼からだから、ゆっくり休めよ」

『うん、ありがとう。お疲れ様』

「お疲れ」


仕事が終わって甲斐くんに家まで送ってもらった。オートロックを潜りエレベーターに乗る。目的の階に止まるとフロアの1番奥にある扉を開けた。電気をつけてテレビをつけて、マグカップをセットしてコーヒーメーカーのボタンを押す。着替えてコーヒーと共にソファーに座ると携帯がなった。


『誰?』


登録されていない送信元は名前ではなく英数字が並んでいて、題名もない。


"おかえり"


『誰やねんな』


誰かがアドレスを変えて知らされていなかっただけだろうか、シャワーを浴びてベッドに横になると少し気にはなったが疲れが眠りをさそった。


"おかえり"


イタズラだろう。そう思ったんだ。でも...



"ゆっくり休んで"

"僕はちゃんと見てるから"

"愛してるよ"


毎日送られてくるメール。受信拒否にしても何度もアドレスを変えて送られてくる。流石に精神的にもきついな...


_____


『買い物でもして帰ろうかな。』

「最近休みないからな。たまにはいいんじゃないか?」

『そうする。お疲れ様です』


仕事が15時に終わって、甲斐くんの送りを断って買い物に出た。いつもはメンバーの誰かがついてくるけど、たまにはいいかなと1人で街に出る。すっかり辺りも暗くなった帰り道を歩いていると同じ速度で歩く気配を背中に感じた。
思い切って立ち止まり振り返るが誰もいない。気のせいかな...でもやっぱり誰かおる...
全力で家まで走ってみると気配は途中でなくなりオートロックを開けて肩で息をしながら部屋に入った。


『何なんもお...』


誰かに相談すべきなんやろか。でも今みんな個人の仕事で忙しくてなかなか会う機会もないし、それに何より迷惑かけたない...きっと今日だけ...そう思った。


_____


それから数日、メールは止まない。ついには電話までかかってくるようになった。今日は8人で久しぶりにそろうバラエティー番組の収録。


「名前いける?」

『ん?何で?』

「最近元気ないやん」

『...そう?元気やで!』

「ほんならええんやけど、何かあったら言うんやで?」

『うん、ありがとう』

piririri

目の前にある携帯が着信を告げると表示されたのはいつもの番号で...

「名前ちゃん出えへんの?」

『あぁ...ええねん』

数回呼び出し音が鳴った後に留守電にメッセージが入った。再生ボタンを押して耳に携帯を当てると向こうから聞こえるのは男の人の声。


《んっ...あっ名前ちゃん...っんあ...》

『いやっ!』


喘ぎ声のような声と私の名前。それに電話を落とした。


「名前?どないしたん?」

近くにいた忠義が傍に来ると携帯を手に取り耳に当てた。

「...何?これ」


眉が寄った忠義にみんなが注目した。


「どないしたん?」

「これ、聞いて」


忠義がもう聞かないようにと私の耳を塞ぎ、スピーカーにして再生を押した。みんなの顔が険しくなる。


「初めてやないんやな?」

『留守電は初めてだけど、メールと電話あって...この人かわかんないけど後つけられた...』

「何で言わんねん!」

『...ごめん』

「いつからや」

『1ヶ月くらい前から』

「何で言わんかったん?」

『みんな忙しかったし、すぐ収まるだろうと思ってたから』

「はぁ...お前はそうやってすぐ自己解決する」

「怖かったやろ」

「忙しくたってなんだって何かあってからじゃ遅いんやで?俺ら頼りないか?」


首を振ると信ちゃんの手が頭に乗った。

「ほんならもっと頼ったらええがな。こんなむさ苦しい男の中に居ってもお前は女なんやから。」

『...うん...ありがとう』

「ホテルとるか?」

『ううん、帰る。蘭丸と小太郎も居るし、オートロックやし大丈夫』

「送ってく」

『ありがとう』

「なんかあったらすぐ連絡するんやで」


fear



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