INFINITY | ナノ



冷たい風が頬を撫でる日曜日。かと言って、俺達の仕事は曜日や祝日なんて関係ない。世間様は月曜日が赤くなる今日を喜ぶんやろうけど、そのありがたみが分からない職業だ。



「ああ、デートしたい」



飲みに来た居酒屋。突然大倉がぽつりと言った。小さな居酒屋の小さなテレビには、休日に行きたい最新デートスポットが紹介されている。顔立ちが良くて、すらっと背が高くて、気持ちいいほどに笑って、もりもり食べて。そんな大倉はモテるはずやのに、俺が知ってる限り暫くは色恋沙汰とは無縁だ。



「したらいいやん、」
「したいよー」
「大倉モテんねんから」
「誰でもいい訳ちゃうねん」
「まぁそうやろうけど」
「俺は名前としたい」



名前ちゃんが亮ちゃんと結婚してからもうすぐ1年。大倉も亮ちゃん同様、長年名前ちゃんに想いを寄せていた1人やった。その間誰とも付き合ってなかったわけやないけど、結局名前ちゃんに目が行ってるからか、なかなか続かん!と嘆いてた。名前ちゃんが結婚してから、吹っ切ろうと彼女を作ったらしいけど、今だに彼女よりも優先順位が高い人が居る事に、別れを切り出されたそうな。そらそうやろな。俺が彼女やったら、悲しいもんなー。

信ちゃんからは「ええか、アイツはがさつで大酒飲みで、チョコばっかり食うとる男好き女やと思え。お前を都合のいい時にしか使わない、雌ゴリラと思え」なんて究極なこと言われてたっけ。「そんな嘘つきな解釈出来ひん。すき、めっちゃ好き」って言うて呆れられてた。




「なんでやろなー。なんで亮ちゃん...」
「男前やからなー亮ちゃん」
「知ってるよ、顔も性格も男前なんは」
「スーパーマンやからなー」



名前ちゃんも亮ちゃんも居ない時、時たま見える大倉の心の中。2人の結婚を祝福したものの、長年の恋心と言うのはそう簡単には消えへん。そらそうやな、2年3年の話やなくて、デビュー前からやから10年以上なわけで。そんな長く1人の人を愛せる根性と勇気と葛藤。それは、俺も分かってるつもりやけど、大倉ほど長くなかったからな...。



「大倉も男前やで」
「知ってる」
「うほほほ、」
「何が違うんかな、亮ちゃんにあって俺にないもの」
「人と比べたらあかんよ。亮ちゃんにも大倉にと魅力と欠点があって、それぞれ素晴らしいんやから。俺は尊敬してるで、2人とも」
「なにい、泣くで俺」
「たまにはええんちゃう?泣いたって。俺しかおらんねんから」



きっと、大倉にとっては人生で1番愛した人。今までもこれからもきっとそう。でもいつか、こんなに一途に人を愛せる君なら、名前ちゃんを越えるような愛を送れる人に出会えるはずやって、俺は思ってるよ、大倉。



「誰にかけてんの?」
「もしもし名前?愛しのたっちょんやけどー、え?名前は?なにしてんのー?今仕事終わったん?よう働くわホンマに。お疲れー。今なー、丸と飲んでるー。来るー?えー、来てえやー。1杯だけでもいいねんで?えー、いいやんか帰ったら会えるやん亮ちゃんはー。俺と呑もうやー。あー、そうやって亮ちゃんばっかりずるいー。なんて?あははははは!アホやなー!あかんて。なー、お願い!また唐揚げ作るからー。たっちょん寂しいねん、丸ちゃんと2人で寂しいねんてー。そんなこと言ってると家行くで。なんでよー、名前の大阪LOVER聴きたいからカラオケでもいいで。お願いってー、なー、たつのお願い聴いてえなー。俺なー、むっちゃ名前のこと好きやんかー。毎日会いたなんねんもん。家行きたいなー。明日?明日になるまで長いやん、死んでまうかもしれんで?お願い、顔みたいねん。ほんまに?うん!ええよ!えっとな、15分。いや、10分で行く!亮ちゃん?ええよ、大丈夫!うん、わかった!はーい、じゃーねー。丸!ワイン買って名前ん家行くで!」
「えっ、今から?」



あかんな。ファンの子が見られへんたっちょんや。クネクネして、顔もデレデレ。名前ちゃんと話してる時の大倉が1番嬉しそう。仕事以外なら名前ちゃんの呼び出しには必ず出動する。必ず誘うし、誘ったら頷くまで離さんスッポン大倉。今追加した飲み物きたばっかりやのに、伝票もって行ってもうた。名前ちゃんも大変やなー。


「まるちゃん、早く!置いてくで!」


大倉が名前ちゃん卒業するのは、しばらく先のようです。





一番星をキミに
(りょうちゃーん)
(大倉?とマル?何しに来てん)
(名前ー、たっちょんやでー!)
(まだ帰ってきてないで)
(ぶーーーー)


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