INFINITY | ナノ


容姿端麗、しゃべりもうまい、いつもニコニコした奥さんを持つと、大変だというのはわかっていたけど、こんなにも大変だとは、思っていませんでした。

うちの奥さんは、男心を掴む術を熟知しています。僕もそれにやられた1人やけど。ガサツやし、めんどくさがりやし、口も悪いけど、世の男性はみんな釘付けになります。

『あ、智久!ドラマ、見たで。あんた、テレビで見るとめっちゃ肌綺麗やね。実際も美肌やけどさ、どうしたらそんなつやつやになるん?』
『ねえ翔くん、どうしたらそんなに流暢に司会出来るん?頭いいからなんかな?私にも教えて欲しい、尊敬するホンマに』
『たつ、これめっちゃ美味しい!また作ってくれる?』

褒め上手で

『んー、難しい。信ちゃん、お願いがあるねん。これ得意やろ?見せて欲しいなー。お願い!すごい!ありがとう!』
『侯くん、このステージクリア出来へんねん。侯くんと通信したくて始めたのに…ねえ、お願い』

甘え上手で

『うん、うん、なるほどな。うん、あ、わかる!』
『え、そうなん?初めてしった!』

聞き上手。
ルックスだって、こんな仕事をしてんねんから言わずもがな。いつもニコニコしてて、綺麗で、料理も出来て、30年以上生きてきて、これ以上の女性は居らんと思えるくらい。モテないはずがないのだ。

「名前ちゃん、今日ご飯行かない?」
「おしゃれなお店見つけたんだけど、一緒に行かない?」

なんていう男共の誘いはもう飽きた。この業界はイケメンも多い。まあ、俺もその部類やけど。中学も高校もまともに行っておらず、幼いころからこの業界に居る名前。事務所柄、女友達なんて数えるほど。逆に、男友達は星の数だ。携帯のアドレス帳は、大半が男性の名前。それだって昔からだった。

『今日、潤とご飯行ってくる』
『今から和とゲームしてくるな』
『来週章ちゃんと沖縄旅行してくる』
『今日すばるん家泊まるな』

同性の友達と同じように遊ぶ。
その度に、胸の奥がざわりと揺れる。俺にも女友達は居るけど数えるほどやし、ましてや女の子の家に泊まるなんてない。2人でご飯を食べに行くのも、奥さんがいる身としては気が引ける。でも、名前にそれを求めたら、家に一生閉じこもったままだろう。俺って心広いな。

ドラマや映画は1年に2〜3本。ラブストーリーの女王と言われる彼女は、恋愛ものの作品が多い。もちろんキスシーンもベッドシーンもたくさんあって、男性と絡む。ざわりと心が揺れたとしても、モテるとわかっていたとしても、俺だけのもんって優越感に浸れるのは俺だけ。世間で浸透しているのは"名字"だとしても、病院で呼ばれる名前は"錦戸"で、薬指が空っぽでも、同じ石が名前の手首と俺の首に揺れてる。帰るところだって、寝るところだって同じなんだ。

『亮、愛してる』

結婚したい女性芸能人殿堂入りのアイドルに、俺だけが言ってもらえる言葉。みんなのもんやなくて、俺のやって実感できる言葉。比較的口に出して嫉妬心を表している方やと思うけど、独占欲は器が小さいと思われたなくて言わんけど。

機械にめっぽう弱いことも、髪がぴょんと跳ねている寝起きも、時々やらかす酒癖も、ヒールの靴擦れも、運転の粗さも、それさえも愛おしく思えるくらい惚れてるから。周りが男だらけだからと言って、離してしまうほど軽いもんやなくて。周りからは溺愛しすぎやって言われるけど、そんなん関係ないわ。
そんな彼女はというと、今目の前で眉間に皺を寄せている。雑誌を見ながら、ダイニングテーブルを新調しようと悩んでいた。ページをめくっては戻し、ページの角に折り目をつけて。

『…何見てんの?』
「見てへんよ」
『何よ、見てたやんかー』

ソファーの上に座っている俺のズボンを、ソファーの下からちょんちょんと引っ張られる。その手を取ってみると、不思議そうな顔をした。

「名前」
『ん?』
「好きやで」
『ふふっ、何、急に』
「ん、なんか言いたなった」
『変なのー。でも、………、私も大好き』

ほら、もう愛おしい。ドラマちゃうねんで。そういわれたら、何だって許せるんやで?キスの勢いで床に倒したら、ここからはご想像にお任せします。

あほ、誰にも見せへんわ。俺だけのもんなんやから。

午前1時のキス


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -