INFINITY | ナノ


「しばらくかかるから、少しでも寝とけよ」
『ん、』

映画の舞台挨拶、インタビュー、レギュラー番組の収録、ドラマの撮影、そしてライブ。
忙しくない空いた時間に割り振れればいいけれど、そんなわけにもいかないのが仕事というものだ。これほどまでに影武者が欲しいと思ったことはない。家に帰ってもベッドに倒れ込んで、甲斐くんからの着信で起きて、そのまま仕事に行くという日がもうしばらくほど続いていた。


『甲斐くん、』
「ん?」
『寒い』
「暖房これ以上上がんねえぞ。後ろに毛布あるからかけとけ」
『ん、』

昨夜から続いていたドラマの撮影が終わって、甲斐くんが運転する車でライブ会場へと移動していた。後部座席を倒して横になり、トランクにあった毛布を被った。気を使って優しく運転してくれているのか、車の揺れがいつもよりも心地良くて、一瞬で夢の中へと引き込まれていった。
次に目が覚めたのはおでこにひんやりとした感触があったからで、目をゆっくりと開けると甲斐くんではなく亮の顔が目の前にあった。

『亮…、』
「お前熱あり過ぎやろ」
『ん?』
「甲斐くんが、名前が熱ある言うから迎えに来た」
『…熱?ん、…甲斐くんは?』
「中に居る。ぐっすり寝とるからって」
『ごめん、私も中行かんと…、』
「立てるか?」
『ん。…あっ、』
「あぶねっ、!」

車から降りようとして足を踏み外したのを、亮が支えてくれた。「あかんやろ、ほら」と言いながら、背中を向けてきた。久しぶりに乗った亮の背中は凄く温かくて、首にギュッと抱き着くと歩きながら片手で頭をポンポンと叩かれた。

『亮、ありがとう』
「お前働き過ぎやねん」

顔は見えないけど、きっと眉間に皺を寄せていると思う。"控室"と扉の横に貼ってある部屋に入ると、ギターを触っていた章ちゃんがピコピコと足音がしそうな走り方で近づいてきて、髪をクシャっと撫でた。

「名前、大丈夫か?」

章ちゃんのほわんとした声は熱も下がるのではないかと思うくらい優しい。声を出さず、口角を少しだけ上げてうなずくと、私をおぶっている亮をソファーへと促した。枕とタオルケットが用意されていて、その前のテーブルには熱冷シートとスポーツドリンクが置いてあった。その奥では、侯くんと信ちゃんが甲斐くんと話をしている。チラチラとこちらを見ているから、きっと私の話だろう。体調はどんな感じなのかとか、ステージには立てるのかとかそんなところだろう。

「どうすんねん、お前」
『ん?』

信ちゃんがソファーに寝ている私の足元に、侯くんがソファーの正面に立つから、身体を起こして飲み物を口に含んだ。

「出れるん」
『当たり前やんか、出られへんのにここには来ません』
「40度近いんやろ、ぶっ倒れるぞ」
「40度はあかんやろ、大丈夫なんか」
『解熱剤飲んだから大丈夫。心配いらんよ、ありがとう』
「いや、効いてないやん解熱剤」

ニコニコ笑っているけど、目はトロンとしていて。今の名前はとてもじゃないけどステージに立てるようには見えなかった。歌はフォローできるとしても、ダンスまでは流石に賄ってあげられない。信ちゃんも横山くんも、静かに様子を伺っていたすばるくんも眉間に皺を寄せていた。公演スタートまであと3時間。ドームの周りには今日のライブを楽しみにしているエイターが続々とやってきていて、今更中止ですなんて簡単には言えない。かといって、名前だけでませんというのも、これまた大騒ぎ。どんな仕事でもそうかもしれないけど、体調が悪いですの一言で済まされないのがこの仕事だ。

「踊れるん?」
『全然平気』

返ってくる答えはわかっていたけれど、試しに聞いてみると頭の中に浮かんでいた答えがそっくりそのまま返ってきた。見るからに全然平気には見えへんけど。段々と大人たちが名前が座っているソファーの周りに集まってきた。

「出られないなら早く決めないとだぞ。歌だって割り振らないといけないんだから」
『大丈夫やって』
「そんなんで出られへんやろ。踊ってステージの上で倒れたらどうすんねん」

甲斐くんに再び体温計を脇に突っ込まれた名前の体温はさっきよりも上がっていて、顔は真っ赤。解熱剤なんてちっとも効いてなくて、亮ちゃんの膝の上で再び横になり始めた。茹で蛸になりながらも、名前の顔は少しだけ口角が上がっていて、きっと、愛しい人に触れているからなんじゃないかと思う。亮ちゃんパワーやな。亮ちゃんのお腹に顔を埋めている名前の後ろでは、お兄ちゃん3人を含めた大人たちの話し合いがまだ続いていた。

「一応歌割りしとくか」
「そんなことせんでもええやろ」
「そんなことちゃうやろ」
「本人が出れる言うてんねんから、そんなことせんでもええやろ」 

名前がでられないときのことを必死に考える信ちゃんに珍しくすばるくんが眉に皺を寄せた。ライブの成功を考える名前の意志を尊重するすばるくん、そして名前の体調のことだけを考えている信ちゃん、どちらも間違ってはいないから、周りで見ていたマルもヤスも何も言えなかった。

「甲斐、名前明日も仕事なんか?」
「またしばらく休みないな。でも、明日はオフにしてもらった」

ああだこうだとしているうちに、もう公演まで後2時間。後1時間…。
後30分…衣装に着替えてからも、今だに名前の熱は下がらなかった。


...続く

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(りょう、)
(ん?)
(だっこ)
(ん)
(名前ちゃんが...甘えてる!)


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