INFINITY | ナノ


「それでは、関ジャニ∞のみなさん。飲み物をお持ちくださいませ」


マルが立ち上がって言うと、目の前にあったグラスをそれぞれが手にした。乾杯!という掛け声と共に、グラス8つが重なり音を奏でた。
いつも名前がヒロちゃんたちと使っているというセレブが使いそうななんともオシャレすぎるこの店の中には、シックなカバーを纏ったクッションが置かれた真っ白なソファー、眩しいくらいにキラキラ光るシャンデリア、何が書いてあるのかはわからないけど見る人が見たら唸るのであろう大きな絵、巨大なモニターの下にはカラオケ機器、そして壁の一辺に広がる水槽の中には色鮮やかな熱帯魚が泳いでる。やっぱり相当いいところらしく、熱帯魚が優雅に泳いでいる横には扉があって、テラスに出られるようになってる。
みんな仕事帰りの普段着だというのに、わざわざ1回帰宅して一張羅だというスーツを身にまとったマルが1番この空間にピッタリやった。


「お前普段こんなとこ来てんのか?」
『ふふっ』


仕事もプライベートもずっと一緒に居ったのに、こんなところに来てるなんて全然知らんかった。今にも露出度の高い、髪をクルクル巻いたお姉ちゃんか、前髪をちょこちょこ気にするスーツ姿のお兄ちゃんが出てきて、お酒を注いで色恋営業をしてきそうだ。テーブルの上には、アヒージョや野菜スティック、パスタ、フルーツの盛り合わせなんかも置かれていて、おっさんだけじゃ絶対に頼まないようなものが、もう置き場所もないくらいにテーブルを占拠していた。その端っこには、焼き鳥やから揚げなんていうおっさんに優しいものもちゃんと甲斐くんは用意してくれていたらしい。優しいな、ほんまに。
プライベートで8人が揃うのは久しぶりやな…なんてしみじみ思いながら目の前にあった明太子のクリームパスタをフォークにクルクルと巻いて口の中に入れた。ん、めっちゃうまいなこれ。


「デビューしたての頃はさ、こんなことになるなんて思ってなかったな」
「こんなことって?」
「名前と亮が結婚するってことやろ」
「昔から亮が名前のこと好きなんはわかってたやろ」
「15年以上諦めへんかった成果やな」
『そんなに1人の人を好きで居るなんて無理』
「そんなこと言うたら、無理やんか結婚生活なんて」
『そういうことちゃうねん。片思いをし続けるなんて無理ってこと』
「そうやなー、俺も無理やな」
「途中であきらめてしまいそうやな」
「途中でいろんなお尻追いかけまわしてたやろ」
『…いろんなお尻』
「そんなんちゃうって!」
「そら無理があるやんな、15年やで?」
「一夜限りの恋もあるやろしな」
『え、侯くん…』
「まさかの?」
『侯くんそんな一夜限りの恋なんてあったん?』
「いや、ないけど」
『この中で一番無縁なんちゃう?』
「1番ありそうなのは亮と大倉ちゃう?」
「そんなんないし!」
「すばるくんも絶対あるけどな」
「え!?あるん!?」
「は?!」
「すばるくんは名前とっ!…んぐ」
『安田くん?』
「え?」
「え、名前ちゃんとすばるくん!?」
「…えっ、」
「はああああ!?え、はああ!?」
『何言うてんの、あるわけないやん』
「これははっきりさせとかなあかんな、今後のことも考えて」
「ほんまになにしてんねん」
「は?!!!ないし!はああああ!?なんやねん!」
「すばる焦りすぎやろ」
「最低や」
「おまっ、なにを言うてるだよ!そんなことあるわけないだろ!メンバーやぞ!!!」
「あっ、…あの…」
「すばる!」
「名前が黙ってるんが更に怪しいな」
「おい!お前も何か言えって!」
『はい、何もありません』


自分とすばるくんをヤイヤイ攻め立てるみんなをよそに、名前はグラスを持って立ち上がってテラスへと出て行った。その後を大倉が追っていった。テラスのフェンスに寄り掛かり、グラスを傾けながら何かを話している。何を話しているのかはわからんけど、隣に座っていたマルが「テラスで月明りに照らされる美男美女、いい風景やなー」なんてのんきなことを言うた。





名前とすばるくんの関係がメンバーに明るみになって、ガヤガヤ騒いでいるマルと頭を抱えながらブツブツ言っている横山くん、問い詰めるみんなを制御しながら「で?ちゃんと話せ」とやっぱりすばるくんを隅に追いやっている村上くん、いつもよりも眉間に皺が寄って更に顔が怖くなっている亮ちゃん、そして口を滑らせてしまい、この事態の着火剤となったヤスは黙って盛り合わせになっていた苺をパクパクと口の中に放り込んでいた。名前がグラスを持って立ち上がり、テラスへと歩いて行ったのを見て後を追った。


『忠義くんの膨れ顔はどうやったらイケメンに戻るん?』
「もう治ったで」
『もう冷たくせえへんの?』
「うん、ごめん」
『ああ、寂しかった』
「ごめん」
『もうええよ、気にしてへんし。…ねえ、忠義』
「ん?」
『ありがとう』
「え?」
『私のこと好きで居てくれて』
「うん」
『辛かったやんね』
「いや、楽しかったで」
『え?』
「もちろん亮ちゃんと付き合うって聞いた時も、結婚するって知った時も辛かったけど。でも、名前の幸せな顔見てるから大丈夫やで」
『何それ、めっっちゃかっこいいやん』
「ええで、錦戸から大倉に変えても」
『ふふ、1日で離婚しろって?』
「ええやんか、それもおもろいやろ」
『そんなことしたら私ほんまにジャニーズ垂らしやって殺される』
「俺がそんなことさせへん」
『ふふっ、かっこいい』
「ははっ、」


夜風が気持ちよくて、グラスを傾ける名前の横顔が凄く綺麗に見えた。俺が人生の半分を片思いしていたこの人は、人一倍仲間思いで、周りをよく見ていて、人に優しくて、何でも前向きで、何をしていても輝いて見えた。そんな彼女が好きやった。きっと、俺の15年以上の片思いは、間違いやなかったと思う。叶わない恋やったけど、きっと名前を好きになっていなかったら、今の俺はここに居らんかもしれない。きっと。


「なあ、」
『ん?』
「今まで通りで居ってもええ?」
『…?』
「結婚したからとか、亮ちゃんが嫉妬するかも知らんけど、休みの日に映画行ったり買い物行ったり、仕事終わりにご飯食べに行ったり、悩みごとがあった時には2人でワイン飲みながらDVD見て話したり」
『一緒にご飯作って?』
「うん。俺に気使わんでええから、今まで通り友達として」
『友達ちゃうよ』
「え?」
『私の大親友。私も楽しいねん。忠義すぐ来てくれるし』
「名前に呼ばれたらどこにでも行くよ」
『それって私が忠義のこといいように使ってるみたい』
「ほかの人から見たらそう見えるかも。でも、俺と名前の関係やから出来ることやろ?」
『そうやね』


やっぱり好きになったのは間違いやなかったと思う。これからも名前のことはきらいには慣れないし、恋愛感情がなくなることは一生ないかもしれない。でも、亮ちゃんも大好きやし、2人が幸せになってくれるのを俺なりに見守ろうと思います。


「名前、」
『ん?』
「好きやで」
『私も、大好き』


この大好きは友情ではないし、恋愛感情でもない。それは、2人の間でしかわからない不思議な大好きで、すばるくんの好きともちょっと違う。この関係がいつまでもいつまでも続いたらいいなと思った。もちろん、不思議な大好きから恋しい気持ちに変わってくれたら、そんなにいいことはないんやけど。


「名前!大倉!もう1回乾杯するで!」
『はーい!』


2人の関係


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