INFINITY | ナノ




『ふーん、初めて見るなこれ』
「なんか緊張するな」
『間違えたらあかんよ?』



兄の律樹に頼んで、役所から白地に茶色が印刷された用紙を貰ってきてもらった。リビングテーブルに横並びに座り、テーブルの上にボールペンと共に置かれた用紙を2人してマジマジと見つめる。とりあえず、失敗したけど経験済みの甲斐くんのアドバイスで、予備分の用紙も準備。



『名前...住所...本籍...あぁ、証人』
「書いてもらわなあかんな」
『ジャニーさんと...誰?』
「甲斐くんちゃう。社長とチーフが証人なら天下無敵やろ」
『確かに』
「出しにいかなあかんよな、これ」
『甲斐くんが持ってってくれるって』
「ふーん」




目の前にあるのは婚姻届。兄嫁から、届を書く時緊張するから2.3枚貰って落ち着いて書いてね。とアドバイスをもらっていた。名前と住所とっていつも書いてるやん。と思っていたけれど、実際書こうとすると何度かペンが思っていたのと違う方向に動きそうになる。きっとそれは、頭の中で色々考えるからだ。これを書いたらこの人の奥さんになるんだ。嬉しい気持ちはたっぷりだけど、不安もある。
この結婚は間違いないと思う。きっと亮なら幸せにしてくれると信じてるし、メンバーも社長も甲斐くんも祝福してくれているんだからそんなに喜ばしいことは無い。ただ、ファンの反応、これからの活動。



「名前、...名前?」
『...あぁ、ごめん。なに?』
「どうした?」
『んーん。あ、書けた?』
「ほら、間違えへんかったで」
『よし、えらいえらい』



証人欄以外、綺麗に埋まった婚姻届。明日証人欄も埋まったら、甲斐くんが代理で提出に行ってくれる。"恋人"という関係で居られるのは、今夜が最後だ。


「甲斐くん変なとこ抜けとるから出す時ミスったりしてな」
『これ出すだけやで?何か起きる方が奇跡やん』


婚姻届をカメラに収めていると、インターホンが鳴った。夕飯の時間はとうに過ぎていて、こんな時間に誰なんだと2人で顔を見合わせた。亮がインターホンの画面に映る人を確認すると首を傾げた。


「仁や」
『え?』
「何やねん、こんな時間に」
『どうしたんやろ』


ドアを開けてみれば、インターホンに近づきすぎて目と鼻しか映っていなかった仁の後に智久も一緒だ。最近みんな忙しくてなかなか会えておらず、久しぶりに見た顔は口角をぐっと上げた満面の笑み。「結婚おめでとー!」とさっさと靴を脱いでリビングへと進んでいった。ある意味不法侵入だ。警察を呼んだら連れ出してもらえると思う。先にリビングへと行った不法侵入者2人に、何故か玄関に取り残された住人は溜息が出た。



「何しに来てん」
「言ったじゃん。結婚おめでとうって」
『何時やと思ってるん』
「23時」
『わかってるんや』
「あっ!婚姻届」
「ここ空欄じゃん」
『そこは明日埋まるの』
「P、そこのボールペン取って」
『ちょっ、あかんて!』
「2人居るんだし丁度いいじゃん」
「明日ジャニーさんとこ持っていくねんからあかんて」
「なんだ、つまんねえの」
『つまんないとかやないの、これは大事な事やの』
「もう1人は?」
「甲斐くん」
『社長とチーフにサイン貰ったら円満やん』
「なるほどねー」
「あ、これ。俺たちからお祝い」
「まだ籍入れてへんで」
「明日入れるんだからさ、いいじゃん」
『めっちゃかわいいこのグラス!ありがとう』


オーダーメイドだというグラスにはさり気なくローマ字で2人の名前が彫刻されていた。明日は色々忙しいだろうからという仁と智久からの気を使ってくれたフライング気味の結婚祝い。ダイニングにあるディスプレイラックに飾ると、買ってきてくれたお酒で乾杯した。大切な友達から、こうやって結婚を祝福されるのは、最高に幸せ。




LAST NIGHT
(俺区役所行ってだしてこようか?)
(仁は信用できひん)
(わかる)
(うん、わかる)
(おい!)


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