INFINITY | ナノ


「渋谷さんメイクお願いします」
『ヒロちゃん、私もメイクしてくれる?』


『甲斐くん、1個ズレて』
「なんで?」
「そっち座ったらええやん」
『いいやん、ほら打ち合わせ始まるで』


「お腹空いたな」
「ちょっと時間空くみたいやで」
「そうなん?飯いく?」
「ああ」
『私も』


名前の様子がいつもと違う。今日はやたらと渋やんにべったりくっ付いて歩いてる。メイクの時も渋やんが呼ばれたらヒロちゃんが違う仕事をしている時に無理矢理呼ぶし、打ち合わせの時も甲斐くんをわざわざどかしてまで渋やんの隣に座ったし、今やって横ちょと局のご飯を食べに行くという渋やんにくっついて行った。さっきマルとサンドイッチ食べてたやん。


「そんな顔するんやったら話したらええやんか」
「うるさい」


隣に座ってギターを抱えていた亮の方を向いて言うと、入り口に向いていた目がギターに戻った。名前が渋やんの後について楽屋を出ていく様子を眉を寄せながら見ていた亮は、ここ数日名前と話はしていないらしい。名前から聞いた話やと、どうやら喧嘩をしたみたいやった。


「まだ話してへんの?名前と」
「帰って来おへんし」
「亮からいかんと名前今回は戻って来おへんかもしらんよ」
「…ええんちゃう。アイツが決めたことやん」
「もー、そうやって意地張ってんと仲直りしたらええのに」


ため息をついた僕に、亮は再び眉を寄せた。2人とも頑固やからな…。







「お前何食べるん」
『んー…ホットコーヒーでええかな』
「なんやねん、飯食わんの?」
『さっきサンドイッチ食べてん』
「なんで来てん」
『ソフトクリーム食べようかな。すばるも食べる?』
「ちょっと食べる」
「今日はすばるにべったりやな」
『そんなことないよ』
「名前カレー食べる?」
『んー...ひと口だけ』


朝、スタジオに着いた時から何をするにもくっ付いてきた名前。どうやら、マルが昨日言っていた「名前ちゃんの笑顔ここ数日見てへんなー」という言葉はくく数日前からの亮との様子を見ていると、喧嘩をしたようやった。それは珍しいことではないし、いつものことやと思っていたけど、今回は随分長引いてる気がした。くっ付いてきたからって特別何かをするわけではなくて、ただ単に一緒に居るだけ。俺からしたら別にくっ付いてくることには抵抗はなく、名前なら嫌ではない。お互い、何も言わなくてもなんとなく考えていることがわかるから、とりあえず黙って名前がついてくるのを受け入れていた。隣に居るのにいつもよりテンションは低い。笑顔も何となく無理矢理な感じもする。
楽屋に戻ってくると、マルと大倉はふざけて馬鹿笑いしてて、ヒナはスタッフと談笑、ヤスと亮はギターを鳴らしてた。空いている席に座ればやっぱり名前はくっついてきて、チラチラと斜め向かいに座る亮の目線が刺さる。


『すばる』
「ん?」
『眠くなってきた』
「寝るなら今のうちやぞ。今日遅なりそうな感じやから」
『んー、起こして』
「ん」


ゲームを開いてソファーに背中を預けていると、左肩に名前の頭が乗った。小さく聞こえる寝息に気がついたのか、ヤスが名前にブランケットをかけた。もちろんヤスの隣に座ってた亮もこの体制には気づいているわけで...きっと気にはなってるんやろうけど、寝ていることに気を使ったのか、ギターを置いて携帯をいじり始めた。



「大倉さんお元気ですか」
「名前寝てんねんからシー!」
「アイムソーリー」



大倉が井上陽水を黙らせると、名前の隣に座って頬っぺたを人差し指でツンツンしながら片手にはスマホを持ってカシャカシャと連写していて、それでも起きないんやから色々疲れてんねやろな。満足そうにマルのところに戻っていく大倉を横目で見ていると、左肩に乗った頭がゴソゴソと動いた。


『...りょぉ』


声なのか寝息なのかわからないような声で名前のくちから漏れた言葉は、耳元で聞いていた俺でも聞き取るのがやっとやった。でも確かに聞こえた。ヒナからは「まぁ倦怠期ってやつやな」とはきいていたけど、もうどうでもいいような態度をしながらしっかり頭の中は亮の事なんやなとわかった。それならさっさと仲直りしたらええのにめんどくさい。



「あれ、名前は?」
「すばるくんのとこ」
「あぁ、寝てんのか」
「起こす?」
「なんかヒロが呼んどったけど、急ぎやなさそうやから大丈夫やろ」



ヒナがずり落ちたブランケットを名前にかけ直すと、満足そうにその隣で本を開いた。


「名前昨日ヒナん家泊まったんやろ?」
「ああ、なんか帰られへんから泊めてくれ言うからな。よう知ってんな」
「さっき名前が言うてた。信ちゃん家めっちゃでかいねんでって」
「名前ちゃんが言うねんから相当なんや」
「デカないわ。こいつん家の方が全然デカいわ」
「私将来チイちゃんと一緒に住むかもしらんから仲良うなってきたとか、訳の分からんこと言うてたで」
「チイちゃん元気?」
「あぁ、元気元気。俺が貰ったろか言うたからちゃう」
「名前ちゃんと信ちゃん?」
「ありえへんな」
「なんでやねん、名前から言うてきてんからあるやろ。信ちゃん結婚しよ!て」
「えー、なんで俺には言うてくれへんのに」
「お前はないわ」
「何でよ!」


わざとなのか、たまに出る天然なのかはわからんけど、ヒナが亮に聞こえるような大きな声で昨日の出来事を話した。ここからは亮の背中しか見えへんけど、多分隣のヤスが小さく笑ってるってことは何かしら反応を示しているということだろう。


「まぁ、ご報告はおいおい」
「信ちゃん結構マジやん」
「家事もできるし飯も上手いし、恋人にしたい芸能人No1やで?ええやん、昔から知っとるし」
「まぁ、僕も名前ちゃんに、結婚しよ言われたら、ええかなって思うな」
「大倉なんか言われたらそのまま婚姻届もらいに行きそうやもんな」
「え、あかんの?」
「錦戸さん、安田さん、大倉さんお願いします」



亮とヤス、大倉が呼ばれて部屋から出ていった。急かすように言うたヒナの言葉が亮には届いたんやろか。


「お前寝たフリなんかせんと、今日はちゃんと帰れよ」
「えっ、」
『あー、バレてた』
「えっ、名前ちゃん起きてきたん!?」
「えー、やあらへんやろ。今日は誰も泊めへんで」
『すばるー』
「ちゃんと話してきなさい。そしたらいくらでも泊めたるわ。いつまでもこのままじゃあかんやろ」
『えー』
「お前が帰らんかったらいつ話すんねん。仕事場でする話ちゃうやろ」
『...ん』



俺とヒナの間でシュンとなる名前。でも、ほんまに早く解決してもらわな、仕事に支障が出るかもわからん。



『みんな、ごめんね』
「いつものことやろ」
「そろそろ慣れたわな」
「そうやな」



お前は笑っとかな。



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