INFINITY | ナノ


「女の子ってすごいよなー」
「なんで」


ライブの衣装合わせをしている時、マルがはボソッと名前の衣装を観ながら言った。ライブでは、女の子ということもあり遊びが一番入る名前の衣装。同じ素材の同じ柄でも、スカートだったりノースリーブだったり、チューブトップだったりと女の子らしい衣装になることも多い。ライブ中の着替えはいつも名前のだけ数着多かったりする。


「こんなアンバランスな靴でステージでるねんで?」
「お前には考えられへんやろな」
「無理無理」


もちろん、激しいダンス曲のときはフラットな靴を履くこともあるけど、踵が高い靴でステージを駆け回るのは男のマルからしたら信じられないことなのかもしれない。


「やって、見てこれ。何センチあるんこのヒール」
「これは6センチね。あっちは10センチ」
「10センチ!?」


名前の衣装も担当しているヒロちゃんがマルの質問に答えると、目玉が飛び出そうになるくらいに目を見開いた。


「足痛くならへんのかなー?」
「いっぱいマメとか靴擦れとかあるで」
「そうなん?」
「ライブ中は足絆創膏だらけやし、ホテル帰ってからはちゃんと湿布貼ったり温めたりしてケアしてる」
「やっぱそうなんやな」


名前の衣装ラックの下に並ぶ靴の中から10センチあるヒールを手に取ってマルが深く頷いた。


「ダンスもなかなか覚えられへんのに、ヒールなんか履いたらマル死ぬんちゃう?」
「名前ちゃんブリュレもヒールで踊るやん。いつも練習の時はスニーカーやのに、ライブではちゃんとヒールで踊ってる」
「マル知らんの?」


コーヒーを持ってどこからかやってきた横山くんが衣裳部屋の隅にあるソファーに座った。


「何が?」
「名前、仕事の合間ぬってスタジオ借りて練習してんねんで」
「え?」
「ヒールで踊る練習や」
「でもそれって、みんなでやってるときに一緒にやったらええんちゃうの?」
「毎回ライブ毎に違う靴履かなあかんから、毎回踊れるくらいまで慣れるのに時間かかんねんて」
「俺も一緒にやったらええやんって言うたんやけどな、自分が上手く踊れなくて、フリが進まんかったらあかんからって」
「すごいな…」
「アイツこの間、毎回スタジオ借りて練習するのめんどくさいからって隣の家が空き家になったから買ってスタジオ作ろうかな…なんて言ってたで」
「ほんまにアイツ…アホやな」
「なんぼ金持ちやねん。名前って同じグループよな?」
「あれだけ色んなとこ引っ張りだこならお金だって嫌でも入ってくるわよ。でも、そんなこともしようと思えるくらい真剣なのよ、あの子」
「マルも見習わなあかんな」
「ほんまやわ」


名前の靴を持ったまま、マルの口から大きなため息が出た。


「ヒールの形とか高さとか、違うと慣れるのも大変なんやろな」
「デザインも高さも、衣装とか曲に合わせて変えてるのよ。名前のこだわり。極力足への負担がないように名前の足形とってクッションも入れて」
「へー」
「名前、ようやってるで。マルガリータの時は高くて細めのヒールにして、照明に合うような紫にしたらかっこいいんちゃうかなと思うんやけどってよく相談されるで」
「ヒールの高さとか細さなんて、わからんやろと思ってしまうところやけど、ちゃんと細部にまでこだわって作ってんねんな。ほんまアイツは尊敬するわ」
「ほんまやな…」
『あー、肩こりがやばい…何してんの?』


トイレに行くと言って衣裳部屋から出ていた名前が肩をグルングルン回しながら戻ってきた。自分の衣装の前に来ると、マルが名前のハイヒールを持って何とも言えない顔をしているのに気づき一歩後退りをする。すると、いきなりマルが名前の手を両手でギュっと握った。


「名前ちゃん!!!」
『はい、なんでしょう。……丸山…さん?』
「俺、名前ちゃん大好き!」
『…え?ああ、ありがとう?』
「うん、尊敬してます!」
『え?そんけ…あっ、ありがとう…何これ?』
「素直に受け止めとけ」
『うん…?』



練習の成果
(隆ちゃん)
(ん?)
(その私の靴、そろそろ返してくれへん?)
(ああ、ごめん!)


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -