INFINITY | ナノ






※WORK2016にある「ほほえみデート」の続編です。先にご覧ください。




「はい、OKでーす」


ほほえみデートの収録がスタッフの掛け声とともに終わった。隣のソファーにすばる達と座っていた亮はというと、眉間に皺を寄せて自分が座っている小さいスペースに体育座りをしていた。私の隣に座っている忠義が、「また行こうな」なんて言うもんだから、更に皺が1つ増えたんじゃないかと思う。


「まあ亮、これも仕事やからな」
「わかってるよ」


亮の隣に座っていた信ちゃんが、亮の肩をポンと叩いてフォローを入れてくれた。甲斐くんに呼ばれて1番最後に楽屋に戻ると、ずっと不機嫌な彼はまた眉の間に何本もの皺を作りながら携帯をいじっていた。小さくため息をつけば、「ちゃんとフォローしたれよ、怒ってるであれ」と信ちゃんがコーヒーをすすりながら頭にポンポンと手を置いてくれた。それに答えるようにウンウンと頷くと、信ちゃんは次の仕事があるようで「お疲れさーん」と言いながら楽屋を出て行った。


甲斐「横がこれからロケだけど、すばると…それから安と丸は途中で下ろしていくから一緒に横の方の車乗って。名前と錦戸と大倉と横は撮影。車持ってくるから」


甲斐くんのインフォメーション通り、次の仕事は亮と忠義と一緒に雑誌の撮影がある。ってか何でこういう時に限って3人での撮影なのかとスケジュールを組んだ甲斐くんと雑誌社を恨む。こういう時にはどうしたらいいだろうか。こんな時、今までどうしていただろうかと脳内パソコンのフォルダをいっぱい開いてみた。週刊誌に他の男と撮られたり、メンバーと撮られたり、他の俳優さんや後輩とキスシーンをしたりして亮は毎度怒ってきたけど、いつもなら色んなところに当たり散らしている亮が一言も発せずにこんなにも静かにしているのは初めてだった。さあ、どうしてやろうか。もくもくとスマホをスクロールする亮の隣にそっと座った。


『亮』
「…」


無視された。このパターンは初めて過ぎて、どう対処したらいいのかがわからない。亮の頭越しに、章ちゃんがこちらをちらちら気にしながら着替えをしているのが見える。目が合うと、ウンウンと深く頷かれた。章ちゃん、頼む。助言をください。


『亮?』
「…」


また無視された。これは相当怒ってる。かといって、これをどうすればよかったのか。この仕事を持ってきたのはスタッフであって、私や忠義が企画したわけじゃない。どっちかといえば、章ちゃんの隣で雑誌をペラペラ捲っている眼鏡の色白男だ。


『亮』
「何」

ソファーに座って、膝に肘を置いて前かがみでスマホをいじっていた亮が、声をかけると背もたれにドンと背中を預けながら、まだ目線はスマホへと向いている。ジッと亮の顔を見ても、こっちを見てくれる気配は1ミリもない。


『怒ってる?』
「何に」
『さっきのデート』
「デートの何に怒るねん」
『亮の話やめたりとか…温泉入る時とか』
「そんで」
『そんで…?』
「それでなんやねん」
『それでって…』


この返しも初めてだ。いつもなら拗ねるか怒鳴るか、問い詰めてくるかだから静めたりしてなんとか仲直りしてきた。何て答えようか考えていると、帽子を被りながらさっきと同じように心配そうな顔を向けている章ちゃんの隣で、最近ちょっと痩せてピタッとした服着たい症候群の男がクスクスと口元を抑えながら笑っていた。なんやアイツ。根本的なところを言えば、この企画したのアンタやろ。ってかこの組み合わせ考えたんもアンタちゃうんか。何笑ってんねん色白眼鏡野郎。ギッと睨んでやると、眼鏡を直すふりをしながら楽屋から出て行った。


甲斐「車用意できたから乗って」


亮とやっと話ができると思ったところで、甲斐くんが移動の準備ができたからと呼びに来た。甲斐くんの声を聞くと、亮は隣に置いてあったバッグを持ってサッサと楽屋を出て行った。


「名前」
『わからん。静かな亮なんて初めて過ぎて…』
「大丈夫やって。亮も仕事やってちゃんとわかってるよ。亮の気持ちもわかるけどなー、仕事やからな。大丈夫」
『うん』


車に乗る前に、別車に乗って今日はもう帰宅だという章ちゃんが背中にポンポンと手を添えてくれた。今回の移動者はいつも私が使っている黒いワゴン車。乗り込んでみると、奥の座席には忠義。前の席には亮が座っていた。ここで忠義の隣に座るわけにはいかないと思って亮の隣の席を見てみると、ギターと一緒に荷物が置かれている。空いている席はというと、忠義の隣しかなかった。


「髪色変えようと思うねんなー。何色がいいと思う?」
『自分の好きな色にしたらええやん』
「名前も一緒に染めようや」
『染めへんよ』
「えー、なんでなん。赤っぽくする?それとも栗色っぽくする?でもやっぱりあったかくなってくるから金髪かな?」
『染めへんって』
「仕事?ドラマ終わったしええやん」
『今この色気に入ってんの』


別に髪色を変えるのは別にかわまない。でも、ここで「いいよ」なんて言ったら斜め前に座るあの人は、もっとご機嫌が悪くなることは目に見えてるんだ。車に乗って20分後、スタジオに到着するとまたそそくさと中に入って行っしまった。


「亮ちゃんまだ怒ってるん?」
『見ればわかるやん。なんにも喋らへん』
「仕事なんやから仕方ないやん」
『でも亮の気持ちもわかるねん。同じ事されたら私だって嫌やし』
「そうやけど...」
『髪型はまた落ち着いてからね』
「うん」


スタジオに入って早速撮影が始まると、亮だってプロだ。笑顔満点でカメラマンの要求に答えていた。忠義はと言えば、亮が機嫌が悪いのを分かっていながら、今日はいつもうるさいのが静かなのをいい事に私に必要以上にくっついてくる。コイツは...なんや、別れさせたいんか。
帰りの車の中、同じ場所に帰るんだからもちろん亮も一緒だった。車内は甲斐くんとスケジュール確認をする以外は、ずっと制作中のアルバムデモの音だけが流れ続けている。



『ありがとう甲斐くん』
「名前も錦戸も明日10時な。お疲れ」
『お疲れ様』
「お疲れ様」


甲斐くんと挨拶をして家へと帰った。オートロックの解除も、エレベーターでも、家の鍵を開ける時も一言も発せず。廊下を抜けてリビングに入ると、それまで私のことを避けるようだった亮の手が背中から回された。


『亮?』
「何してんのお前」
『え?』
「あんなん見せられたらどうしたらええねん俺」
『亮...』
「見た無い、あんなの」
『そうやんな、私もやり過ぎた。ごめんね』


肩に顔を埋めるもんだから、きっちりセットされていない髪が擽ったい。


「俺の話したってええやん」
『うん』
「温泉もちゃんと水着着ろ」
『うん』
「脚の間になんか座らんでもええやろ」
『うん』
「仕事なんやから、あんなんで怒るなよって思うかもしらんけど、あんなんで怒るほど好きやねん」
『うん』
「何大倉とイチャついて喜んでんねん」
『…うん』
「出来るの俺だけやろ」
『うん…』
「苦しくてしゃあなかった」
『うん…ごめんね、亮』
「…ああ、俺、あかんな」
『え?』
「こんなことで毎回頭抱えて、うじうじ言うて…」


ついさっきまで、忠義とのこといろいろ言うてたのに、急に反省しだした肩に顔をうずめたままの亮の声に驚いた。でも、それがなんだか可愛くて小さく笑った。


「…なんやんねん」
『なんか、亮かわいい』
「可愛ないし」
『かわいい』
「お前悪いと思ってへんやろ」
『思ってるよ』
「…笑ったやん」
『だって…』
「だって?」
『…亮が妬いてくれて嬉しかったから』
「ほんまに?」
『うん。それくらい、私のこと好きってことやろ?』
「うん…」
『実際、私も他の人と亮があんなことしてたら、妬かんはずないもん。亮よりも、もっと拗ねるかも。仕事ほったらかして、家で泣いてるかもしらん』
「お前が仕事ほったらかすとかありえへん」
『わからへんよそんなの。その時になってみないと』


後ろから回されている手をほどいて、身体を返すと、やっときちんと亮の顔が見えた。目にかかっていた髪を指で避けると、タレ目が更に下に下がり、しっかりした眉も目と一緒に八の字になっていた。亮の首に手を回すと、亮の手がまた腰


『亮、ごめんね?』
「…」
『忠義と仕事やからあんなことしたけど、私がああいうことしたいと思うのは、亮だけやで』
「うん…」
『だってな、亮のこと大好きやねん』
「俺も、好き」
『好き?』
「うん、好き」
『好きだけ?』
「大好き」
『やだ、もっと』
「愛してるよ、名前」
『私も、愛してる』


いつも亮からしてくれるキスも、今日は"ごめんね"の意味も込めて私からリップ音を響かせた。


『亮』
「ん?」
『一緒にお風呂、入らへん?』
「ふふっ、行くで」


正直、めんどくさいなと思うこともある。でも、これが私たちの愛情表現なのかもしれない。嬉しいとおもってしまう私も、もしかしたらおかしいのかもしれないけど…。周りには呆れられるけど、仕方ないよね、亮。明日の朝は、とびっきり美味しいご飯を用意して、一緒にアサイージュースを作ろう。おいしいねって笑いながら、甲斐くんが迎えに来る時間まで亮とゆっくりしよう。


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