INFINITY | ナノ





「よーい、スタート」



私がやっている仕事は、スケジュールはあってもその通りに終わる事なんてなかなかない。



「ok!」



ドラマや映画の撮影は、監督の納得が行くまで続けられる。



「チェックしまーす」



甲斐くんが持つ私のバッグの中で何度も携帯が着信を知らせている事が彼の目線でわかる。




「んー、福士くんもうちょっと感情的になれる?」



バッグを少しだけ開いて、画面に表示される名前を確認したのか甲斐くんが眉間に皺を作っていた。



『はい』



時計の針はもう日付が変わる15分前



「TAKE10よーい、スタート」



予定があるのですみません帰ります、なんてことはできなくて



「はい、ok」



人を待たせることはしょっちゅうだ。



「チェックしまーす」



きっと甲斐くんの眉を寄せさせているのは、先に仕事が休みの寂しがりやのうさぎさんで



「んー、いいんじゃない?」




何度も携帯を振るわせるのは、今日は絶対早く帰ってこいと言われていたからだ。



「okです!お疲れ様でした」



甲斐くんの元へと高いヒールを少しだけ早めにコツコツと鳴らすと、携帯が飛んできた。



「うるさい」


『ごめん』



溜息が混じる甲斐くんに申し訳なく笑いながら携帯をみると、やっぱりメールの相手はうさぎさんだった。



「名前ちゃん、遅くなっちゃったけど明日もよろしくね。お疲れ様」


『監督、お疲れ様です』



今日のロケは外で、真冬ということもあって凍えるような寒さだった。甲斐くんからコートを受け取って、スタッフさんが持ってきてくれたコーヒーをすする。




「帰り1時間はかかるな」

『甲斐くん帰ったら2時やね、ごめんね』

「お前がNG出したわけじゃないだろ」

『まぁそうなんだけど』




スタッフさん達が機材を片付けている中を通って凍りそうな手を擦りながら車に戻ろうとした時、見覚えのある車がハザードランプをつけて道端に止まっていた。



『あ...』

「あ?どうした?」

『あれ』

「何してんだあいつ」

『何してんだろうね。私あれ乗って帰らなきゃいけないみたいだから、甲斐くん直帰して。少しでも早く帰れるでしょ』

「あいつにメールうるせぇって言っとけよ」

『うん、わかった。じゃあ、お疲れ様』

「お疲れ、明日12時な」

『うん』




呆れている甲斐くんに手を振って、チカチカと点滅を繰り返す車に近づく。運転席で携帯と睨めっこしてる亮がいて、コンコンと窓をノックしてみると車のドアロックを開けてくれた。




『何をされているんですか?錦戸さん』

「迎え来た」

『こんな時間に?』

「暇やし」

『ふふっ、ありがとう』



ハンドルに腕を置いて、前を見ながら照れたように話す亮がかわいい。



『ごめんね、今日約束してたのにこんな時間になっちゃって』

「ええよ」

『怒ってる?』

「怒ってへんよ」



きっと、せっかちな亮だからイライラしたり、携帯を見ながら溜息をついたりしただろう。



『何か食べた?』

「食うてへん」

『スーパー、寄ってくれる?』

「今からなんか作んの?」

『うん、だってお腹すいたやろ?亮待っててくれたんやろ?こんな時間まで』

「1人で食べても美味ないし」

『亮かわい』

「アホ」

『亮ーっ!』

「うわっ、アホ!運転中に抱きついたら危ないやろ!」

『好きだよ、亮』

「なんやねん、急に」

『なんとなーく、やっぱり好きだなって』

「珍しいな」

『私だって、そういうこともあるよ』



目の前の信号が赤に変わって車が止まる。同時に亮の左手が助手席の肩に置かれて覗き込むように唇が重なった。




「俺も、好きやで」

『お弁当、買って帰ろっか』

「ええな」





やっぱりキミが好き


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