short | ナノ


愛しいと言う感情がこんなにも重くて、相手を苦しめるものだなんて今までは想像もつかなかった。
幸せを運んでくれる感情であると信じ切っていた青いあの頃の俺。


「…迷惑、なの」


愛しい君の形の良い唇から紡がれた言葉は、俺が期待していたような甘いそれではなく。
何も考える事が出来なくなった空っぽの俺の脳内に、どこまで続くのか解らないほど長い間、そのたった一言が木霊した。


「…え」


長い長い沈黙の後、俺の口から出てきた声は情けないほど擦れた、蚊の鳴くようなか細い声。
言葉を探すように宙を仰いでも、目に映るのは白い雲ばかり。
俺の気持ちと裏腹に、晴れやかな青空が広がっていた。


「迷惑なの…」


絞り出すかのように繰り返された、刃物ほどの威力がある一言。
眩暈がした。


「…迷惑?」


自分でも少し驚くほどの、さっきとは似ても似つかない不機嫌そうで、低く唸るような声が出る。
君は少し戸惑うように狼狽えてから、意を決したように顔をあげて真っ直ぐ俺を見つめた。


「…私、他に好きな人がいるの」


だからあなたの気持ちには答えれない。
申し訳なさそうに君は俯きながらぽつりと呟く。
でも、語調ははっきりとしていて。
君の想いの強さを物語っているような、強い瞳は真っ直ぐ俺を映し出していた。


「…そ、か。」


呟いて、不思議なくらいに冷静だった。
ぼんやりとしていた頭が、少しずつ動きだす。

愛が邪魔なものにならないなんて、幻想だ。
自分が思ってもいない相手から押しつけられる愛なんて、重荷以外の何物でもない。
俺の愛は、君にとっては無用で重荷だ。


「…告白、したの?」
「…まだ…」
「…そう、頑張れよ」
「うん…」


当たり障りのない会話。
ありがとう、とか。
ごめん、とか。
そんな会話では最後を飾りたくない。
決して簡単に諦められるなんて思ってないけど、せめて去り際くらいかっこつけて君の記憶に残りたいって言うのは、ちょっとした俺のエゴだ。


君の幸せを、
(願ってるから身を引くってのももしかしたら俺のエゴ)




20120429


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