short | ナノ
歯車が噛み合わなくなった。と言う表現が一番正しい。
幼なじみのあの子は、高校に上がるまでずっと、俺の後ろにくっついて。
俺がいないと何も出来なくて、昔から泣き虫で、どれだけクラスが離れていても困ったら必ず俺の元に来てた。
そんなあの子が。
「あのね、好きな人、出来たの」
恥じらうように長い睫毛をパチパチと瞬かせながら、そう告げたのは木枯らしが吹き始めた秋の日。
夕日に照らされたあの子が、赤く頬を染めて笑い掛ける。
「ヒーローみたいな人」
そうか。って返事をした自分の声が、擦れていて喉がカラカラだったのを覚えている。
小さな時の口約束。
ずっと守ってあげると指切りをしたあの日。
君は覚えているのだろうか?
幼い日の俺の事を"まるでヒーローみたい"と誉め讃えたこと。
キラキラした眼差しで俺を見つめて、"困った時にすぐ駆け付けてくれるんだね"と笑ったこと。
全ては過去の思い出でしかなく。
きっと君は覚えてすらいない。
けど、それでも良い。
これは俺の幸せな、甘酸っぱい大切な思い出。
お役ご免のヒーローは、
(次は君を見守る事にしたよ。)
20120327