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私を一言で表現するなら"鈍い"らしい。
それはもう、あらゆる物事に関して。
当事者の私は別段そんなつもりもないのだけど、親友曰く『他人の感情にも疎いが、自分の事のくせに気付かない事が多々ある。』
…だそうです。


「まあ、俺は慣れてるからあんまり思わないけど、他人から見たら結構ひどいかもな。」


そう言って笑いながら、私の目の前の席に腰掛けるのは幼なじみ。
私とは不釣り合いなくらい、ルックスも中身も兼ね備えたパーフェクトな男の子。
ちなみに、すごく優しい。


「そうかなあ…」

「そうだよ」

「うっ」


普段はあまり私に苦言を呈さない彼が、語気を強めたので私は言葉を詰まらせた。
そんな私を見て少し悲しそうに眉を下げた彼は、怒ってないよ、ごめん、と呟いて私の頭を撫でる。

昔から私を慰めたりする時のこの彼の癖が、今日は何故か違和感を覚えた。
違う、違和感と言うほど大層なモノではないけど、こう、胸の奥で小さな石がつっかえる感じ。

とにかく、彼が何故少し表情を歪めたのか。
私には知る由もない。


「…今日さ、」

「ん?」


しばらく黙っていた彼が、ゆっくりと、何故か言いにくそうに口を開いた。


「一緒に帰れない、って言ったら…どうする?」

「ん?用事?」

「…が、出来るかもしれない。」

「かもしれない?じゃあ用事じゃないの?」

「さあ?お前次第。」


じっ、と見つめられて、思わず首を竦めたのは、いつになく押しが強い幼なじみに驚いたからだ。

用事かもしれないし、そうじゃないかもしれない。
もしかして、高校生にもなって毎日幼なじみと登下校しているのが恥ずかしくなったけど、優しい彼の事だから断る方法が見付からなくて、こんな不可解な事を口走っているんだろうか。


「別に、仕方ないしいいんじゃない?私とはいつでも帰ってるし」

「…そ、か」


何故か寂しそうに笑いながら肩を落とした彼に、首を傾げてどうしたの、と聞いても、お前は知らなくていいよ、俺の問題だから。と返された。
優しい彼の事だから私を気遣って余計な心配をさせまい、との行動だろうけど、何だか見えない壁を作られたみたいだ。
チクリ、少しだけ胸が痛んだ。
ほんの、少しだけ。


「じゃ、俺自分のクラス戻るよ」

「うん、また明日」


昼休みも終わりかけ。
カタリ、いつものように席を立った彼。
見送ろうとしたら、彼の名前を呼ぶ女の子の声。
見たら知らない子がいた。


「今日、一緒に帰れそう?」


可愛らしい声で、幼なじみに問い掛けてくる。
ああ、用事ってこの事だったのかなってぼんやり考えた。

チラ、と彼女が私に視線を送る。
それはそれは鋭い視線で。
いくら鈍い私でも、それが私に向けられた敵意だって事くらいわかる。
私はどうしたら良いかわからなくて、少しだけ後退りした。


「あー…」


珍しく言葉を濁した彼が困ったように笑っている。
私はと言うと、少しだけ頭の中で想像をしていた。
彼の隣で肩を並べて帰り道を歩く、私じゃない、女の子。

ああ、何か…。



「…え、」


頭の上で彼の不思議そうな声がした。
チクリ、感じた胸の違和感の正体。
頭で理解するよりも先に、動き出した私の体。
ぎゅっと、握り締めたのは幼なじみのセーターの裾。
私の自惚れでなければ、君のこの不可解な行動の正体は、私のこの胸の奥の違和感の正体は。

ああ、私今どんな顔してるかな。




不可解と違和感の正体
(握った裾から、伝われ私の想い)



ゆっくり顔をあげると、幼なじみの彼がこちらを見て嬉しそうに微笑んでいた。

ああ、よかった。
伝わった。





20130205


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