short | ナノ




「昨日メールでね、」

「おー」

「先輩ったら可笑しくって」

「へー」

「思わず大笑いしちゃった」

「良かったな」

「…ねえ、」


昼休みの教室は、1日の中で1番騒がしい。
誰かの笑い声、手を叩く音、スピーカーから聞こえる最近人気のバンドの音楽、廊下を走る足音。
何を取っても騒がしい。


「何?」


目の前にいる彼女は、つい最近仲良くなった。
と言っても、俺はもっと前から彼女を知っていたんだけど。


「私の話聞いてた?」


ぷく、と不貞腐れたように頬を膨らます彼女は、その行動と容姿とが相まって実際の年齢より幾らか幼く見える。
そんな様子を見て薄ら笑みを浮かべながら、俺は手元にあったコーヒー牛乳を流し込んだ。
聞いてたよ、と返すと彼女は不信そうに口を尖らす。


「うそ、聞いてなかったでしょ」

「聞いてたって」

「じゃあ何の話してた?」

「先輩の話」

「む…」


残念そうに口をつぐんだ彼女を横目に、くすりと笑みを零した。
本当は話なんて聞いてなかったよ。
でも、君が俺に話すような事と言えば1つしかないだろ?
なんて、心の中で呟いたりして。
君はそんな自分の癖には気付かずに、一生懸命俺に向かって話しているんだろう。


「聞いてたなら良いけど…」


不満気にそう言った彼女の視線がふと、騒がしい廊下に注がれた。
つられて俺も視線を辿る。

視線の先が何かって?
そんな野暮な事は言いたくない。


「…ねえ、」


騒がしい教室の中に吸い込まれて、今にも消えてしまいそうなくらい、とてもか細い声で彼女はぼそっと呟いた。


「私バカだよねえ」


視線は依然、廊下に注がれたまま。
横顔からは彼女の表情を掴み切れないが、呟いた語尾が微かに震えていた。


「…さあ?」


その言葉が何を意味しているかは重々承知している。
だけど、俺は真剣に取り合う気にはならずただ一言曖昧な返事をしてから、パンを一口噛った。
ふと視線を感じて顔を上げると、何か物申したげな顔の彼女と視線がかち合う。
彼女は少し苦々しげに笑った。


「適当だなあ」

「そりゃどーも」

「…褒めてないよ」


正面から捉えた彼女の顔は、少し寂しげだった。
俺はそれに気付かない振りをする。


「…叶わない恋って辛い…」

「そーだな、」


そして、彼女の言葉の真意にも気付かない振りをする。



好きになってくれたらいいのに
(俺の気持ちにも蓋をして)


私の気持ちはわからないなんて言うなよ。
多分、お互い様だよ。




20130124


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