short | ナノ




友達である君に恋をしてしまった。


「ねっ、明日の放課後ここのスイーツ食べに行かない?」

「最近開店したとこの?」

「そうそう」


カラフルなケーキの写真で彩られたチラシをバッと指差し、満面の笑みで頷く彼女は俺の大事な大事な友達だ。


「今人多いんでないの。」

「だから、授業さぼって行こうではないか!」

「ばーか」

「むう…」



当然の事ながら、彼女はこの俺の気持ちなど少しも知らない。
臆病な俺は関係を壊す事が怖くて、一歩も踏み出せなかった。

俺の冷たい一言に頬を膨らませた彼女は、名残惜しそうに手に持ったチラシを見つめる。
その姿はさながら、駄々をこねる子供だ。
お子様だな、と小さく呟いて笑った。
まあ、そんなとこが好きなんだけどさ。


「…行かないとは言ってないけど?」


俺のその一言に、彼女ははち切れんばかりの笑顔。
甘すぎだろ、俺。
惚れた弱みって奴ね、と心の中で自分に毒づいた。

俺の行動の理由は単純だ。
彼女の笑顔が見たいから、一緒にいる時間が増えるから。
だから彼女の要求を呑む。

優しいね、と彼女は言うが、誰にでもそう言う訳じゃない。
君だから、一緒にいたいから。
優しい俺を演じるんだ。

そうでもしないと、俺は彼女を、



繋ぎ止める事も出来ない。




「て言うかお前さ、」

「あっ!」


話しかけた俺の声を遮る彼女の弾むような声と、俺といる時には見せた事もないような笑顔。
目の前にいる彼女の瞳に、俺は写っていない。
視線の先には違う男。
駆けていこうとする彼女。
思わず、手を伸ばした。


「どうしたの?」


振り返る彼女の、訝しげな表情。
やっと瞳に俺を写してくれても、ああ、俺にはあんな笑顔を作らせてあげれない。
悔しくて、彼女にバレないように少しだけ、唇を噛み締めた。


「……」


本当はこの腕の中に閉じ込めてしまいたい。
アイツのとこなんて行くなよ、
そう言いたい衝動を抑えて、ぐっ、と彼女を引き寄せたらそっと耳元で囁く。
それは、俺をたちまち"良い奴"にする言葉。


「俺じゃなくて、彼氏誘ってけば」

「えっ」

「頑張れ〜」


いつものように笑顔で彼女の背中を押す。
それでも心の中はぐちゃぐちゃだ。
握っていた彼女の指先がゆっくり離れた。
ああ、出来たらこっちは振り返らないで欲しい。




君を繋ぎ止めたい
(けど、俺にはこれが精一杯)



20121211





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