※もしも○○が家庭教師だったら
 〜Ver.幸村精市〜


「こんな簡単な問題も解けないわけ?」

「幸村せんせー、数学は諦めて国語しようよ、国語」

「10分前に英語から数学にしたばかりじゃないか。あと、幸村せんせーじゃなくって、幸村先生だろ」

「幸村せんせー」

「はぁ。馬鹿な子ほど可愛いって言うけれど、お前の場合は可愛いを通り越している」

「えへへ」

「今のどこに照れる要素があったのかい?」


大学生になってから、アルバイトとして彼女の家庭教師をしている。最初は落ち着いていて物静かな子なのかと思っていた。だけど、いざ教えてみると彼女の脳みそは小学生のときに成長を止めてしまったらしい。いや、幼稚園のときにかもしれない。まず、かけ算が出来るかどうか怪しい。いや、引き算すらも怪しいかもしれない。この前やっと九九の9の段を覚えた。それまではうろ覚えだった彼女。今までどうやって生きてきたのだろうか。


「ほら、あとここの問題だけなんだから解きなよ」

「び、ぶ、ん、と、せ、き、ぶ、ん、」

「…うん、よく読めたね」

「でしょー?」


…笑わないでやってくれないか?彼女にとってはすごいことなんだ。二次関数の関数の部分を読むことが出来なかった彼女が、微分と積分は読めたんだ…!これはもう、拍手をしてやってもいいのかもしれない。


「幸村せんせー!」

「なんだい?」

「びっぶん!せきぶ〜ん!いい気分〜♪」

「…は?」

「セ○ンイレ○ンの歌に合わせて歌うとピッタリだよねー」

「………そうだね」


…耐えるんだ。今は、耐えるしかない!!彼女は誉められれば伸びるタイプだ。つまり、怒られると伸びない。これは俺が最近見つけた法則。その日から、俺はなるべく彼女を怒らないようにしている。大丈夫だ、まだ許せる。日本史の関ヶ原の戦いで勝った人物が答えられなかったときは、本気で家庭教師を辞めてしまおうかと思った。


「幸村せんせーって、彼女いるのー?」

「またその質問かい?」

「だって気になる」

「お前がテストで60点以上取ったら教えてあげるよ」


気になっているところ悪いけど、俺には彼女がいない。別に作ろうと思えばいつでも作れる。だけど何となくその気になれなくて、現在まで至ってしまった。俺が彼女の家庭教師になった次の日から、彼女はこうして毎日俺に聞いてくる。別に教えてもいいけれど、なぜかその時には教えなかった。そんな気分じゃなかったんだ。その気分が今もずるずると引きずられている。


「せんせー、気になって勉強出来ませーん」

「せんせー、じゃなくって先生だ」

「ふぁーい」


…まったく分かっていないであろう返事に、思わずため息がこぼれる。これから先、本当に彼女は大丈夫なのだろうか?簡単な詐欺にも引っかかってしまいそうだ。意味が分からないうちに、水商売に誘われてそのまま…。十分にありえる。どうやって彼女は高校に合格したんだろうか?


「せんせー」

「はいはい」

「いつもありがとー」

「はいはい」

「この問題解けたら、あたしと付き合ってくれる?」

「はいはい…って、はぁ!?」

「じゃあ、これ」


そう言って彼女から渡された解答用紙の解答は全てパーフェクトだった。いや、まさか。最後の問題なんか、俺でも解くのには時間がかかる。それをこの短時間で…!?解答用紙から見上げた彼女の顔は、今までに見たことがない笑顔で笑っていた。


「これからよろしくね?精市」

「は、ははははは…」


どうやら、俺は彼女に騙されていたようだ。







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12/08/06


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