※もしも○○が家庭教師だったら
 〜Ver.不知火一樹〜


「今日は日頃の息抜きに天体観測に行くぞ!」

「先生、明日はテストです。勉強させて下さい」

「そんなこと言うなって!今のお前の成績だったら、明日のテストは余裕だろ?」

「テスト勉強は大切です」

「相変わらずクールというか、お堅いというか…とにかく!今日の勉強はなしだ」


…本当にこの人はあたしの家庭教師なのだろうか?不知火一樹、19歳。この人があたしの家庭教師になったのは3ヶ月前。最初の頃は、こんなに若い先生で大丈夫なのかな…って思っていたけれど、今は、こんなに強引な先生で大丈夫なのかな、と思う。


「車は俺が出してやるから、な?」

「…はい」


本当に大丈夫かなって思うけれど、あたしはこの先生に弱い。なぜなら、一目惚れしてしまったから。初めて会ったとき、あたしが今まで会ってきた男の人の中では比べものにならないくらいかっこいいと思った。それからは家庭教師の日のたびに、胸がそわそわして落ち着かなかった。


「じゃあ、あと10分したら出発するぞ!準備しとけよ」

「分かりました」


先生が部屋を出て、すぐに顔がゆるんでしまった。ポーカーフェイス、クール…それがあたしを取り巻くイメージ。でも、本当はあたしだって嬉しかったら笑うし、悲しいことがあったら泣く。だけど、先生の前ではどうしてもポーカーフェイスになってしまう。それに、緊張してそっけない態度になってしまう。


「お、準備出来たな」

「まさか、親にも許可を取っているなんて思いませんでした」

「当たり前だろ。よっし、行くか!」


ブロロロッと車が発進する。先生には少し似合わないゆったりとした音楽が車内を流れている。そういえば、先生の車に乗るのは初めてかも。チラッと運転席の先生を見れば、眼鏡をかけていて、いつもより真剣な顔をして運転している。…そんな先生がかっこよくて思わず見とれてしまった。


「どうした?俺に見とれてんのか?」

「ち、違います!」


慌てて先生から目をそらし、うつむく。先生は、冗談だよと言って笑った。しばらくの間無言の2人。でも、なぜかそれが気まずくない。むしろ、心地良い。このまま、ずっと先生と2人っきりでいれたら…なんて叶わない夢を願ってしまう。


「着いたぞ」

「はい」


着いたのは、街の小高い丘にある小さな公園。ここに来たのはもしかしたら、小学生ぶりかもしれない。誰もいない公園のブランコが、風に押されてゆっくりと揺れている。


「ほら、上を見てみろよ」

「わぁ…!」


空を見上げると一面の星空。なんていうか…星の海みたい。途切れることなく続く星空が地球を包み込んでいる。普段、星空なんて見上げないあたしにとって、ここから見る景色はとても新鮮だった。


「どうだ?すごいだろ」

「本当にすごいです!夢みたい」

「…やっと、笑ったな」

「え?」

「お前、あまり俺の前では笑わないだろ。なんとか笑わしたいって思ってたんだよな。あと、テスト前の息抜きに」


なんとか笑わしたい…って、あたしが普段は笑っていない人みたいじゃん。でも、これがきっかけで先生の前だけ限定のポーカーフェイスがなくなったらいいな。先生の前で、もっと笑ったりしたい。そしていつか先生に伝えたい想いがある。


「ここは俺の秘密のスポットだから、誰にも言うなよ?」

「あたしに言ってよかったんですか?」

「バーカ、お前だから言ったんだよ」

「………?」

「察しろ」


そう言って背を向けてしまった先生。ねぇ先生、期待してもいいですか?暗くてはっきりと顔色が分からないけど、なんとなく赤くなっているのが分かる。そんな先生の背中にあたしは思いっきり飛びついた。







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12/07/07


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