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プールサイドへ上がると、ぐっしょりと濡れた制服のせいでなんとも言えない不快感が生まれた。

水の中にいたときはまだ衣服が肌に纏わりつくということがなかったから良かったものの、こうしてみると気持ち悪いな…。それに、このままの恰好では中庭に戻ろうにも戻れない。

名前は、これが分かっていた上でプールに飛び込んだのか…?

「濡れちゃったね」
「濡れちゃったねって…この後どうするつもりだったんだ?」
「んー。一樹が何とかしてくれると思って」
「あのなぁ…」

とりあえず、このままではいられない。特に、名前はシャツが濡れているせいで下に着ているものが透けている。キャミソールを着ているからまだいいものの、それでもこの姿を他の男には見せれない。

だったら、生徒会室に置いてある予備のジャージに着替えるのが一番だな…。

「ほら、生徒会室に行くぞ」
「どうして?」
「予備のジャージがある。それに、タオルもあるからな」

俺がそう言えば、名前は「生徒会室に住めそうね」と言って笑った。ったく、呑気に笑ってんじゃねーよ。

俺は、お前のその姿を直視できないっていうのに。

中学生のときとは違う、大人に成長したその身体。ああ、やばい。さっきプールの中で抱きしめたときの感触が、まだ手に残ってるんだ。また、名前のことを抱きしめたくなる。

「…さっさと行くぞ」
「はーい」

溢れ出る想いを抑えるために、手の平で顔を抑える。そして小さなため息を吐けば、少しだけ気持ちが落ち着いた。

それから俺たちは、生徒会室に予備のジャージとタオルを取りに向かった。生徒会室に着き、棚にしまってあったタオルを取って名前に渡す。それにしても、女子用の予備のジャージなんて生徒会室にあったか…?

案の定、生徒会室にあったのは男子用のジャージだけだった。

「これしかねぇな…」
「いいよ。裾折って使うから」
「悪いな」
「ううん。貸してくれて、ありがとう」
「んじゃ、俺はあっち向いて着替えるから、お前もさっさと着替えろ」

そう言って俺は、名前に背を向けた。俺たちが昔どんな関係であれ、流石にこうするのは当たり前だろ。

はぁー…とにかく、このままこいつと二人きりでいるのはマズい。さっさと着替えて、みんなのいる中庭に戻ろう。

そう考え、俺は急いで濡れたシャツを脱いだ。
あーあ、ぐっしょりじゃねーか。

そして濡れたシャツを床に置き、ジャージに袖を通そうとしたときだった。

「っ…!?どう、したんだ…?」
「………。」

俺にしがみつくようにして、後ろから抱き着いてきた名前。もうすでにジャージに着替えたのか、上着に付いているジッパーの金具が当たって少し冷たい。

というか、どうして名前は俺に抱き着いているんだ…!?

名前に抱き着かれているせいで、早くなっていく鼓動。もしかしたら、この鼓動の速さは名前に伝わっているかもしれない。だが、それ以外にも鼓動が一つ。これは、名前の鼓動か…?

俺と同じくらいの速さで脈打つ鼓動。それは紛れもなく、名前の鼓動だった。

「…一樹はやっぱり、昔と変わったね。逞しくなった」
「なんだよ、急に…」
「きっと、この学園のみんながこの背中を頼りにしている」
「………。」

それは俺が、この学園の生徒会長だから言うのか。それとも、お前にとって俺が頼れる存在だから言ってくれるのか。

…後者だったら、いいのに。そう思う俺は、生徒会長失格なのだろうか。だが、好きな女に頼られたいと思うのは、当然だろう?

「昔は、私だけのものだったのに…」
「名前…?」

今にも消えそうな声で、そう呟いた名前。その言葉に、俺は耳を疑った。

…名前は今、何て言ったんだ?だってまさか、こいつの口からそんなことが聞けるなんて思いもしなかった。っ…なぁ、お前は今、何を考えているんだ?俺のことを、どう思っているんだ?

「なーんてね。隙あり」
「なっ…!?」

その瞬間、背中にかすかな痛みを感じた。それは前に、名前が俺の首筋にキスをしたときに感じた痛み。

だったらきっと、俺の背中にはあのときのように赤い痕があるのだろう。

「それじゃあ、ジャージありがとうね」

そして名前は、俺から離れる。それと同時に俺が振り返れば、名前は脱いだ制服を持って生徒会室から出ていくところだった。

このまま、あいつを見送っていいのか?
それだと、今までの繰り返しになるんじゃ…。

駄目だ。俺は決めたんだ。名前に自分の気持ちを伝えると。そして、前に進むと。だったら、同じことを繰り返してはいられない。

そして俺は、名前の腕に手を伸ばした。

「っ…!な、に?」
「やっぱり、俺はお前を諦めることなんてできない。俺たちの関係を、終わりになんてしたくないんだ」
「一樹…」

目を見開いて、驚いた顔を見せた名前。だけど、俺の口が止まることはない。ただ真っすぐに名前を見て、ずっと胸に秘めていた想いを伝えた。

「だから、決めた」
「なに、を?」

唇が、震える。喉が渇いて、張り付く。
それでも、伝えたい。

「お前がもう一度俺を見てくれるように、俺に惚れさせる」

お前がどれだけ俺から逃げようと、俺はお前を離す気はさらさらない。中学生のときから、ずっと好きなんだ。諦められるわけがないだろう?

俺の心を救ってくれたのは、名前、お前だ。だからもし今、お前の心が救いを求めているのなら、俺が救いたい。俺にしてやれることがあるのなら、なんだってしてやりたい。

だから…。

「………。」
「だから、覚悟しとけよ」

そう言って、俺は名前の腕を離した。そうすれば、名前は小さく「バカ」とだけ呟いて生徒会室から出て行く。

今度こそ、俺はその後ろ姿を見送った。


20150822 title by リラン

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