:: -deep love- | ナノ


私と、そして私を囲む男の人たちを見て、ただただ妖艶に微笑む名前先輩。その姿はまるで、一輪の赤い薔薇のように美しかった。

名前先輩が来てくれたことは、素直に嬉しい。だけど、このままでは私のせいで先輩まで巻き込んでしまう。だからこそ、先輩に「逃げてください」と目で合図を送った。

だけど、私の合図に先輩は静かに首を振る。そして、コツコツと高いヒールの音を鳴らして、私たちの方へ近づいてきた。

「名前先輩…!」

私が先輩の名を呼ぶと、先輩はさっきまでの妖艶な微笑みではなく、優しい笑顔で笑いかけてくれた。

そして、私を囲む三人の男の人たちの顔を見ると、その優しい微笑みのまま口を開いた。

「この子から、離れてくれる?」

名前先輩がそう言うと、男の人たちはサッと私から離れた。それに驚いて私がその人たちの方へ視線を向けると、さっきまで余裕そうに見えた表情はそこになく、どこか緊張したような強張った表情をしていた。

「大丈夫だった?月子」
「は、はい。大丈夫です…」

名前先輩にそっと手を引かれ、隠されるようにして先輩の背中へと回される。

そして、先輩は男の人たちの方へ真っ直ぐと視線を向けた。そうすれば、男の人たちは気まずそうに目を逸らす。

それを見て、私はもしかしたら名前先輩とこの男の人たちは知り合いなのかな?と思った。だって、先輩くらいの綺麗な人だったら男の人の知り合いとか多そうだし…。そう私が推測した通り、一人が「名前さん…」と先輩の名前を呼んだ。

「なに?」
「えっと、その子は…」
「この子?この子は、私の後輩」
「そ、そうだったんですか。俺たち、知らなくって…」
「そう」

先輩と男の人たちの間に、ピリピリとした空気が流れる。だけど、私はただ黙っていることしかできなくて、その光景を見ているだけだった。

「"知らなかった"のなら、仕方がないわね…」
「じゃあ…!」
「あいつには、何も言わないわ」
「あ、ありがとうございます…!」

名前先輩がそう言った瞬間、男の人たちの表情が一気に明るくなった。それは、先輩の口から『あいつ』という言葉が出てきたから…?

えっと、上手くまとめることができないけど、先輩の知り合いには偉い人がいるっていうことなのかな…?偉い人って言っても、こう悪い人の中の偉い人というか…。なんて言ったらいいのか分からない。

だけど、そうなると名前先輩も悪い人の仲間っていうことになるの?

でも、私を助けてくれた先輩はそう見えない。私にとって先輩は、優しくて綺麗な先輩だったから。だから、先輩が悪い人だとは一度も思ったことがなかった。

「だけど、約束して。この子には金輪際手を出さないって。あと、星月学園の生徒には手を出すなってみんなに回しておいて」
「分かりました!」
「ふふっ。アリガト」

あれ?今気づいたけれど、この人たち名前先輩に敬語を使っている。でも、男の人たちは見るからに成人しているし…。

私がそう考えていると、名前先輩に「月子」と名前を呼ばれた。

「は、はいっ」
「怖い思いさせて、ごめんね。彼らが謝りたいって」
「えっ!?」
「ごめんな、お嬢ちゃん。名前さんの後輩とは知らなくて…」
「今度、もし俺達みたいな奴に絡まれたら呼んでくれ!」
「俺達が守ってあげるから!」
「え、っと…」

さっきまでとは打って変わり、ニコニコと優しい笑顔を向けてくれる男の人たち。その笑顔を見たからか、さっきまであった『恐怖』はなくなり、もっと違う感情が溢れてきた。

それは上手く言葉に出来ない感情だけど、私にお兄ちゃんがいたらこんな感じなのかなと純粋にそう思った。

「見た目はこうだけど、根は良い奴らなの」
「名前さん、それ褒めてます?」
「ええ。もちろん」

その瞬間、お兄さんたちは声を出して笑った。それにつられて、私もクスッと笑ってしまう。

そうすれば、それを見ていた名前先輩が優しく頭を撫でてくれた。

「それじゃあ、俺たちはこれで」
「そう。また今度ね」
「はい!」
「お嬢ちゃんも、またね」
「は、はいっ!」

そして、お兄さんたちは私たちに手を振ってショッピングモールの入り口の方へと歩き始めた。それと同じタイミングで、後ろの方から「月子!」と私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

振り返れば、そこには焦った表情でこっちに走ってくる一樹会長と颯斗くん。その二人の姿を見て、そういえば二人を探している途中だったということを思い出した。

「一樹会長!颯斗くん!」
「っ、はぁ…。いつまで経っても戻ってこないから、心配したんだぞ!」
「あ、えっと…」
「月子さん、どこへ行っていたんですか?遠くから、男の人たちに絡まれていたのが見えましたが…」

切迫した表情で、次から次へと質問を投げかけてくる一樹会長と颯斗くん。

だけど私は、まだ自分の中でも整理できていない状況を二人に説明することはできなかった。そのせいで、早く説明しなくちゃという焦りばかりが募って泣きそうになる。それでも、二人に心配をかけたことは確かで、どうすればいいのか…。

そう私が混乱していると、サッと私の前に人影が現れた。それは、さっき私のことを助けてくれた名前先輩。

「っ、名前先輩…!?」
「あら、私がいるって気づかなかった?」
「遠くから誰か他の女性も一緒に絡まれているのは見えましたが、まさか名前先輩とは…」

確かに、今の名前先輩は学校にいるときと少し雰囲気が違う。いつも綺麗に巻かれている髪が今日はストレートだし、それに目元のラインが濃い。

それに、ザックリと肩の部分が見える紺色のオフショルダーワンピースは、私が着ると子供が無理しているように見えるだろうけど、先輩が着ているからか、女らしさが出ていて魅力的だった。

そうか。今の名前先輩は、女子高校生というよりも大人の女性に見えるんだ。

だから、颯斗くんが遠くから見て誰だったか分からないのも納得できる。そしてそれは一樹会長も同じだったようで、会長は目を大きく見開いて驚いていた。

「一樹も颯斗も、さっきまで怖い思いをしていた女の子に、詰め寄らないの。月子だって、まださっきの状況を整理できてないんだから」
「…それも、そうだな。悪い、月子。大丈夫だったか?」
「はい。名前先輩が助けてくれたので…」
「大したことしてないわ」

そうやって名前先輩が私と一樹会長たちの間に入ってくれたことで、私はまた落ち着くことができた。

そのおかげで、少しずつだけど自分の中で状況が整理できる。それを私は、ゆっくりと順序だてて二人に説明した。そのたどたどしい説明を、二人は最後まで黙って聞いてくれたのだった。

「そう、だったのか…。俺達が会計のためにあの場から離れたのが悪かったな」
「そんな…!私が、最初から戻っておけばよかったのに…」
「月子さんは悪くないですよ。僕たちは、貴女を守らなければならなかったのに」
「颯斗くん…」

二人はそう言ってくれたけど、悪いのは私だと思う。自分を守れる術が一つもないのに、それを自覚せずに行動してしまったから…。

つい最近まで男子校だった星月学園に行くって決めたとき、ちゃんと自分の身は自分で守ろうって決めたのに。もっと、私が強い女の子だったら。名前先輩みたいに、強かったら違っていたのかな…。

私がそう落ち込んでいると、名前先輩が優しい手つきでふわっと髪を撫でてくれた。

「落ち込まないで、月子。頼りない二人じゃなく、今度から私が守ってあげるから」
「名前先輩…!」
「ふふっ。もしかしたら、僕たちよりも名前先輩の方が頼りがいがあるかもしれませんね」
「ありがとう、颯斗。…それじゃあ、私はそろそろ行くわ」

そう言って、私たちに背を向けて歩き始めた名前先輩。そっか、てっきり先輩も一緒に帰ると思っていたけど、先輩は先輩の用事があってここに来ていたんだもんね…。

よっし、寮に戻ったら改めてお礼を言いに行こう。

そして名前先輩の方へ向けていた視線を一樹会長たちの方へ戻す。すると、会長が何か焦った様子で口を開いた。

「二人とも、悪い。先に帰っていてくれないか?」
「どうしたんですか?」
「ちょっと、あいつに用があってな」

そう言いながら、一樹会長は名前先輩が歩いて行ったほうへ視線を向ける。

「それでしたら、僕が責任を持って月子さんのことを寮まで送ります」
「悪いな、颯斗。月子も、颯斗の傍から離れるなよ」
「はい!名前先輩のこと、よろしくお願いします!」

きっと、会長は名前先輩が一人でいるのが心配なんだ。だから、先輩のあとを追いかけようとしている。

でも、さっきの名前先輩の様子からして先輩は一人でも大丈夫そうだったけど…。だけどやっぱり、一樹会長がいると安心感が違うと思う。

だから私と颯斗くんは、名前先輩を追いかけて走り出す一樹会長を笑顔で送り出した。


20150613 / title by リラン

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -