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あなたのキスの甘さにくゆる

さく、さく。さく、さく。

降り積もったばかりの雪の上を歩くと、澄み渡った空気の中で雪の音が響き渡る。それが楽しくって雪を踏むのに集中していたら、ペシッと後ろから誰かにチョップされた。

「痛っ!」
「なーにやってんだ?蒼」
「一樹会長!」

振り返った先には、真っ黒なマフラーで顔を半分隠した一樹会長がいた。

「どうしたんですか?鼻の頭が真っ赤ですよ?」
「どうしたもこうしたも、お前がなかなか待ち合わせ場所に来ないからこうして迎えに来たんだよ」
「あっ!」

そういえば、今日は一樹会長と初詣に行く約束をしていたんだった!だからこうして外に出ていたのに…。

約束の時間に間に合うように職員寮から出た瞬間、まだ雪かきされていない降り積もったばかりの新雪を見つけてしまったのだ。だって、まだ誰も触れていない雪だよ?ちょっと踏みたくなっちゃう気持ち、誰にだってあるよね?

というわけで、一樹会長との待ち合わせも忘れてずっと踏みふみしていました。

「ううっ、ごめんなさい…」
「まぁ、夢中に雪を踏み続けてるお前は可愛かったけどな」
「見てたんですか!?」
「お、顔が真っ赤だぞ?寒いのか?」

そう言って、ニヤリと笑った一樹会長。顔の赤みが寒さのせいじゃないことくらい、一樹会長には分かっているくせに!むーっと頬を膨らませた私を見て、会長は今度は声を出して笑った。

そして一頻り笑った後、手を差し出して「行くぞ」と言った。

そう言われて重ねた手の平はお互い冷たく、それでもしばらく二人で手を繋いでいれば手の平は自然と温かくなった。

星月学園から出てしばらく歩けば、学園の生徒たちが普段からお世話になっている神社に辿り着いた。

「一樹会長!屋台が出てますよ!」
「コーラッ、まずは初詣を済ませてからだろ」

屋台の方に視線を奪われていた私は、グイッと引っ張られた一樹会長の手について行けずに、思わずよろけてしまう。

それでも、一樹会長はそんな私を予想していたのか、ポスンと受け止めてくれた。

「お参りが終わったら、何か買ってやるから」
「それじゃあ、私が食いしん坊みたいじゃないですか…」

屋台のおかげでせっかくしぼんだと思っていた頬が、一樹会長のせいでまた膨らみ始める。そんな頬を、一樹会長がツンツンと突いて遊び始めた。

そんなことをする一樹会長をじろりと睨めば、「んー?どうした?」なんて、優しい瞳で私のことを見つめてきた。そんな瞳と目が合ってしまえば、私の頬からはへにゃへにゃと力が抜けてしまう。

もうっ、どうしていつまで経っても一樹会長には敵わないんだろう。思えば、付き合ってから私は一度も一樹会長の照れる顔を見たことがない。

「…一樹会長って、どうやったら照れるんですか?」
「どうしたんだ、急に?」

参拝者の列に並んでいる途中、思い切って一樹会長に質問してみた。その質問に、一樹会長はポカンと口を開けてしまう。

「だって、一樹会長の照れている顔見たことないんですもん」

思えば、「付き合ってくれ」って一樹会長が告白してくれたときも、会長はいつもの勝気な笑みを浮かべていたし…。私が会長に「好きです」って言っても、「俺もだよ」って言って笑うだけだし。

んー…どうすればいいんだろう?だいたい、男の人がどういうときに照れるかなんてよく分からないし…。

「そんなに俺の照れた顔が見たいのか?だったら、蒼の頑張り次第だな」
「私のですか?」
「俺が顔を真っ赤にしちまうような台詞、言ってくれよな」

とか言いながら、余裕たっぷりに笑う一樹会長。むむ、会長は私がそういう台詞を言えるはずがないって思っているんだ!図星だけど、ちょっと悔しい…。

決めた。今年の目標は、一樹会長の顔を真っ赤にすること!

んー…なんだろう。会長が顔を真っ赤にするときって…そういえば、翼くんが発明品を爆発させたときは顔を真っ赤にさせていたっけ…。って、それは怒っているときの一樹会長だし…。

それから並んでいる間、私はずっと一樹会長がどうやったら照れるか考えていた。そんな私を見て、会長が隠れて笑っていたことなんてまったく気づかずに…。

「蒼、俺たちの番だぞ」
「えっ?」
「お前…そんな真剣に考えていたのか?」

どうやったら一樹会長が照れるのか真剣に考えていたら、いつの間にか私たちの順番になっていた。

え、えっと確か神社の参拝の仕方ってやり方があるんだよね…?お寺だとガラガラって鳴らす鈴?みたいなのがあるんだけど神社にはないし…。不安に思いながら一樹会長の方を見ると、一樹会長は、唇をそっと私の耳元へ寄せて喋った。

「神社の参拝の仕方は二礼二拍一礼と言ってな、二回おじぎをした後に二回拍手を打って、最後にもう一回おじぎをするんだ」
「はっ、はい…!」

せっかく一樹会長が参拝の仕方を教えてくれたけど、それよりも私は耳にかかる一樹会長の息がくすぐったくて…!

また、一樹会長のせいで私の顔が赤く染められてしまう。ううっ、それでも今は参拝に集中しないと。え、えっと、私の今年のお願いは…。

「よし、っと」

お参りが終わった後、私と一樹会長は境内から離れて屋台の方へと向かう。

焼きそば屋さんに、たこ焼き屋さん!林檎飴に綿菓子!んーどれから食べようか迷っちゃうなぁ。あっ、じゃがバターもある!

「ぶはっ、」
「ん?一樹会長、どうして笑ってるんですか?」
「いや、目をキラキラ輝かせながら屋台を見る蒼が可愛くってな」
「もー!!ダメです!可愛いっていうの、禁止です!!」
「なんでだよ、こんなに可愛いのに」

屋台で艶やかに光る林檎飴と同じくらい顔を赤くしてしまった私。ああ、もう!

そんな顔を一樹会長に見られたくなくて、私は駆け足で屋台の方へ逃げる。ダメだ、このままではまた会長のペースに流されてしまう…!

チラリ、と一樹会長がいる方に視線を向ければ、会長はまたニヤニヤと笑いながらこっちに向かって手を振っていた。ううっ、かっこいい…!って、そうじゃない!会長はかっこいいんだけど、ええっと。

「ほら、俺から逃げるんじゃない。林檎飴買ってやるから、どっかに座って食べようぜ」
「は、はい…」

右手には、一樹会長に買ってもらった林檎飴。そして、左手は一樹会長の手の平。そのままベンチに誘導された私は、しぶしぶと一樹会長の隣に座った。

むーどうしても、一樹会長の顔を真っ赤にすることができない!!

「そういえば、お前は何か願い事をしたのか?」
「えっ、とそれは…」
「なんだよ、言いたくないのか?」

言いたくないというか、言ったら一樹会長は絶対に笑うというか…。だってだって、私が神様に願ったことは、神頼みしないと叶わないような願いなんだよ?

そ、それにやっぱり口にするのが恥ずかしい願いといいますか…。いや、そんな変なお願い事じゃないいだけれど…。

あわあわとしながら会長を見れば、会長は優しく笑って私を見つめた。

「それで、お前は何て願ったんだ?」
「いやですよ!一樹会長、絶対に笑いますもん」
「笑わない。誓うよ」

なんて、そんなかっこいい笑顔で言われちゃったら、固く閉じていた私の口も揺るいでしまう。

恥ずかしいけど、ここは思い切って…!

「一樹会長!!」
「ん?」

名前を呼ばれて、一樹会長は私の顔を覗き込む。その瞬間を狙って、私は自分の唇を一樹会長の唇に重ね合わせた。

ちゅ、っと重なり合った二人の唇。ゆっくりと離れれば、揺れる若草色と目が合う。

「は、え…?」
「今年こそは、私からキスできますようにってお願いしたんです」
「っ〜…!」

私がそう言うと、一樹会長の顔がみるみる赤く染まっていく。それは、もしかしたら私が手に持っている林檎飴よりも赤く染まっていたかもしれない。

あれ、これってじゃあ、もしかして…!

「一樹会長、一樹会長!」
「なんだよ…」
「もしかして、照れてます?」

ああ、もう、口が緩むのを抑えられない。そんなニヤニヤした表情で一樹会長を見れば、今度は私が一樹会長に睨まれてしまった。

ううっ、なんですか、その目…。

「蒼…。お前、覚悟しろよ」
「うえっ!?」

ぐい、っと一樹会長の手の平に掴まれた後頭部。その瞬間、私の唇は会長の口にがぶり、と噛みつかれた。それは噛みつかれたというよりは、食べられたって感じで…。

しかも、会長はキスをしている間も目を開いてジッとこっちを見つめていて…。なぜかその目から視線を逸らすことができず、私も目を開けたままそのキスに応じてしまう。

聴こえるのは、甘いキスの音だけ。
そして、会長から漏れる吐息。

耳の奥に響くその音は、私の鼓動をさらに高鳴らせる。

ああ、もう。こんなつもりじゃなかったのに。何度も何度も繰り返されるキスに、私は我慢しきれずに目を閉じる。そして零れ落ちた、一筋の涙。生理的な涙なのか、恥ずかしいから出た涙なのか。それすらも、どろどろに溶けてしまった思考では、もう考えられない。

そして、やっと離れた一樹会長の唇。離れるときに、会長はぺロリと私の濡れた唇を舐めて離れていった。

「ああ、そうだ。俺の願いも教えておいてやらないとな」
「ふ、え…?」
「この先もずっと、蒼の可愛い顔を隣で見ていたいって願ったんだ」

もしかしたら、一樹会長は天才なのかもしれない。私の顔を真っ赤にする、天才なんだ。だって、そうじゃなかったら私の顔はこんなに真っ赤にならないもの。

いつも私のことをからかって遊ぶ一樹会長。私はそれにいつも怒ってばかりだけど、本音は嫌じゃない。なんてことを言ったら、また一樹会長は調子に乗ると思うけど!


title by リラン
Thank you ! Natsuko sama !
2015/02/24

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