テニスの王子様 | ナノ


今日は跡部の誕生日。というわけで、氷帝学園テニス部のレギュラーみんなとマネージャーの私で、跡部を地方物産展in庶民デパートに連れてきました。跡部は「あーん?庶民はこういう催し物を開かねーと、旅行に行けない虚しさを癒せねーからな!」とか言っていたけど、初めての庶民デパートに興味津々らしくて、慈郎や岳人に連れ回されながらも、ずっと楽しそうにしていた。さっきから、「こんなに大量生産して店は潰れねーのか!?」って言いながら、樺地くんに持たせている買い物カゴの中身にどんどん商品を詰め込んでいってる。跡部に隠れて忍足と滝さんがお菓子とかを買い物カゴに入れていっているのは、見なかったことにしておこう。


「跡部、買いすぎ」
「あーん?店の売上を伸ばしてやってんだ。むしろ、感謝されるべきだろ?」
「ふふっ、そうだね。ねぇ、屋上でも物産展やっているらしいから行ってみようよ」
「名字もたまには良いこと言うな」
「たまにはって何よ」


まぁ、跡部が楽しそうで何よりです。きっと、みんな跡部をここにつれてきてよかったなって思っているはず。…跡部がレジのおばさんにブラックカードを出していたのは見なかったことにしておこう。というか、あんなに買ってどうするつもりなのかな…?とりあえず、みんなに声をかける。屋上に行くにはエレベーターが一番早いから、エレベーターがある場所に向かう。跡部の歩幅がいつもより大きくて、ついて行くのが精一杯。みんなは後ろからゆっくりついて来るし…。もう!跡部が迷子になっちゃってもしらないんだからね!

そう思いながらも、やっぱり跡部をほっておくわけにはいかず、小走りで追いかけた。当の本人はすでにエレベーターの中でみんなのことを待っていた。跡部…生き生きしすぎて、なんか怖いよ。


「遅い」
「跡部が歩くの早い」


キッと跡部を睨んで、みんなが来るのを待つ。みんながエレベーターの手前にある角を曲がって来たのが見えたとき、突然、グラッとエレベーターが揺れた。揺れた反動で、倒れそうになる私を跡部が支えてくれた。おお…!ナイスインサイト…!ホッとしたのもつかの間、エレベーターの扉が急に勢いよく閉まった。宍戸が叫んで私たちに手を伸ばしてくれたけど、遅かった。そう、つまり、これって…。


「閉じ込められた?」
「庶民のエレベーターはしょっちゅうこうなるのかよ」
「しょっちゅうなられてたら困るよ」
「…チッ。ケータイは圏外だな」
「うそ…!」
「仕方ねーな。助けがくるまで待つか」
「う、うん」


こういうときにならないと分からないけど、跡部はいつでも冷静に物事を判断する。試合のときだってそう。あの鋭いブルーアイスに輝く瞳で、状況を把握して、物事を見定める。そんな跡部が…かっこよくないこともない。跡部に言われた通り、助けが来るまで待つことにした。お互い、何も喋らない。というより、喋れない。
…誰にも言っていないけど、実は私は暗いところが苦手。なぜかエレベーターの中の電気は消えちゃっているし…。暗いところにいると、なんだかすごく不安になって怖くなる。一人ぼっちになった感じがして寂しい。そ、それに…お、お、おば、おば…おばけとかも出そうだし…。あ、やばい。泣きそう。


「ふぇ…ぐすっ」
「どうした!?」
「なんでも、ない」
「なんでもないわけねーだろ。…暗いとこ、駄目だったよな」
「…え?」


誰にも言っていないのに、どうして跡部は私が暗いとこダメなの知ってるの?きょとんとした顔で首をかしげて跡部を見ると、跡部は「お前のことくらい分かってるに決まっているだろ」って、きっと跡部のファンクラブの子が聞いたら倒れちゃうような男前なセリフを言った。跡部は優しく私の頭を撫でて、手を繋いでくれた。あ、…すごく、安心する。跡部の手、おっきい。綺麗な細長い指と爪。それに似合わない手のひらのマメ。きっと、テニスをしていて出来た跡部の努力の証。跡部が今までしてきた努力を物語っている。

…せっかく跡部の誕生日で連れて来たのに、エレベーターには閉じ込められるし、私は泣いちゃうし…なんだか跡部に迷惑かけてばっかり…。渡そうと思って、カバンにしまってある跡部への誕生日プレゼントもまだ渡せずにいる。


「ごめんね、跡部」
「あーん?」
「せっかくの誕生日なのに…」
「ふっ。バーカ、お前が気にすることじゃない。それに…」
「それに?」
「な、なんでもねぇ」


跡部がどもるなんて珍しい。あれか、そんなに物産展が楽しかったのか。暗くて跡部の顔がよく見えない。急に黙ってしまった跡部の息づかいだけが、かすかに聞こえる。どうしたんだろう…?跡部。も、もしかして、やっぱり泣いちゃったりして迷惑だったかな…?手とか繋いでもらっちゃってるし…。急に申し訳なくなって、跡部の手を離そうとする。だけど、それに気づいた跡部がギュッと私の手を強く握った。


「…跡部?」
「なんで離そうとするんだ?」
「迷惑かなって…思って」
「誰がいつ迷惑だって言ったんだ?」
「言ってないけど…」
「…俺様は名字とこうしていたいんだよ」
「え?」


ギュッと握られた手が、跡部の手にひっぱられて、跡部の顔の前まで持っていかれる。そのまま、跡部はチュッと小さいリップ音を立てながら私の手の甲にキスを落とした。突然のことで、動けなくなる。跡部を見ると、あの瞳が私を映していた。切なく潤んだ跡部の瞳。その下にある泣きボクロが色っぽくて、思わず目をそらしてしまう。だけど、跡部はそれを許さない。あの指が私の顎ラインに触れる。ビクッて揺れる動揺した身体。そして、あの意地悪な笑顔で笑う跡部。


「泣き止んだな」
「あ…」
「誕生日、祝ってくれてありがとうな…名前」
「…どういたしまして、景吾」


電気がついて扉が開いたエレベーター。私と景吾は繋がれたままの手を離さずに、みんなの元へ向かった。








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12/10/04


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