:: summer | ナノ


夏の夜は、昼間と比べると正反対と言っていいほど静かだ。

昼間は騒がしかった蝉たちが羽を休め、賑やかだった人の声も、今は遠い夢の中。そんな静かな夜だからこそ、天高く輝く星々の声がいつもより近くに聞こえる気がする。

キラキラと小さく囁き合う、星々の声。
この広い宇宙で、星たちは一人ぼっちではない。

なんて、ちょっとロマンチックすぎたかな?

そもそも、どうして私がこんな夜遅くに出歩いているのかと言えば、あいつのせい。
弓道部のみんなと夏休み合宿に来ていた寄宿舎から、あいつが消えた。だから、私はこうしてあいつのことを探している。

「あ、見つけた」
「…お前か」

あいつ、そう、宮地龍之介は私を見ると、眠たそうな目を擦りながら小さく微笑んだ。

「白鳥くんに無理矢理炭酸飲まされたんだって?」
「隣で見ていたんだから、知ってるだろ…」
「まぁね。だけど、いつの間にかいなくなったから探しに来たの」

つい先程、合宿最終日ということでインターハイに向けての決起会が行われた。

寄宿舎のおばちゃんたちがご馳走を用意してくれて、私たち部員はそれを食べながら、インターハイへの意気込みをそれぞれ話していたときだった。

金久保部長の意気込みを聞くのに夢中になっていた宮地くんのコップに、白鳥くんがこっそり炭酸水を入れたのだ。
あのときの三バカの顔といったら、今思い出しても笑えちゃう。それに気づかずに真剣な顔をしている宮地くんにも笑っちゃったけど。

それでまぁ、宮地くんの隣に座っていた私は気づいていたんだけど、これからの展開に期待をして炭酸水のことは黙っていた。というか、宮地くん以外みんな気づいていたけど、黙っていたんだよね。

そして、案の定、何も気づかずに炭酸水を飲んだ宮地くんは、いつものように部屋の済に寝転がって夢の世界へ。

そのまましばらく放置していて、お開きになったとき起こそうとしたら、寝ていたはずの場所に宮地くんはいなかった。

というわけで、私はこうして宮地くんのことを探していたのだ。

「もう眠くないの?」
「いや、まだ意識ははっきりしない…」
「ほんとだ。目がしょぼしょぼしている」
「む…」

いつも眉間に皺を寄せて鋭い目つきで的を見つめている宮地くんとは正反対に、今の宮地くんは眉間に皺がなくて目をトロンとさせている。

なんだか、宮地くんじゃないみたい。
ちょっと可愛いかも。

「でも、どうしてここに?」
「…星を見ようと思ってな」
「ふふっ。こんなときでもやっぱり、みんな星月学園の生徒なんだね」
「それもあるが、やっぱり星を見ていると落ち着く。明日は良い弓が引けそうだ」
「明日って…戻ってからも道場に行く気?」
「当たり前だ」
「宮地くんって、ほんとストイックだよね」
「お前は来ないのか?」
「帰ったら、きっと疲れて寝ちゃうもの」

そう言って、ふわぁっと小さな欠伸を漏らした。そんな私につられてか、宮地くんも欠伸を漏らす。

宮地くんはすごいなぁ。明日はみんな寄宿舎から学園に戻ってくたくたなはず。だから、金久保部長は部活を休みにした。それなのに、宮地くんは自主練をすると言うのだ。
そんな風に、弓道に向けた宮地くんの真っ直ぐな姿勢が好きだったりする。

「インターハイでは、お互いに良い成績が残せるといいね」
「そうだな。それに、金久保部長にとっては最後のインターハイだ。ベストを尽くしたい」
「宮地くんのそういうところ、格好良いと思うよ」
「むっ…!そ、そうか…」

あ、宮地くんの耳がほんのりと赤く染まっている。照れてるのかな?

なんだか、今日は私の知らない宮地くんがいっぱい知れた気がする。そう考えていると、星空に向けられていた私の視線は、いつの間にか宮地くんの方へ向けられていた。

ねぇ、宮地くん。
宮地くんはインターハイが終わったらどうするの?
金久保部長の引退式が終わったら、きっと宮地くんが部長になる。そうなったら、宮地くんは今以上に忙しくなる。

もう、理由もなしに二人で星を見上げる時間がなくなってしまう。

だから、だからね?インターハイが終わって時間ができたら、その時間を少しだけ私にください。ずっと、なんて言わないから。ただこうして、二人で星を眺める時間が欲しいの。

そう心の中で願ったとき、空に一筋の光が零れた。

「あ、流れ星…」
「ああ。一瞬だったな」
「何か願い事すればよかった」
「叶えたい願いでもあったのか?」
「うーん。まぁね。宮地くんは?インターハイ優勝とかって願ったりしないの?」
「そういう願いは、自分で叶えるものだ。誰かに叶えてもらうものじゃない」
「…うん。宮地くんならそう言うと思った」

星空に向けられた宮地くんの瞳は、さっきまでのように力なく揺らめいていた瞳じゃなかった。
的を見るときと同じように、真っ直ぐと力強い瞳で星空を見つめていた。

いつか、その視線の先が星空でも、的でもなく、私になればいいのに。

だけど、この願いは自分では叶えられないものだから、星空にこっそりとお願いするの。

あなたの隣で。

「宮地くん」
「なんだ?」
「んーん。呼んでみただけ」
「? そうなのか?」

いまはまだ、この時間を二人で過ごしていたい。

何を話すでもなく、何をするでもなく、ただこうして、二人で星空を眺める時間を共有していたい。

この時間に終わりが来ないようにと、その願いを叶えてもらうために、私はまた流れ星を探した。


title by リラン
14/08/14


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