:: summer | ナノ


毎朝決まった時間に起きて、夫のために朝食と弁当を用意する。そして彼を送り出したら、家の掃除や洗濯、そして買い物。

同じようなことを繰り返す毎日を、ただ過ごしていた。
それが幸せだと思っていたし、これからも一生変わらないものだと思っていた。

彼に、不知火さんに出会うまではー…。

「こんにちは」
「…来てくれたか」

週に一度、指定された時間、指定されたホテル。誰にも見られないように、こっそりと貴方に会いに行く。

それが、私と不知火さんの逢瀬。

きっかけは、とても些細なことだった。

私がパートをしているスーパーに不知火さんがよく買い物に着ていて、それをきっかけに少しだけ話すようになった。
しばらくして、偶然パートのない日に不知火さんと公園で会い、連絡先を交換した。それが、私たちの始まり。

これから会えませんか?

そう、不知火さんから連絡があったのはいつのことだったのだろう?

彼は私に夫がいることを知っていたし、こんな夜遅くに呼び出すことが何を意味しているのか、私は知っていた。

けれど、そのとき偶然にも夫が出張中で、私は一人寂しい夜を過していた。

だから、彼の誘いに応じてしまった。

不知火さんは、どこまでも優しかった。私のことを、深く愛してくれた。

夫とのセックスレスで乾いていた私の身体を、彼が潤してくれた。

不知火さんの、キスが、愛撫が、その全てが。

それに、私と不知火さんの身体はまるで二つに割れてしまっていた貝殻のように、ぴったりと重なり合った。そのとき、思ったの。

運命の相手って、こういう人のことを言うのだと。

「今日は、旦那さんは?」
「最近、仕事が忙しいみたい。帰ってこないわ」
「じゃあ、今日はずっと一緒にいられるわけだ」
「…そうね」

悪戯っ子のように笑う不知火さんが愛おしくて、包まっていたシーツから抜け出し、彼のことを抱きしめた。

直に伝わる不知火さんの肌の感触が、心地良い。しっとりとしていて、私の肌にぴったりと吸い付いてくるよう。

「誘ってるのか?」
「不知火さんが誘ったのよ?」
「その不知火さん、ってのはやめてくれ」
「…一樹」

一樹の耳元で、息を吹き込むようにしてその名を囁く。そうすれば、ピクリと反応した彼の身体。

それが合図だったかのように、貪るようなキスをして、彼のその熱い舌が身体中を這う。

ああ、このまま彼の熱で溶かされてしまえばいいのに。

何度、そう思ったことか。
一樹と、一緒になりたいと。

「愛してる、愛してるの…一樹」
「俺だって…誰よりも愛してる。例え、お前が誰か別の男のものだったとしても」
「っ…」

私には、夫がいる。そして一樹は、弁護士というスキャンダルの許されない職に就いている。

子どもの頃にはなかった枷が、大人になるにつれこうして私たちに巻き付いてくる。

その枷は深く食い込んで、私たちを逃してはくれない。
苦しめて、苦しめて、奈落の底へと突き落とす。

それでも、私たちはー…。

「なぁ、このままお前を俺だけのものにしたいって思うのは、罪なことなのか?」
「…誰に許されなくても、もう私は一樹から離れられない」
「俺だって、そうだ。いつか神が俺たちに罰を与えるその日まで、俺はお前を離さない…」

いつか。そのいつかは、きっともうすぐ目の前まで迫っている。

それでも、一樹への愛を消すことはできないの。

例えそれが、私の、そして一樹の人世を狂わすものだとしても。それでも、いいの。

貴方となら、共に堕ちてしまいたいから。

title by リラン
14/08/10


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