:: loop. | ナノ


その出逢いは、偶然のものじゃなかったのかもしれない。巧妙に仕組まれた、必然的な出逢いだったのかもしれない。それでも、俺は思うんだ。お前との出逢いは、間違いなく運命だったのだと。

星座の導きによって、俺たちは出逢ったんだ。

なぁ、俺たちが始めて出逢ったとき、お前は何を思った?俺はきっと、一目でお前を見た瞬間から、恋に落ちていた。

お前は、いつも真っ直ぐに自分の目的を遂行しようとしていた。お前の任務をこなすときの、あの真っ直ぐな瞳が俺は好きだったよ。俺のことを優しく見つめた、お前の瞳も。

あのときの俺たちのは、きっと何一つ交わることのない平行線のような関係だったと思う。それでも、俺はお前のことを愛していたんだ。

…お前は、どうだ?俺のことを、少しでも愛してくれたか?
まぁ、今となってはその答えを聞くことはできないが。

御伽噺はどれもハッピーエンドでは終わらない。俺とお前が王子様とお姫様だった御伽噺は、バッドエンドで幕を閉じた。

ああ。だけど、どうか俺の問いかけに答えてくれないか?…Venus。


産まれ落ちて満たない鼓動


それは、突然の出来事だった。

ミーティングをするためにLibraの家に行った帰り。その頃の俺たちZodiacは、組織としては若くても、裏の世界ではすでに有名な存在だった。だが、俺たちの目的である『Tears of the Polestar』の破壊に、ちょうど行き詰っていた頃でもあった。

そんなときに、俺は彼女と出会ったんだ。

バーンッ。バーンッ。バーンッ。

「銃声…?」

ひっそりとした路地の裏道。闇に紛れるようにその道を歩いていたときだった。

どこからか、何発かの銃声が聞こえる。別に、この辺りじゃ珍しくないことだ。だが、銃声の音が近かったため、俺は一応、脇の下に隠し持っているショルダーホルスターに手を伸ばして身構えた。

銃声が鳴り止んだかと思えば、頭上からパリーンというガラスが割れる音が聞こえた。上を見上げれば、空から、…人が降ってきた。

つまり、さっきの音はあいつが窓から落ちる音だったってわけか。しっかし、こうもピンポイトに俺の上から降ってくるとなると、助けないわけにはいかない。

急いで俺は、そいつが落ちてくるであろう落下地点へ向かう。空から降ってくる奴を受け止められるかどうかって聞かれたら答えられないが、何もしないよりはマシだ。だが、そいつは俺の予想とは別に、くるりと宙返りをすると、少ない衝撃で目の前にスタッと着地した。

おいおい。あの高さから降ってきて無傷でいられるって、よっぽどの奴じゃねーと無理だぞ。

「大丈夫か?」

着地してしゃがみ込んだ体勢のままのそいつに、話しかけてみた。すると驚いたことに、そいつの正体は女だった。

ったく、女がこんなことに巻き込まれるなんて、物騒な世の中になったもんだ。

女は、ふらり、と立ち上がる。女が着ていたスーツからは、血が滲み出ていた。ということは、さっきの銃声はこいつが撃たれた音だったってわけか。

「たす、けて…」
「え?あ、ちょ、おい!!」

そう呟いて、女はその場に倒れこんでしまった。

慌てて抱き起こしてみれば、どうやら気を失っているようだった。致命傷になるような傷は負ってないものの、少し血を流しすぎている。

大方、こいつも裏の世界の人間なんだろう。だったら、一般人の病院はマズイな。そう判断し、俺は女を抱きかかえると、自分の家がある方向へ歩き出した。

「おーい、誰か開けてくれないか?手が塞がっているんだ」
「おかえりなさい、Aries。って、その方は…?」
「怪我の具合を診てもらいたい。頼めるか?」
「ええ。分かりました」

俺の屋敷の扉を開けたのは、俺の執事であり秘書の颯斗だった。

颯斗は、俺が抱えている女を見ると、急いで医療の道具を部屋に取りに行った。その間に、俺は彼女を応接間のソファに寝かせる。そしてそのとき、初めて彼女の顔を灯りの下で見た。

暗闇の中のぼやけた輪郭とは違い、はっきりと見えるその輪郭に、俺は思わず見惚れてしまった。

妖艶に光る、長い黒髪。ビスクドールのような、美しい白い肌。そして、伏せられた長い睫毛に、薔薇のような赤い唇。血が足りていないせいか顔色が悪かったが、そうだとしても彼女は美しかった。

そっと彼女の頬に手を添えれば、わずかだが温もりを感じることができる。よかった。これなら颯斗でもなんとかしてくれるだろう。

「怪我を負った女性を襲うなんて、感心しませんね」
「おいおい。俺はそんな悪趣味じゃないぞ」
「分かっています。まったく、どこで拾ってきたんですか?」
「拾ってきたんじゃない。降ってきたんだ」
「意味が分かりません」

颯斗が彼女の手当てをしている横で、俺はさっきあった出来事を話した。
俺が全てのことを話すと、颯斗は長いため息を吐いた。

ったく、仕方がないだろ?ほっておくことなんてできなかったんだ。

あのとき、彼女は俺に「助けて」と言った。きっと、何かやっかいなことに巻き込まれているのは間違いじゃないだろう。例え、その厄介事に俺自身が巻き込まれたとしても、それはもう彼女のせいではなく、俺の自業自得だ。

血を流す彼女をほっておくという残酷な決断ができなかった、俺という人間性が悪いんだ。

「まぁ、いいでしょう。彼女のことは任せてください」
「悪いな」
「謝る暇があるなら、シャワーでも浴びてきたらどうですか?その格好を、どうにかしてください」
「おっと、それもそうだ」

颯斗に指摘されるまで気づかなかったが、俺が着ていたスーツは彼女の血によって汚れていた。確かに、いつまでもこんな格好でいるわけにはいかない。

彼女のことは颯斗に任せて、俺も一休みするとするか。そう思い、自室までの長い廊下を歩き始めた。

自室の前までく来ると、扉の前にOphiuchus座っていた。

ギザギザの前髪と、宝石のルビーのような紅い瞳が特徴であるOphiuchus。こいつも俺が拾った仲間の一人で、俺たちが所属している組織の一員だ。Ophiuchusとは組織でのコードネームで、本当の名前は四季という。

四季は、俺が来たことに気づくと、ゆっくりと立ち上がった。

「どうしたんだ?俺に何か用か?」
「…今日、降ってきた女の子……」
「ああ、颯斗が今治療している」
「その子、あんたの運命を…大きく、変える」
「俺の運命を?」
「うん。言いたかったことはそれだけ」

それだけを言って、四季は自室へと戻っていった。きっと、四季は未来予知の力で何かを予知したのだろう。四季にだけある、不思議な力で。

あいつが、俺の運命を大きく変える、か。

どうやら俺は、すでに彼女とは切っても切れない縁で結ばれてしまったらしい。だが、不思議とそれが疎いとは思わない。

俺は自室に入り、着ていた服を脱ぎ捨てながら、さっき見た彼女の顔を思い出していた。

裏の世界にいる女たちは、だいたいが自分の容姿を武器にする奴らだ。だから、今まで接してきた女たちは、それなりにレベルの高い奴らなのだろう。だけど、彼女はその女たちの誰よりも美しかった。

きっと彼女も、その美しさを武器に今日まで生き抜いてきたんだ。だが、そうだとしても、少し気になるのは彼女の服装だ。

どうして、裏の世界の女たちのような華やかなドレスではなく、真っ黒なスーツに身を包んでいたんだろうか?そして、どうして彼女は撃たれたのだろう?彼女のことを撃ったのは、一体誰なんだ?

サアアアッと少し熱めシャワーが、冷えた身体を温めていく。

とりあえず、全ては彼女の目が覚めれば分かることだ。それまでは様子見としよう。

なんせ、身元が分からない人間を拾ってきたんだ。それなりに面倒なのは覚悟している。まぁ、彼女が起きたときに、変に抵抗してこないよう祈るのみだな。

浴室から出ると、そこには颯斗が立っていた。颯斗は俺にバスタオルを渡すと、「彼女が目を覚ましたので、来てください」と言って部屋から出て行った。

なんだ、もう目を覚ましたのか。俺は急いで適当な服に着替え、彼女の元へ向かう。応接間に着けば、そこには颯斗と話をしている彼女の姿があった。

「よかった。目を覚ましたのか!」
「貴方は…?」
「俺がお前を拾ってきたんだよ。空から人が降ってきたときは、驚いたぜ」
「ふふっ。驚かせてしまってごめんなさい」

とても、綺麗に笑う女だと思った。あの薔薇のような赤い唇が、綺麗な孤を描く。そして、まるでそれを恥らうかのように口元を隠す手の平。その仕草までもが、彼女の魅力を引き立てるものだった。

俺がその仕草に見惚れていると、コホンと颯斗の咳払いが聞こえた。俺は慌てて、彼女への質問を続ける。

「それで、お前は何者なんだ?」
「あら?まずは自分から名乗ってもらわなくちゃ。フェアじゃないわ」
「それはお前が何者か次第だな」
「意地悪なのね。いいわ。私の名前は名前。ある宝石を探っていたらさっきの連中に絡まれて、この様よ」
「ある宝石?」
「そう。Tears of the Polestar…聞いたことくらいあるでしょ?」

聞いたことがあるもなにも、それは俺たちの組織が探している宝石だった。

ということは、名前は手にした者の願いをひとつだけ叶えると言う幻の宝石を探しているのか。どんな代償を払ってでも叶えたい願いがある故に。

「何か、叶えたい願いでもあるのか?」
「願い?そんなもの、あるわけないでしょ」
「は?」
「私は、あの宝石を破壊したいの」
「どうしてまた」
「話せるのはここまで。あとは、貴方が話してくれる内容次第ね」

そう言うと、名前は意地悪く笑った。どうやら、彼女の方が何枚か上手だったようだ。

それにしても、あの宝石を破壊したい、か。不思議な偶然ってもんは、やっぱりあるんだな。最近、星座の導きのような、そういった偶然が多く起きているせいか、皮肉にも運命なんてものを信じそうになっていた。そういえば、今の組織の仲間が揃ったときにも、そう感じたんだ。

ということは、つまり、俺が名前と出逢ったことも運命なのか?

これが運命だとしても、そうじゃなかったとしても、彼女には俺の正体をバラしてもいいだろう。俺の正体を聞いて、彼女がどうするかは別だが。

「俺は、Zodiacの人間だ」
「驚いた。噂の怪盗集団さんだったのね」
「名前はAries。これは組織でのコードネームで、本当の名前じゃない」
「本当の名前は教えてくれないのかしら」
「当たり前だ」

第一、名前という名前すら本当の名前だという確証はないんだ。これくらいの警戒心は持たせてくれ。この世界には、偽名の奴なんてたくさんいるんだから。

それにしても、俺たちの組織のことを知っているってことは、やっぱり裏の世界に通じている人間だったのか。それも、かなり深くと言ってもいいだろう。

「そう。それじゃあ、貴方もあの宝石を破壊しようとしているの?」
「ああ。その通りだ」
「どうして?」
「あの宝石のせいで、大切な人を失った」
「恋人?」
「いや、家族だ」
「…じゃあ、貴方と私は似たもの同士なのかもしれないわ」
「え?」
「私も、あの宝石のせいで家族を失った」

それが、俺と名前の出逢いだった。

あとのことは、言わなくても想像がつくだろう。そう、俺は迷うことなく彼女を組織に誘った。

また後でLibraにノリで決めるなと説教されそうだが、まぁいい。俺はこのとき、確かに運命を感じたんだ。名前は、俺に必要な存在なのだと。

だが、この出逢いの瞬間から、名前との永遠の別れのカウントダウンが始まっていたことを、あのときの俺にはまだ知る余地もなかった。






--------------------------------

title by 誰花

14/01/01



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -