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雨粒が霧のように細かく、音もなく静かに降り続ける雨。冷たい雨粒が木々の葉を濡らし、雫となって滴り落ちる。少し肌寒さを感じるこの季節。私は、お気に入りの傘を揺らしながら学園までの道のりを歩いた。

梅雨の季節を迎えた星月学園は、どんよりとした重い空気に包まれていた。そのせいか、生徒達の顔も心なしか浮かばれない。だけど、そんな空気の中でも彼女だけは違った。


重なり映るは、幻想か陽炎か


「おはよう、名前ちゃん!」
「…おはよう」

小説の中とかでよく、向日葵のような笑顔という表現が使われる。月子の笑顔は、まさにその向日葵のような笑顔という表現がぴったりだった。

太陽の光が差さない地上で、唯一輝く向日葵の花。空の太陽が雲の中に隠れてしまっている今、地上の太陽である向日葵だけがこの世界を照らす。だからかな。月子の周りだけ、空気が明るくなっている気がする。

生徒会に入ってから、こうして月子と話す機会が増えた。お互いの名前の呼び方も、夜久さんから月子、名字さんから名前ちゃんに。誰かを下の名前で呼ぶなんて久しぶりのことだったから、なんだか少しくすぐったかった。

「毎日雨ばっかりで、なんだか憂鬱な気持ちになっちゃうね」
「そうだね。屋上にも行けないし」
「名前ちゃん、屋上庭園が好きだもんね」

隣の席に座って笑う月子。ついこの間あった席替えで、私はこうして月子と隣同士の席になった。

くじびきで決まる席で、こうやってクラスに二人しかいない女子同士しが隣の席になる確率なんてほんの僅かしかない。私が生徒会に入ったばかりのこの時期に、こうして月子の隣になるなんてあのくじ、何か細工でもしてあったんじゃないかな…。

そうじゃなくても、私は思う。あのくじは絶対に細工したあったと。だって、そうじゃなかったら隣の席が月子だけじゃなく、こんなことにはならなかったもの。

「ねー錫也、お腹空いた〜」
「さっき朝ごはん食べたばかりだろ?」
「ふわぁ〜あ。ねみぃ」

月子の前の席にツンツン頭、私の前にアホ毛、その隣に変な前髪。…どうしてこうなった。

月子が隣なのはまだいい。許そう。どうして、月子の幼馴染たちまでこうやって私の席の周りに集まってきたのか。陽日先生か、陽日先生の仕業なのか。あの人がくじに細工をしたのか。

こいつらのせいで、毎日何かしらのことでイライラする。まず、ツンツン頭は授業中のいびきがうるさい。昼寝するなら屋上か保健室に行ってもらいたい。そして、前に座るアホ毛。ぴょこぴょこ動き回るアホ毛が邪魔で、黒板の字がよく見えない。そしてその隣に座る変な前髪は…まぁ、特に何もないか。

「ねぇ…アホ毛、そのぴょこぴょこしているやつ引っこ抜いていい?」
「…僕は、アホ毛じゃない」
「ああ、そっか。それを抜いちゃったら、アホ毛のあだ名がなくなっちゃうもんね…」
「ぶはははっ!羊のアホ毛は食い物レーダーでもあるからな。引っこ抜かれたら困るよな〜」

ほう…。アホ毛のアホ毛は食べ物レーダーなのか。って、アホ毛のアホ毛って言いにくいな。

なんて、こうして良くも悪くもない日々を過ごしている。最初の頃こそは私の態度に気まずい空気を漂わせていたクラスメートたちだったけど、今となっては慣れてくれたのか、少しだけど話しかけてくれるようにもなった。

でも、まぁ。団体行動が苦手なことに変わりはないけどね。

そのまま私は、ぴょこぴょこ踊るアホ毛に授業妨害されながらも、なんとか午前の授業を乗り切った。

「はぁー…。やっと終わった」
「お腹空いたね。名前ちゃんは、お昼どうする?」
「…購買で買いました」
「そっかぁ…」

月子の大きな栗色の瞳が、ゆらゆらと揺れた。まるで紅茶のアッサムを連想させるその瞳に見つめられてしまえば、私に対して効果覿面だった。

「…一緒に食べる?」
「いいのっ!?」

いや、だって、月子の瞳がそう訴えていたじゃん。一緒にご飯食べたいって。

生徒会に入ってからというもの、どうも月子に弱くなってしまった。月子と接する時間が増えたからっていうのもあるけど、生徒会ではよく月子にお世話になっているから…。

「おい、月子。学食行こーぜ!」
「僕もうお腹ぺこぺこだよ〜」
「ごめんね。あたし、名前ちゃんと食べるから!」
「なっ!?」

月子の言葉に、驚きを隠せないツンツン頭と、これで何度目だと呆れ顔のアホ毛。いや、なんかもう本当にごめんなさい。なんで私が謝らなくちゃいけないのか分からないけど、とりあえずごめんなさい。

私と月子が一緒にお昼を食べる回数が増える一方で、月子とその幼馴染たちが一緒にご飯を食べる回数が減っていった。どうやらそのことに、幼馴染たちはご不満を抱いているらしい。

「…彼女が生徒会に入ってから、随分仲が良いみたいだね」
「うん!」
「つーかお前、不知火会長に迷惑かけてるんじゃねーだろうな?」
「ははははははは」

渇いた笑いしか出てこない。どうしてかって聞かれたら、私の生徒会での態度を思い出してもらいたい。今でも時々、変態だって言ってセクハラを訴えてやろうと緻密な計画を立てているところなんだから。

「じゃあ、今日は五人で食べない?俺達も名字さんと仲良くなりたいし」

何を言い出すんだ、変な前髪。君の笑顔からは、私と仲良くなりたいという気持ちがまったく伝わらないんだけど。

「そうだね!名前ちゃん、そうしよう!」
「つ、月子…」

縋るような眼差しで月子を見つめたけど、どうやら彼女は私の視線の意味を理解してくれないみたいだった。

何が悲しくて、五人でお昼を食べなくちゃいけないんだ。誰がどう見ても私と月子の幼馴染たちは仲良しには見えないのに。特にアホ毛とツンツン頭は…いや、変な前髪も似たようなもんか。

月子を囲んで、笑いあう幼馴染三人。私は目を大きく見開いてその光景を見つめた。だって、四人並んだその後姿が、一瞬だけど誰かと重なった。どうしてだろう。一瞬だけど、黒いスーツに身を包んだ四人組みに見えた。

なんか最近、こういうことが多いなぁ。新しい環境に、入ったばかりの生徒会。慣れないことをして疲れているんだ。今日は、早く寝よう…。

そう思いながらも、私は四人の後をついて行った。






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14/01/11



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