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なんやかんやとありまして、私は生徒会に入ることになりました。いや、決してそらそらが淹れる美味しい紅茶に惹かれたわけじゃない。へんた…一樹会長が生徒会に入れば内申点が上がるぞと誘惑してきたからでもない。翼が新しい音楽プレイヤーを発明してくれると言ったからでもない。月子が毎日うるさく生徒会に勧誘してくるのをしつこいと思ったからでもない。

なんやかんやあったんだ。その一言で片付けてもらいたい。

というわけで、晴れて生徒会副会計になった私はこうして放課後になると生徒会室を訪れていた。

さて、今日も天羽の子守をしながら一樹会長が仕事をサボるのを食い止めて、弓道部や保健係と忙しい月子がやり残した仕事を片付けて、そらそらが嫌々淹れてくれる紅茶を飲もうじゃないか。

そう思って、生徒会室の扉を開いた。

「失礼しまー…っえ、」

開いた扉の先には、真剣な顔つきで書類整理を行うそらそら一人だけだった。


さめざめ五月雨咲き乱れ


気まずい。非常に気まずい。いや、生徒会に入ったんだからいつかはこうなるだろうと思っていたよ。生徒会室でそらそらと二人っきりなんて、ね。

二人きりの生徒会室には、ペラペラと書類を整理するそらそらと、翼が散らかしたであろう実験器具をカチャカチャと共同不審になりながらも片付ける私だけ。紙が擦れる音と、ガラスがぶつかり合う音。その二つが、密室の生徒会室を支配していた。

つまり、私とそらそらはさっき私が来てから一度も言葉を交わしていないことになる。

生徒会に入ってから二週間。普段は、一樹会長や翼、月子の相手をしているから、そらそらと何か言葉を交わすことなんて片手で数えられる程度にしかなかった。だから、あの三人がいなくなっただけで生徒会室はこんなにも静かになることを分かっていたはずだった。

だけど、だけどさぁ…。なんか空気が重すぎるような気がしませんか?気のせいですか?そうですか。

まぁ、誰がどう見てもそらそらが私のことを嫌っているのは事実だ。ちなみに、私はどうして自分がそらそらから嫌われているのか理解できていない。私が一体、彼に何をしたっていうのだろうか。

そらそらって呼んでいるのが悪いのか。いや、でも、颯斗なんて呼んだ日には視線だけで殺されそうな気がする。それだけ、怒ったそらそらは怖い。

ああ、だけど、昨日仕上げたこの会計報告書をそらそらにチェックしてもらわなくちゃいけない。いつもなら一樹会長にチェックしてもらうんだけど、今日はいないしなぁ…。

「っ、そら、そら…」
「……なんですか?」
「これ、できた」

なにが、「これ、できた」だよ!?私は幼稚園児なのか!?先月分の会計報告書が出来たので受け取ってくださいってくらいまともに言えないのか!?

生徒会に入ったばかりのことはよかった…。まだ、そらそらに反抗できる体力と勇気が残っていたから。だけど、だけど、ね?そらそらの黒板キーキーの刑にはさすがの私もまいったよ。体力的にも精神的にもいろいろとすり減らされた。

生徒会に入ることをあんなに嫌がっていた私が、こうして真面目に仕事をしている一番の理由はそらそらが隠し持っている黒板のせいなのかもしれない。おかげで、今ではいつ黒板が出てくるのかビクビクして待機しているくらいだ。

そんなビクビクしている私とは対称的に、そらそらは顔色一つ変えずに報告書を受け取った。そして、ペラペラと報告書に目を通していく。

昨日、何度もチェックしたから誤字脱字はないはず!!自分で言うのもなんだが、完璧に仕事をこなしたって言ってもいい。

「…この報告書、誰に頼まれたんですか?」
「…私が勝手にやったけど?」
「そうですか…」

お、おう。僭越ながら私が勝手にパソコンの中にあったデータをまとめて、書類にしたものをコピーしただけであります。

いやね、だって驚いたんだもん。翼が大量の仕事を片付けずに実験ばっかりしていたことに。おかげで今、私は翼がサボっていた分のツケを払わされている。仕事の量があまりにも多すぎて、一々翼にどうするか聞いていたら片付くもんも片付かない。そう思った私は、ほぼ独断で仕事を片付けていた。

「本当は今日、貴女にこの報告書を作るよう頼むつもりだったのですが…」
「マジか…」
「…お疲れさまです。紅茶でも淹れますね」

そう言って、そらそらは私が提出した報告書を机に置くと、立ち上がって生徒会室に設置されている簡易キッチンの方へと足を運んだ。

そんなそらそらを、私はただ固まって見つめることしかできなかった。いや、だって、あのそらそらが私に、「お疲れさまです」って言ったんだよ?いつも私のことを粗大ゴミを見るような目で見てくるそらそらが、だよ?生ゴミから粗大ゴミレベルに上がったのは嬉しかったけども。

たったそれだけのことだったのかもしれないけど、私にとってはとても嬉しい出来事だ。おかしいな。人と関わることを嫌っていたはずなのに、そらそらにはなぜかもっとこう…関わりたくなる。

なーんて、そらそらにお疲れさまと言ってもらったことが嬉しかった私は、かなり変な顔をしてニヤついていたらしい。紅茶を淹れて戻ってきたそらそらに、「その顔、やめてもらえますか?」と真顔で言われたのだから。

「…そらそらは、どうしてそんなに冷たいのさ」
「………。」

今のそらそらにだったら、どうして私をそんなに嫌うのか理由が聞けそうな気がする。そう、判断した。だから、そらそらから紅茶が入ったティーカップを受け取った私は、思い切って聞いてみた。

「逆に聞きますが、どうして僕のことをそらそらと呼ぶのですか?」
「…翼がそう呼んでいるから。そらそらってあだ名、なんか可愛いし」
「…おかしな人ですね」

そう言ったそらそらは、自分の席に戻ってまた書類整理を始めてしまった。

いや、ちょっと待ってよそらそら。まだ私の質問に答えてもらってないじゃないか。なに上手い具合にはぐらかしてくれているんだ。

もう一度同じ質問をしようとしたら、生徒会室の扉がパーンッと思いっきり開かれた。

「おうっ!お前ら、やってるか〜?」
「…タイミング悪っ」
「どこに行っていたんですか?一樹会長」
「ちょ〜っと校内巡回にな」

一樹会長は私の頭をポンポンと撫でながら、そらそらにそう言った。この会長、いつかセクハラやらなんちゃらで訴えることができるんじゃないかな?

「会長、そろそろ体育祭の時期ですからサボる回数が増えると…」
「わーってるって。明日から本気出す」
「そのパターンだと、絶対に明日もサボるじゃん…」

ボソッと呟いた私の発言は、一樹会長の耳に届いていたらしく会長からは苦笑いが漏れていた。

「まぁ、とにかく!梅雨が明ければ年に一度のビックイベント、体育祭だ。月子はインターハイの予選があってあまり生徒会に顔は出せないみたいだが、俺達だけでもなんとかなるだろ」
「会長と翼くんがサボらなかったら、ですがね」
「面倒な時期に入っちゃったな…」

三人が思うことはそれぞれ違うけれど、それでも一つの目標を達成するために協力し合おうとしている。

どうしてかは分からないけど、なんか前にも一度、こうして誰かと何かを成し遂げようとした気がする。どうしてだろう?今まであまり人とは関わらないようにしてきたつもりなのになぁ…。






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title by 誰花

14/01/29



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