Starry☆Sky | ナノ
※ヒロイン死ネタですので、苦手な人は読むのを控えて下さい。



気づいたら、俺は真っ白なプラットホームにいた。どうして俺がここにいるのかは思い出せない。あたりを見渡せば、ちらほらと何人か人がいた。…何か違和感を感じる。周りにいる人たちの目には、まるで何も映っていないような気がした。みんな、ただただプラットホームに電車が入ってくるのを待っている。

「哉太、」
「名前!」

そうだ、思い出した。俺は星月学園を卒業して大学生になったんだ。隣にいる名前とは星月学園で出会い、付き合ってからこうしてずっと一緒にいる。そうか、俺たちは一緒の大学に行って、毎朝一緒に登校しているんだった。どうして忘れていたんだろうな。

自然と俺の手に自分の手を絡めてくる名前に、思わず頬がゆるむ。こいつのちっせぇ手は出会ったときから変わらない。俺の手の中にすっぽりと収まる。昨日何のテレビを見ただとか、今日の講義が面倒だとか、そんなくだらないことを話して電車が来るのを待つ。

「…哉太」
「? なんだ?どうした?」
「哉太のこと、好きだよ」
「なっ!…うっせー」
「ふふっ」

鈴が音を鳴らすかのような声で名前は笑った。その笑い声が心地良くて、その笑い声をずっと聞いていたくなる。こいつはいつも、その鈴みてーな綺麗な声で俺の名前を呼んだ。こいつが声を発すると、空気が鈴みたいにリンッて音を出すんだ。その声が、俺は好きだった。哉太、と優しく動く唇が、いつも俺の弱さを包み込んでくれた。名前は、ただそこにいるだけで、俺にとってはかけがえのないものになっている。なぁ、俺もお前にとってそんな存在になれているのか?

「あ、電車が来た」
「ほら、行くぞ」

プラットホームに、電車の到着を知らせる放送は流れない。故障しているのか?さっきまで周りにいた人たちは、吸い込まれるようにその電車の中に入っていった。俺もそれに続いて電車に乗り込もうとした。だけど、俺はその電車に乗りそびれた。名前が動こうとしなかったからだ。俺の手を、名前なりの強い力でギュッと握って動かない。いつの間にか電車は出発してしまって、プラットホームは俺たち二人しかいなくなった。

「…名前?」
「哉太、星月学園での毎日は本当に楽しかったよね」
「いきなりなんだよ、」
「毎晩二人で屋上庭園に行って、飽きることのない星空をずっと見上げていたよね」
「そうだな」
「哉太は、いつが俺が撮った写真を沢山の人に見てもらいたいって言ってたよね」
「…ああ」

「…こんなところにいてもいいの?」
「…は?」

名前の言っている言葉の意味が分からなかった。こんなところって、どういう意味だ?…何かを思い出しちまいそうだ。嫌だ、俺は思い出したくない。今、俺の目の前にあるのが俺の日常で、俺はこいつとずっと一緒にいるって約束して、だけどあの冷たい雨の日に、名前はー…。

「哉太、私、哉太が撮った写真、見てみたいな」
「…名前」
「もう、直接は見ることができないけど、ちゃんとここから見てるから」
「そう、だったな」

まだ、桜の木が蕾をつける前に、お前は俺の前からいなくなった。あの寒い冬の冷たい雨の日。今でもあの身を刺すような冷たい雨を覚えている。あの日、名前はー…死んだんだ。道路に飛び出した猫を助けようとして、そのまま車にー…。ああ、これが俺の思い出したくないことだったのか。俺はもう、こいつには二度と会えないはずだったんだ。

名前の顔を見つめると、ふわりとあの優しい笑顔でまた笑った。どうやら、俺たちに残された時間はあと少ししかないらしい。俺は戻らなくちゃいけない。お前に、俺が撮った写真を見せるって約束したもんな。次に会うときまでに、お前にすごいって褒めてもらえる写真を撮ってくるから、それまで待っていろよな。そのまま俺は、名前に触れるだけのキスをした。あの優しい感触は、最後にキスをしたときと同じ感触がした。









「哉太!」

目を開けると、俺はベッドの上にいた。俺の顔を心配そうに覗き込む幼なじみ二人。ああ、そういえば倒れたんだっけ?おでこに乗っていた濡れタオルを触りながら、ゆっくりと体を起こす。…俺は……戻ってきたのか。名前がいない世界に。

「名前に…」
「え?」
「名前に会ったんだ」
「…そっか」

そう言って、幼なじみ二人は静かに涙を流した。それにつられて、俺の目からも生温い液体が零れ落ちる。なぁ、もしかしてあのままあの電車に乗っていれば、俺はお前とずっと一緒にいれたのかもしれない。だけど、俺もお前もそれを選ばなかった。…お前の性格は、俺が一番よく知っている。お前のその優しい性格なら、その選択が一番お前らしい。…だけど、そこに一人だけ取り残されて寂しくないか?…一人で泣いているんじゃないのか?

病室の開いた窓から、風が吹いてきた。その風は、鈴のような音を鳴らして、俺を包み込んだ気がした。まるで、名前が俺の名前を呼んでいるかのように。そう、だよな。俺はお前と約束したんだ。安心しろって。お前との約束を果たすまで、俺はそっちには行かねーから。だから、それまで待っていてくれ。お前が胸を張って自慢の彼氏だって言えるくらい、すっげー男になるから。そしてもう一度会えたときに、この言葉を言う。

「俺も、お前のことすっげー好きだ」







--------------------------------

12/11/11
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -