Starry☆Sky | ナノ
※ 琥太郎生誕記念


カツ、カツ。長い廊下を歩いた先に待っているいつもの扉。私の毎日は、この扉を開くことから始まる。ガラッと開けた扉の先には、片づいていない机とたくさんの書類。ため息をつきながらも、散らかっている書類を拾い集めていく。トントンッと机の上に整理した書類をおく。次に私がやることは、職務中にも関わらずベッドで寝ているこの部屋の主を起こすこと。だけど、今日はまだ早い。ベッドに近づいて、部屋の主が眠っていることを確認する。うん…大丈夫。熟睡しちゃってる。そのまま部屋の扉を開け、廊下に待機していた二人を呼ぶ。

「直ちゃん、水嶋先生、大丈夫。琥太郎先生起きてないよ」
「本当かっ!ようし、水嶋!急いで準備するぞ〜」
「ちょっと、陽日先生。大きな声出さないで下さいよ。琥太にぃが起きちゃったら、どうするんですか?」
「おっと、悪い、悪い」

抜き足、差し足、忍び足。こっそりと保健室の中に入る怪しい三人組。そう、今日は琥太ちゃんの誕生日。私はお祝いと日頃の感謝を込めて盛大にお祝いするため、直ちゃんと水嶋先生に協力してもらっている。日頃の感謝というのは、実は、私は体が弱くて普通の生徒たちみたいに毎日自分のクラスの教室に通っているわけじゃなく、保健室に通っている。つまり、保健室通いをしている。でも、先生たちは授業を保健室まで教えてくれるし、二人しかいない私ともう一人の女子生徒の月子ちゃんとかその幼なじみの2人もよく保健室に遊びに来てくれる。だから、みんなと違うのが嫌だとは思ったことがない。それに、保健室にいれば、琥太郎先生と一緒にいることができるし…。

「なぁ、飾り付けはこれでいいか?」
「あ、高い所は僕がやっておきますよ。陽日先生は小さいですから」
「小さいって言うなっ!」
「直ちゃん、声が大きい!」

バッと三人で琥太郎先生が寝ているベッドがある方を見る。ベッドのカーテン越しに「んー」とうなる声は聞こえたけど、琥太郎先生が起きる気配はない。…このやり取り、これで10回目くらいになるのに琥太郎先生ってば、全然起きないんだよね。今起きたら困るから、寝ていてくれた方が嬉しいけど。
部屋の飾り付けをして、東月くんに作り方を教えてもらったケーキをテーブルの上におく。よっし、準備はだいたい出来た。直ちゃんと水嶋先生は手にクラッカーを持つ。そして私は琥太郎先生を起こしにいく。琥太郎先生が起きた瞬間に2人がクラッカーを鳴らしてびっくりさせようっていう作戦。そーっと、琥太郎先生が寝ているベッドに近づく。

「琥太郎先生、起きてください」
「ん〜…ダメだ、まだ眠たい」
「起きてくださいっ」
「あと五分したらなー…」
「もうっ!琥太郎先生ってば!」

うっすらと目を開ける琥太郎先生。チラッと目を私の方に動かして、また目を閉じる。しばらくすると、ゆっくりと身体を起こす琥太郎先生。今だっ!と思って、カーテンの後ろに隠れている直ちゃんと水嶋先生に合図を送る。私が合図を送ると、バッとカーテンが開いて、パーンッと保健室にクラッカーの音が鳴り響く。そして、私たちは声を揃えて「ハッピーバースデー!琥太郎先生(にぃ)」と叫んだ。2人のいきなりの登場に唖然とする琥太郎先生。作戦成功だねっと言い、2人とハイタッチをする。キャッキャと喜ぶ私たちを見て、琥太郎先生はようやく状況をつかめたみたいだった。

「土曜日に名前がいるのはおかしいと思ったんだ」
「琥太郎先生、驚いたか!?」
「ああ、驚いたよ」
「名前が俺たちに提案したんだぞ!」
「まったく。彼女の提案じゃなかったら、せっかくの土曜日をこんな風には使わないよ」
「直獅、郁…ありがとう。それに名前も」

そう言って琥太郎先生は私の頭を撫でてくれた。琥太郎先生の手はひんやりとしていて、今の季節には少し冷たい。だけど前に直ちゃんが、手が冷たい人は心が温かいんだぞ!って言っていた意味がよく分かる。琥太郎先生がいるおかげで、私はこの学園に通えているし、友達も作ることができた。病気がある私を受け入れてくれる学校はなかなかなくて、そんな私を琥太郎先生はあっさりと簡単に受け入れてしまった。そのことが琥太郎先生にとってはなんてないことかもしれないけど、私にとっては、すごく嬉しいことだった。琥太郎先生、本当にありがとうございます。

「あ、あの!ケーキ作ったんです」
「名前の手作りか?」
「はい!」
「じゃあいただこうか」
「すごく上手に作ったもんな!」
「名前にしては上手く作れた方だよね」

4人でテーブルを囲んで座る。先生たちは大人だから、ちょっぴり苦いビターチョコを使ったチョコレートケーキを用意した。8当分に切り分けてお皿に盛り付ける。その間に、水嶋先生は紅茶を入れてくれた。ふわっとした紅茶の香りとビターチョコの香りが混ざり合って、保健室が一気に賑やかになる。直ちゃんは、この日のために練習したハッピーバースデーの歌を琥太郎先生に熱唱して聞かせている。水嶋先生は若干引いていたけれど、琥太郎先生はすごく楽しそうだった。

「歌も歌い終わったことだし、さっそく食べるか!」
「「いただきます」」

その後、みんなでケーキを食べていつもみたいに少しお喋りをしたあと、直ちゃんと水嶋先生は仕事があるからと言って、職員室に戻ってしまった。それと一緒に寮に戻ろうとした私を、琥太郎先生が寮まで送ってくれることになった。最初は遠慮したけれど、琥太郎先生の押しに負けて、結局送ってもらうことになった。少し赤くなった木の葉を眺めながら、私と琥太郎先生は寮までの道を歩く。

「今日はありがとうな」
「いえ!琥太郎先生が喜んでくれてよかったです!そうだ、私ケーキしか持っていけなかったんですけど…琥太郎先生、何か欲しいものはないんですか?なんでもいいですよ?」
「なんでもいいのか?」
「私に用意できるものなら」

「そうだな…だったら、」
「え?」

ふわっと琥太郎先生の顔が近づく。そのまま、ほっぺにチュッという音を残して離れていった。…今のって、キス?顔の中心に熱が集まるのが分かった。満足げに笑う琥太郎先生とは正反対に、ビックリして何も言えなくなっている私。「なんでもいいって言ったのは、お前だろ?」って笑う琥太郎先生に何も言い返せない。真っ赤になってうつむく私の手をとって、琥太郎先生は寮までの道をまた歩き出した。







--------------------------------

12/10/13
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -