Starry☆Sky | ナノ
※人魚姫パラレルです。苦手な方は電源ボタンを押すことをオススメします。

これの続き



その日の帰りだった。また次の満月に逢おうって二人で約束して帰った。身体が、まだ熱い。琥太郎と初めてキスした。男の人と初めてキスした。…男の人とましてや『人間』とキスしただなんてお父様に知られたら、あたしは一生外の世界に出してもらえないかもしれない。そしたら、琥太郎と逢えなくなる。そんなことになったら、あたしはどうなっちゃうのかな。琥太郎と逢えないだなんて、考えただけでも胸が痛くなる。ギュウギュウっと何かで締め付けられているみたい。すごく、痛い。

「おや?お前は人魚王の一人娘じゃないか」
「…あなたは?」
「私かい?私は…魔法使いさ。…見たところ、お前さん恋をしているね?」
「え?」
「それも相手は敵であるはずの『人間』」
「!? どうして、それを」
「魔法使いだからさ」

魔法使いと名乗る黒いマントを羽織ったお婆さん。下半身は何本もの触手がウニョウニョと不気味に動いている。お婆さんはあたしに「二本の足が欲しくないか?」と訪ねた。二本の足…それがあれば、あたしは琥太郎と同じ『人間』になれる。だけど、それはあたしが人魚じゃなくなることも意味している。だけど、それでも…。たとえ、人魚を裏切ったとしても琥太郎の隣にいられるなら…。
魔法使いは交換条件としてあたしの声をもらうと言った。人魚王の娘であるあたしの声は特別だってお父様が言っていた。あたしが歌えば海の生き物たちは安らぎ眠りにつく。あたしが泣くと海は荒れ狂う。そう言われてきた。だけど、琥太郎とあたしの声だったらあたしは琥太郎を選ぶ。あたしは思わず頷いてしまった。その魔法使いが魔女だということを知らずに。

「ただ、もしお前がその『人間』に愛されなかったときは…お前は泡になる」
「泡に…」
「どうなるかは全てお前次第。さぁ、その美しい声をもらうよ」
「…はい」









目が覚めたときには、砂浜にいた。起き上がろうとしても、上手く起き上がれない。魔法使いから貰った二本の足は、動かそうとするとガラスに刺さるような痛みがした。立てない…これじゃあ琥太郎に会いに行けない。声も出ないあたしはどうすることも出来ない。誰か来てくれれば…琥太郎。

「…お前は、」
「!?」
「どうしてこんなところで倒れているんだ!?」
「………。」
「声が、出ないのか?」

運命って本当にあるのかもしれない。助けにきてくれたのは琥太郎だった。コクリとあたしは首を縦に振る。琥太郎は、あたしのことをお姫様だっこすると、どこかへ歩き出した。…おかしい。琥太郎はさっきから一度もあたしの名前を呼ばない。どうして?琥太郎が聞いてくることといえば、どこから来たのか?とかまるで初めて会う人のようだった。琥太郎に連れて来てもらったのは、前に琥太郎が住んでいると言っていた城。城の中に入ると、綺麗な女の人がいた。綺麗、だけどなぜか怖い。思わず、琥太郎の服をギュッと掴んでしまった。

「彼女は俺の婚約者だ」
「…?」
「琥太郎さん、その子は一体…?」
「!?」

だって、そんな、そんなはずは…!?その人の声は、今まであたしが使っていた声だった。魔法使いとの契約でその声は魔法使いに渡したはず。なのに、どうしてあなたがその声を…?分からないことがぐるぐると頭の中を回りだす。あなたは、一体誰?琥太郎の婚約者って?あたしは何のために声を失ってまでここに来たの?その女の人と別れると、琥太郎は自室にあたしを連れて行って、優しくソファに座らせてくれた。

「名前は?」
「………。」
「そうか、声が出ないからな…でも名前は必要だな…名前とかどうだ?」
「!?」
「笑わないで聞いてくれよ?お前は昔の俺の知り合いに似ているんだ」

さっきまで感じていた違和感がようやく分かった。肩あたりまでの短さだった琥太郎の髪が、今は胸のあたりまである。そう、あの日から時間が進んでしまっている。原因は分からない。だけど、あの日から来なくなったあたしを琥太郎は待ち続けでくれたんだと思う…。そのあたしが現れなかった。だったら、婚約者がいることも頷ける。ツウッとあたしの頬を涙が伝った。それは止まることを知らないのか、次々と流れてくる。そんなあたしを見て琥太郎は慌てて指で涙を拭ってくれた。それでも泣き止まないあたしを、琥太郎は抱きしめてくれた。…この、腕の温もりは昔と変わらないんだね、琥太郎。

それからの城での暮らしは、幸せだったけど辛かった。琥太郎はあたしにとても優しくしてくれた。あたしが寂しいときはいつも一緒にいてくれた。だけど、それでもあの人に呼ばれるとどこかに行ってしまう。「ごめんな」って言う琥太郎の顔が悲しみに揺らいでいた。琥太郎はよくあたしのおでこにキスをしてくれる。寝る前だったり、突然だったり…。キスしてくれた琥太郎を見上げると、琥太郎は必ず優しく笑った。

「名前、人魚姫って知ってるか?」
「………。」
「聞いてくれるか?俺は昔、人魚に逢った。…俺はあいつのことを愛していた。あいつも俺のことを愛してくれていると思っていた。だけど、ある日突然そいつは姿を消した。…どうして、今こんなことを思い出すんだろうな。名前があいつと似ているから、か」

あたしは琥太郎の手を自分の両手の平で包み込む。琥太郎は、また優しく笑った。そして、あたしの顔を真っ直ぐ見つめた。ねぇ、琥太郎…あたしがその人魚なんだよ?こうやって二本の足を手に入れてまた逢いにきたんだよ?あたしも貴方のこと愛してるよ?声がでなくても、この想いだけは貴方に伝わってほしい。琥太郎…あたしも、愛してる。

「…明日、あいつとの挙式がある」
「!?」
「お前も、参加するんだぞ?」

そう言って琥太郎はあたしのおでこにキスを落として部屋から出て行った。…明日、あの人と、琥太郎、は、結婚、する。そう、だよね。あの人は琥太郎の婚約者なんだから…。じゃあ、あたしは?あたしは琥太郎にとって何?ふと、魔法使いとの約束を思い出した。愛されなかったあたしは…泡になる。…きっとあたしは泡になってしまう。そう思ったら、体が自然と動いていた。向かった先は琥太郎といつも逢っていたあの場所。どうせ泡になるなら、琥太郎との思い出の場所で…貴方のことだけを考えながら、泡になりたい。琥太郎…貴方のこと恨んでいないから。だから、せめて、あたしがいない世界で幸せになって、ね?

「名前!!」

あたしの下半身が全部海に入ったとき、バシャバシャと誰かが海に入ってくる音がした。そして、急に後ろから抱きしめられた。振り返らなくても分かる。琥太郎、どうしてこういうときに貴方はいつも現れるの?明日結婚するあの人はどうしたの?
あたしは静かに振り返って琥太郎を見る。そして、あたしは首を横に振った。貴方は国のために…あたしは貴方のために…。そんなあたしを見て、琥太郎は涙を流した。

「どうして、気づかなかったんだろうな。名前はずっと俺の隣にいたのに…」
「………。」
「俺も、一緒にいく」
「………。」
「名前、もう離さない」

そう言った琥太郎とあたしは微笑み合った。そして、バシャンッと二人で海の中に倒れ込む。すると不思議なことに、あたしの二本の足はあの瑠璃色の尾鰭に変わった。それを見て、琥太郎は泣きそうな顔で微笑む。どちらともなく、あたしたちはキスをした。そしてあたしたちは沈んでいく。暗い、暗い、海の底へ。願わくば、来世のあたしたちは二人で笑って過ごせますように…。







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12/09/16
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