Starry☆Sky | ナノ
※人魚姫パラレルです。苦手な方は電源ボタンを押すことをオススメします。





夜の海は星明かりに照らされている。思わずため息が出てしまうこの幻想的な光景を見つめていた。この浜辺に近い岩陰で。どうしてこんなところでこの光景を見ているのかというと、あたしは人に見つかってはいけない存在だから。パシャッ、パシャッとあたしの下半身は海に波をたてる。波をたてているのは2本の足じゃなくて、瑠璃色に光る尾鰭。そう、あたしは人魚。物語の中だけの存在ではなく、正真正銘の人魚。今日もあたしはこの鰭を隠して星空を見上げる。

「キュッ」
「分かってるよ。あんまり長く居たらお父様に叱られちゃう」

ついて来てくれたイルカを撫でる。人魚王の一人娘であるあたしは、こうして岩陰に登ることを許されていない。海面から顔を出すことですら許されていない。昔、このあたりに住んでいる人間たちとあたしたち人魚は仲がよかった。だけど、あるとき人魚の肉を食べれば不老不死になれるという噂が広まった。そのときに始まったのが人魚狩り。たくさんの仲間を失ったとお父様は言っていた。もし、あたしが今人間に捕まれば都合のいい囮として利用される。そんなことは分かってる。分かってるけど…。
初めて星空を見上げたのはいつだったかな。それすらも思い出せないほどあたしはこの場所から星空を見上げた。海の中では見ることが出来ないとても美しい光景。キラキラと光る粒が何億という集まりの中で輝いている。その夜空に大きく輝く月は、まるで海の中でみる海月(クラゲ)のようだった。

「誰かいるのか?」
「!?」

誰もいないはずの岩陰に響く声。声の低さからして…男の人?急いで海に飛び込もうとしたけれど、遅かった。星明かりに照らされたこの岩陰であたしたちは出逢ってしまった。美しい、と思ってしまった。その人の肩あたりまである若竹色の髪を風が揺らしていて、髪と同様の色をした目にはあたしの姿が映っていた。

「お前は…!」
「か、狩らないで下さい」
「…狩る?」
「出来ることは何でもします!お願いです、狩らないで…」

星が綺麗な夜だった。いつものように城から見上げる星空。なぜか今日は城のバルコニーから見えるあの砂浜で星を眺めたいと思った。きっとそれは運命だったのかもしれない。空を見上げながらフラフラと歩いていつの間にか俺は海岸にある岩陰の近くにいた。どうしてこんな所に来たのか分からない。引き返そうと思ったときに、パシャッと水が跳ねる音がした。魚かと思ってその岩陰に近づいたら、彼女と出会った。

星明かりに照らされて青白く輝く綺麗な瑠璃色の尾鰭。あまりにも幻想的なそれは海の水と一体化していて息をのむ美しさだった。そして人間とは思えないほど白く透き通った肌。当たり前だ、彼女は、人間、じゃ、ない。人魚姫。その単語だけが、ただただ頭の中をぐるぐると回った。彼女は「狩らないで」と言った。恐怖に近い何かに震える桜色の唇が俺を誘惑する。俺は、一目で彼女に溺れてしまった。

「狩らないさ」
「本当ですか?」
「ああ。そのかわり、またここに来てくれ」
「?」
「お前のことをもっと知りたいと思った」
「…あたしも、」
「ん?」
「あたしも、貴方のことが知りたい」

それがあたしと彼の出逢いだった。それからあたしたちは満月の夜だけここで逢おう、と約束した。彼とあたしはいろいろな話をした。例えば、彼はこの海の近くの城に住んでいるとか、星が好きで星に詳しいとか、医学を専門に学んでいるとか…あたしはただ、『人間』という彼の存在に興味があった。だけど『人間』だったら誰でもよかったってわけじゃない。彼だったから…琥太郎じゃないとダメなの。この気持ちは、一体何て名前を付けたらいいんだろう。

「結婚させられそうなんだ」
「…誰と?」
「隣の国の大臣の娘」
「結婚、したら琥太郎はここにこれなくなっちゃうの?」
「…ああ」
「それは、嫌だ」

結婚ってお父様とお母様みたいな夫婦になるってことだよね?お互いが相手のことをすごく愛していないとダメだってお母様が言っていた。あれ?じゃあ、琥太郎はその大臣の娘のことを愛してるの?…どうなんだろう。そう琥太郎に聞くと「会ったことすらない」って言った。聞けば、国同士が仲良くするために仕方なくしなくちゃいけないことだって。仕方なく、結婚するの?そのせいであたしと琥太郎が会えなくなるのは嫌だなぁ…。

「名前、」
「? なぁに?」
「俺は、お前が好きだ」
「!?」
「初めて逢ったあの日から、俺がお前のことを考えなかった日はない」
「琥太郎…」
「名前は俺が嫌いか?」
「好きだよ、好き。…好きだけど、でも」
「名前」
「あたしは人魚で琥太郎は人間なんだよ?」

琥太郎の目を真っ直ぐに見つめる。動揺とか緊張とか不安に揺らぐその目は、目が合うと真っ直ぐ見つめ返してきた。しばらく、見つめ合ったままお互い何も話さない。琥太郎の手のひらがあたしのあごを包む。それを受け入れるように、あたしは目を閉じる。琥太郎の顔が近づいてくることが、なんとなく気配で分かった。そのままあたしの濡れた唇に伝わる暖かい温もり。それが琥太郎の唇だって理解したときには、お互いがもうキスに夢中になっていた。

…お父様、ごめんなさい。あたしは彼…『人間』に恋をしてしまいました。小さいころから、ずっと凶暴だと聞かされてきた『人間』は凶暴じゃなかった。琥太郎みたいに優しくて暖かい人もいるってことを知った。…琥太郎の唇がゆっくりと離れる。銀の糸がぷつんと切れた。お互い何も話さない。あたしは、自分の尾鰭を見つめた。月の光に輝くそれを、あたしは初めていらないと思った。琥太郎と同じ2本の足だったらよかったのに、って思った。







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続き:声にならない君への愛してる

12/09/16
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