Starry☆Sky | ナノ
空へ向かってただひたむきに真っすぐ咲く花は、太陽の輝きと共に光る青い星だった。
そんな花のように、私はなりたいと思った。

太陽のように輝く貴方のもとで、あの青い星のようにそっと寄り添いたい。それが、私の願いだったから。


I love you best when you are sad.


星月学園生徒会長・不知火一樹は太陽のような人だ。
横暴で強引な生徒会長だなんて言われているけど、そのカリスマ性には誰もが惹かれ、生徒たちからとても慕われている。

そんな彼が率いる生徒会が私にとって一番心地の良い場所だった。

生徒会長の一樹を筆頭に副会長の颯斗、書記の月子、そして会計の翼。その中で私は庶務として彼らと共に青春を過ごした。

桜が美しく咲き誇る春には、入学式やオリエンテーションキャンプが行われた。入学式での一樹のあの挨拶は、いま思い出してもおかしくて笑っちゃう。

確か、入学式が始まる前に二人きりの生徒会室で何度も練習していたっけ。

「俺は星月学園の生徒会長の不知火一樹。つまり、俺がここの支配者ってわけだ。俺が白と言えば、烏も白!この学園では、俺がルールだ!俺についてくれば、めちゃくちゃ楽しい学園生活がお前らを待っている!この学園に文句や意見がある奴は、この俺に言ってこい。まっ、俺に楯突く勇気があれば、な」
「…本当に今回もその挨拶するの?」

バッチリとウインクまで決めた一樹をあきれ顔で見れば、当の本人は自信満々といった表情を崩さずに大きく頷いた。

「当たり前だ!事実を述べているんだからな。」
「一樹の次に生徒会長になる人は大変そう。」
「そうか?だが、名前も嫌いじゃないだろ?この挨拶。」
「うーん…一種の名物としては捉えているけど…。」
「名物?はははっ、大いに結構!俺は伝説に残る男になる!」
「はいはい。もうすぐ体育館に行く時間だよ。」
「相変わらず厳しいな。ま、その冷静さで今年も俺を支えてくれよな。生徒会庶務・名字名前!」
「…そうだね。」

あのとき一樹が言ってくれた言葉がどれほど嬉しかったかよく覚えている。月子と颯斗が入学してくるまでは二人きりの生徒会だったから、一樹のことを支えなくちゃって必死になっていたことも。

そんな私の気持ちなんて露知らず、一樹は一直線に突き進んでいっていたけど。だけど、いま思い出してみれば私も一樹に支えてもらっていたのかも。彼は太陽だから。相手が気づかない内にその闇を照らして消してしまう存在だったから。

それから季節は少しだけ進んで、夏には体育祭や七夕祭に星見会なんて行事もやった。

体育祭では、二人三脚リレーで優勝したチームに生徒会が叶えられる範囲で一つお願い事ができるルールを一樹が作った。
そして実際に弓道部が優勝して、月子のために弓道場に女子更衣室を設置したんだっけ。

「生徒会室にはラボ、弓道場には女子更衣室…今年は早くも予算オーバーになりそうな気がする…。」
「そこは名前が何とかしてくれると信じているぞ。」
「あのねぇ…。でも、翼や月子の笑顔が見れたから何も言い返せない…。」
「俺らにとっては子どもたちの笑顔が何よりものご褒美だしな!」
「子どもたちって言っても、年はそう変わらないでしょ。」
「でも、生徒会では俺が父さんで名前が母さん、そして月子と颯斗と翼が子どもだろ?」
「その設定好きだね…。まぁ、子どもたちの笑顔のために頑張ろうとは思えるかな。」
「な!俺、お前のそういうところ好きだ。」
「っ…分かったから、仕事して。」

生徒会のお父さんは一樹で、お母さんは私。そして私たちの子どもが颯斗と月子と翼…。その設定を一樹の口から聞く度に、頬は自然と緩んでいた。

でも、一樹の過去を知っていたから同時に複雑な気持ちになった。

誰よりも『家族』に憧れを持つ彼が作った、『家族設定』。それも本人は無意識でやっていたんだろうけど。だからこそ、私の根底には一樹を支えたいっていう気持ちが強かったのかもしれない。

そして木々が鮮やかに染まる秋には、文化祭をやった。

「『スターロードを好きな人と歩くと結ばれる』『スターロードで女の子からキスをしたカップルは永遠に結ばれる』…。これってどれも一樹が考えたやつでしょ?」
「…これは代々伝説として受け継がれていてだなぁ。」
「そもそもスターロードを始めたのは一樹と私だし。それなのにある日突然、『スターロードには伝説がある!』って言い出したじゃん。桜士郎まで巻き込んで外部に大々的に宣伝してたし…。」
「まぁ、そのおかげで外部から遊びに来た人も多かっただろ。」
「おかげさまで今年も大繁盛ではあるけど…。」
「だろ?…まぁ、ひと段落着いたらスターロード歩きに行くか?二人で。」
「一樹と私で?」
「もちろん。」
「…ひと段落着いたらね。」
「ああ!」

その日一樹と一緒に歩いたスターロードの光景はいまも覚えてる。『スターロードを好きな人と歩くと結ばれる』なんてジンクス、一樹が考えたものだって分かっていてもすごくドキドキしたから。

心臓が口から飛び出ていってしまうんじゃないかってくらい鼓動が激しくて、涼しいはずの秋なのに身体は火照っていて隣で喋る一樹の話がまったく頭に入ってこなかった。
あとから聞いた話だけど、あのとき桜士郎と誉がこっそり後ろからついて来ていたらしい。桜士郎がそのときに隠し撮りをしていて、その写真を私にくれた。

それを今も大切に持っているなんて、一樹は知らないだろうなぁ。

最後は、純白の雪が舞い降る冬。生徒会主催のベツレヘムの星祭が催された。

あの時期にはもう、私も一樹も『卒業』を意識していた。だけど、お互いの口からその言葉を出すことはなかった。
むしろ現実から目を背けて空回りばっかしていた気がする。でも、ベツレヘムの星祭が終わってしばらく経ってからそのときのデータ整理をしているときに、一樹がポツリと弱音を漏らした。

「これが、最後のベツレヘムの星祭だったんだな…。」
「…最後なんて、言わないでよ。」
「……悪い。…ダメだな。一度感傷的になっちまうと、どんどん寂しくなっていく。」
「…一樹のせいでしょ。」
「…名前に、そんな顔させるつもりじゃなかったんだけどな。」

二人きりの生徒会室で、こっそりと涙を流したあの日。

私も一樹も星月学園が大好きだった。一樹は誰よりも長い時間をこの学園で過ごし、そして常にこの学園のために自分が出来ることは何かを考え続けていた。それくらい、大切な学園だったから。
私は、この学園で大切にしたい、支えたい、と思う人に出会った。それは目の前にいる一樹で、そんな一樹と過ごした学園での日々は星の光の如く輝く大切な宝物だったから。

そのどれもが忘れられない色鮮やかな想い出で、目を閉じればすぐにあの日の光景が蘇る。

そんな四季折々で、私は太陽のような彼に恋をしていた。

「懐かしいなぁ…。」

空に輝く星々を見上げながら呟いた言葉は、どうやら隣の彼に届いたらしい。

「何が懐かしいんだ?」
「んー?あれから10年経ったんだなって。」
「そうだな…。あっという間の日々だったが、目を閉じれば今でもすぐにあの日に戻れる。」
「それくらい、大切なんだよ。」
「名前とも出逢えたからな。」
「…私も、一樹に出逢えた。」

私がそう言えば一樹はそっと肩を抱き寄せ、若草色の瞳に私のことを映した。

「こうして俺たちが出逢って10年が経ったわけだが…俺の気持ちはあの頃のまま変わらない。ずっと、名前のことを想っていた。」
「どうしたの?急に…。」
「いや、ここからがまた始まりだと思ってな。ここが一つの区切りってわけでもないが…次の10年も、名前には俺の隣で笑って…そして、俺のことを支えてほしい。」
「10年でいいの?」
「お前なぁ……ずっとがいいに決まっているだろ。ずっと、俺の隣にいろ。」
「もちろん。私は10年前からそう願っていたから。」
「っ…!ははっ、ありがとうな。…愛してる。」
「私も、愛してる。」

10年前、私は花になりたかった。太陽に向かってただひたむきに真っ直ぐ伸びるあの青い花に。

それは、10年経った今でも変わらない。

きっと、貴方がそこにいる限り…ううん、例え貴方がいなくなってしまったとしても、私の想いは変わらない。貴方という存在に出逢えたあの日から、私は決めたから。

貴方を支えようって、悲しんでいる貴方…一樹を愛そうって。最初は願いでしかなかったそれが、今はこうして現実として目の前にある。星座の導きのおかげで二人の想いが重なったから。

…ありがとう、私と出逢ってくれて。ありがとう、10年経った今も変わらずに私の傍にいてくれて。

私が出来ることなんて限られているかもしれないけど、次の10年も、ずっとその先も私は貴方の隣にいて、愛し続けるから。

だから…これからも、一樹は私にとっての太陽でいてね。

そんな私の想いに気づいたのか、一樹は優しく微笑んで柔らかいキスをくれた。


2019.4.19
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