Starry☆Sky | ナノ
注意※表現に綺麗ではない部分があるため、何でも許せる方向け。

生まれたときから、ずっと一緒にいる存在がいた。その存在と俺の関係に名前を付けるとするなら、従妹…いや、もはや名付けることもできない。

彼女は俺の一部で、俺は彼女の一部なのだから。

俺は不知火清心の息子で、そして彼女は不知火宗次郎の娘。
生まれた年が同じで、生まれた日も近かった俺たち。

だから俺たちは、まるで兄妹のように育てられた。俺の両親が共働きだったこともあり、俺はよく不知火神社に預けられていたから。だからこそ、俺の人生も、名前の人生も、お互いをなしには語れない。

名前の母親が彼女を置いて出て行ったときも、俺の両親が交通事故で亡くなったときも、初めてできた大切な友だちを失ったときも。

俺たちは、ずっと一緒にいた。
そのせいか、俺たちは普通の幼馴染とは少し違っていた。

「もう、日が暮れるな…」
「季節が夏から秋に移り変わったものね」

俺と名前は今、星月学園にある生徒会室の窓から二人で空を見上げていた。俺がいつも座っている生徒会長専用の椅子に、名前を膝の上に乗せて座った状態で。

こうして座ったときに、彼女の細い腰に腕を回してその腹の前で手を組むのが好きだった。そうすれば、彼女の温もりがじんわりと伝わってくるから。

誤解しないでほしいが、俺と名前は付き合っているわけではない。ただの従妹であり、そして幼馴染だ。まぁ、だからこそこうしていると、他人から幼馴染の枠から外れていると言われるんだがな。

だが、それがどうした?俺たちの関係が幼馴染という関係にもう収まりきらないことくらい、自覚している。

幼稚園も、小学校も、中学校だってずっと同じ学校に通っていた。そして、俺が星月学園を受験すると決めれば、名前も共学になったばかりで女子生徒が一人もいない学園に迷うことなく受験すると決めた。
しかも、長期入院によって俺の留年が決まれば、彼女はわざわざ学校に行かずに毎日俺の見舞いに来たことで、出席日数が足りずに留年した。

別に、俺がそうしてくれと頼んだわけでも、名前がそうしたいと思ったわけでもない。だってこれは、俺たちにとって当たり前のことなのだから。

小さいときから、そうだった。一人が風邪を引いたりして学校を休めば、もう一人は風邪を引いていなくても学校を休む。一人が放課後の学校で先生に居残りをさせられていたら、もう一人はそれが終わるまでずっと待つ。

そうやって、ずっと二人で過ごしてきた。

だからもう俺たちは、片方が欠けてしまえば息もできない。酸素のようにいつもそこに在る、それが名前だった。

「今日の夕飯、どうしよっか?」
「んー…部屋で食べようぜ。寒いから鍋がいい」
「お鍋かぁ…。いいね」

そんな俺たちだからか、星月学園が星座別に分けられた全寮制の学園だと言われても離れることなんてできなかった。だからと言って、学園が俺たち二人のために部屋を用意してくれるわけがない。

いくら俺たちが従妹だと言おうと、世間からして見れば立派な男と女だからだ。

というわけで、俺は周りには秘密にして名前のいる職員寮で生活している。もちろん、職員たちに、隣の部屋で生活している月子にすら気づかれないように、職員寮の造りや見回りの巡回を念入りに調べた上でだ。

言っただろ?俺は名前がいなければ何もできないし、名前は俺がいなければ何もできない。それを歪んだ関係だと嘲笑う奴には、勝手に言わせておけばいい。

朝起きるのも、朝食をとるのも、登校するのも二人で。
帰宅するのだって、夕食をとるのだって、寝るのだって二人だ。

そして、それはさらに深いところまでー…。

「なぁ、こっち向けよ」
「はいはい」

名前の耳元で囁くようにしてそう言えば、まるでそれが合図だったかのように彼女は肘掛の部分に足を投げ出し、俺の首に腕を回した。

「名前…」
「一樹って、本当にこれが好きだね」
「そう言うお前もだろ?」
「ふふっ。それもそうだった」

するり、と名前の頬に手の平を滑らせる。そして顔を近づけやすいように俺の方へ向ければ、ピタリと重なり合った唇。それは一瞬で離れるも、すぐにまた重なり合う。

この行為がいつから始まったかなんて、もう覚えていない。お互い、最初はただの興味本位だったと思う。

俺たちがまだ幼稚園か小学生だったころ、居間で遊んでいたときにたまたまテレビで流れていたドラマ。それは、子どもの俺たちにとっては刺激が強すぎる内容だった。それでも、俺たちの好奇心を煽るには充分な内容で…。

俺の両親は働きに出ていて、叔父さんは神主の仕事で神社の方にいる。居間にいるのは、子どもの俺たち二人だけ。その状況が、俺たちの好奇心にさらに拍車をかけた。

気付けば、俺たちは必死でお互いの唇を舐め合っていた。ドラマにあったそれのように、何度も何度も繰り返して。そのころはまだ、舌を絡める深いキスなんて知らなかったもんだから、お互いの口の周りが唾液でべたべたになるまでただ舐め続けるばかりだった。

そのときに感じた、下半身からゾクゾクと湧きあがる快感。俺たちは、すっかりそれの虜になってしまった。

そして大人に近づいた俺たちは、口の周りを舐め続けることが正しいことじゃないくらいもう知っている。

「んっ…舌、出せよ」
「ふぁい」

べ、とはしたなく出された名前の舌。その舌に俺が吸い付けば、彼女は身体を震わせた。

それがなぜだか嬉しくて、俺はさらに身体を密着させてそれを続ける。ああ、やっぱり、この行為は気持ちいい。
口の周りを舐めていたころとは違い、口端から零れる唾液によってベタベタになった顔。そんな名前の顔があまりにも厭らしくて、あの湧きあがる快感がさらに強くなる。

この快感の虜になってしまった俺たちは、初めて味わったその日から大人たちに隠れて何度もしてきた。

時には抱える悲しみを忘れたくて。
時には、ただ快感だけを求めて。

世間からすれば、恋人でも夫婦でもない俺たちがこれをするのはイケナイことなのだろう。だが、お互いの間に愛があれば何の問題もないだろう?俺は名前のことを愛しているし、名前だって俺のことを愛している。

きっとみんな、恋人だの夫婦だのという名前の付いた関係で相手を縛らなければ不安なのだろう。でも俺たちの間には不安などない。お互いに離れないのだから、関係に名前をつけて縛る必要もないのだ。

それに、この関係に名前を付けるのは嫌だ。特に理由があるわけでもないが、ただただ不快に感じるし居心地が悪くなる。

むしろこの関係に名前を付けてしまえば、付けたその瞬間に終わってしまいそうな気さえしている。

「ちゅ、ん…はぁ…。やばいな…」
「んっ…どうしたの?」
「足りない。全然足りないんだ…」
「…私も」

関係に名前もないままに、俺たちは進み続けた。それはもう、戻ろうにも戻れないところまで。

俺たちは、お互いがハジメテの人だから。

手を繋ぐのも、抱きしめ合うのも、キスをするのも。セックスをするのだって、俺は名前がハジメテで、名前は俺がハジメテだった。

「ここだと、もうすぐ職員の誰かが見回りに来るな…」
「寮まで、我慢できる?」
「…無理」
「だと思った。一樹が、男の人の顔してるから」
「お前だって、してほしそうな顔だぞ」
「でも、やっぱり寮まで我慢だよ」

その提案を飲み込むことができずに、俺は名前のことを熱っぽい瞳で見つめながら太ももを撫でる。お前が欲しい、そう訴えかけるようにして。

「だーめっ」
「んでだよ…」
「ここでしちゃったら、次からここに来るたびにしたくなっちゃうから」
「…仕事にならなくなるのは確かだな」
「でしょ?」
「…分かったよ。寮まで我慢する」

そう言って俺は、まるで降参とでも言うように両手を上げる。そうすれば、名前は俺の膝から降りて乱れた髪を整えた。

そしてそれぞれ机に置いていた鞄を手に取り、どちらからともなく指を絡めて手を繋ぐ。

「早く帰ろっ」
「ん。寮に戻って全部終わったら、鍋しようぜ」
「ふふっ。お腹空いちゃうもんね」

俺が微笑めば、名前も微笑む。ああ、やっぱりこいつの隣にいるときが一番心地良い。

お互いに、好きだとも、愛しているとも言ったことがない俺たち。それは、言わなくてもお互い分かっているから。分かったつもりなんかじゃないってことは、こうして手を繋いでいれば、そして唇と身体を重ねれば分かる。

それに俺たちはお互いの存在が、ぽっかりと空いた心の穴にちょうどよく埋まっているんだ。それがなくなってしまえば、俺たちは思い出してしまう。

言葉では言い表せないほどの、寂しさを。

だからこの先も、俺たちは離れることはない。お互い以上に大切な人ができるわけもないし、他の人で埋められる程度の寂しさならとうの昔にこの関係は終わっているのだから。


20151017 title by 花畑心中
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