Starry☆Sky | ナノ
彼女がいるだけで世界が輝いて、彼女がいるだけで世界が彩られた。

だからこそ彼女は、僕にとってなくてはならない存在で。
彼女はまさに、僕にとっての女神だった。

ここまで人を好きになったのは、彼女が初めてなんだと思う。そう彼女に伝えれば、彼女は「私と同じだ」と言って笑ってくれた。

そんな彼女と僕が出逢ったのは、僕が入学した年の夏。

そのころは知り合ったばかりだった一樹に、彼女のこと…名前のことを紹介してもらって僕らは知り合った。

名前は一樹と同じで、一年留年して僕と同じ学年になったと後から聞いた。だからかな。彼女が『年上の女性』だったから、一樹とは打ち解けてられても、彼女とは最初どう接していいのか分からなかった。

だって、僕の周りには今まで母親以外に『年上の女性』なんていなかったから。

だけど、それも少しの間だけのことで、僕と彼女はすぐに打ち解けた。

それは、名前が優しい人だったからだろう。彼女は、僕たち二人の間にある距離を感じさせないよう、接してくれたから。だから僕も、彼女に対してまるで双子の姉と同じように接した。

最初は、姉に向けるような心で接していた。
その心が、恋心に変わったのはいつからだろう?

それはきっと、あのときの出来事がきっかけだ。

「誉、最近調子悪そうだけど何かあった?」
「名前…いや、大丈夫だよ」

このとき、名前は夏の間だけといって弓道部のマネージャーを務めていた。

僕はといえば、初めてできた後輩の指導に慣れなくて、どうすればもっと良い指導ができるかと悩んでいた時期だった。その悩みのせいで胃を痛めることもあったし、自分の思うような弓が引けないときもあった。

そうやって僕がスランプに陥っていたときに助けてくれたのが、名前だった。

「誉って、上手に嘘つくよね」
「え…?」
「そうなっちゃったのは多分、誉がみんなに心配をかけないように頑張ってきたからだろうけど…」

まさか、そんなことを言われるとは思っていなかった。だけどそれは、今まで僕にこう言ってくれる人がいなかったからだろう。

「あのね、誉。私には嘘つかなくていいのよ」
「名前…」
「私は、私の前だけではありのままの誉でいてほしいと思っているから」

それが、きっかけだった。

自分の前では、ありのままの僕でいていいと言ってくれた名前。その瞬間、僕の心の中にあった重りが、ふわりと軽くなった。

だからこそ、彼女の傍は心地良かった。
ずっと一緒にいたいと、そう思った。

「名前、話があるんだ」
「なぁに?」
「えっと…今、好きな人とかいるかな?」
「好きな人…いない、よ?」

彼女に告白するときは、心臓が壊れるかと思った。誰かに告白するなんて、これが人生で初めてのことだったから。

だからこそ、『好き』という言葉がなかなか口から出てこなかった。

照れくさくて、感情が上手くまとまらなくて。
それでも、好きで。

彼女とずっと一緒にいたかったんだ。他の人よりも、近い存在になりたかったんだ。

「好き、なんだ…」
「え…?」
「名前のことが、好きなんだ」

この気持ちを伝えるまでは、もっといろいろな会話を交わしてそういう雰囲気を作り上げてから告白するつもりだった。

だけど、会話の前後関係なしにその気持ちは口から零れ落ちた。

好きな人いるかどうかって質問されたら、誰だって告白されるかもって予想するかもしれない。だけど、いきなり『好き』というのは突然すぎただろう。だから、名前は僕の気持ちを聞いて驚いたに違いない。

それでも、彼女は僕の気持ちをちゃんと拾ってくれた。

「私も、誉のことが好き」
「っ…!」
「ずっとずっと、好きだったの」

そのときの名前の笑顔は、今でも覚えている。

頬をほんのりと赤く染め、長い睫毛を伏せて照れくさそうにしたあの表情。今でも、彼女は照れたときにその表情を見せる。それを、「可愛い」なんて言ったら、彼女はますます顔を赤くするのだった。

リーンッ。と、どこからか風鈴の音が聞こえた。
誰かが、ベランダに風鈴を飾っているのだろうか。

それに気づいたのは、今までずっとベランダから見える月を眺めていたから。そうやって月を眺めていたら、名前と出逢った日のことを思い出したんだ。

だからかな。名前の声が、聞きたくなった。

着ていた上着のポケットに入れてあった携帯を取り出して、着信履歴の一番上にあった名前に電話をかける。

プルルルッという何度目かのコールの後、「もしもし」と彼女の声が聞こえた。

「もしもし。今、大丈夫?」
「ん、大丈夫だよ。どうしたの?」
「…少し、声が聞きたくなって」

僕がそう言えば、電話の向こうで名前はクスクスと笑った。その笑いは、何も僕のことを馬鹿にして笑ったものじゃない。

きっと彼女のことだ。僕のことを、可愛いとかって思っているのだろう。

一つしか歳が変わらなくても、彼女は時々こうして僕を子ども扱いする。だからかな。彼女には甘えられるんだ。

「私も、誉の声聞きたいって思ってた」
「…本当?」
「ふふっ。あと、会いたいなとも思ってた」

まったく。名前にはかなわないなぁ…。彼女は、僕の頬を赤く染める天才なんだ。

ああ、いつまで経っても彼女には叶わない。付き合いだしてからもう少しで一年が経つというのに、どうやったって彼女には追いつけないんだ。

いつか、彼女に追いつきたい。
だけどそう思う同時に、このままの関係もいいと思ってしまうんだ。

「僕も、会いたいよ…」

ずるずると、その場に座り込みながらか細い声でそう呟いた。

彼女が自分の気持ちを素直に言葉にしてくれるから、こうして僕も言葉に出せる。だからこそ、こうして彼女にリードされる関係を望んでしまう。こんなの、僕らしくないのかもしれない。

だけど、姉や妹に頼られて育ってきた僕は、誰かに頼るということが今までなかったんだ。

だからこそ、ここまで彼女に溺れてしまうのかな。
もう僕は、彼女なしには生きられない。

「名前、好きだよ」
「…急に、どうしたの?」
「名前は…?」
「私も好きよ」
「っ…」

その一言で、僕の中にあった名前への気持ちが溢れてきた。

「会いたい…」
「うん」
「…抱きしめたい」
「うん…」
「君に、触れたい」
「うん」
「……キス、したい」
「…私も」

僕のいる牡牛座寮から、名前のいる職員寮が見える。だけど、名前のいる部屋はちょうど木の影になっていて見えない。

それでも、すぐに会える距離なんだ。
それに、明日になれば会える。

僕は西洋占星術科で、彼女は星座科。だからこそ、ずっと一緒にいるのは無理かもしれない。だけど、授業中以外の時間は彼女と一緒にいていい。それが、彼氏である僕の特権だから。

一樹や、それ以外の人たちにはない、僕だけの特権。

「今日の誉、いつもより素直ね」
「そうかな…?」
「そういう誉も、好きよ」

僕も、名前のことが好きだよ。そう言いたかったのに、僕にはできなかった。

いつだって、彼女は僕の欲しい言葉をくれるんだ。
言葉以外にも、彼女は僕にたくさんのものをくれる。

それは、物とかそういうものじゃない。

彼女からの「おはよう」で、今日も一日頑張ろうって思える。彼女からの「おやすみ」で、今日は一日良い日だったと思える。
彼女からの「好き」で、心が幸せな気持ちで満たされる。彼女からの「愛してる」で、僕がこの世に存在している意味が分かるような気がする。

そうやって、たくさんたくさんもらってきた。
そんな君に、僕は何か返せているかな?

もしかしたら、何も返せていないかもしれない。だけど、今はそれでいいと思うんだ。

僕と名前は、きっとこの先も一緒にいる。
それは、死が二人を別つそのときまで。

だから、その長い時間をかけて返していこう。

そうやって僕らは、時を重ねてゆく。
そうやって僕らは、愛を積み重ねてゆくんだ。

20150517
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