Starry☆Sky | ナノ
細い糸のような繋がりで結ばれた私たち。この想いが報われないものだってことは、ずっと前から分かっている。

でも、それでもいいの。
そう心が叫んでいるから。

あなたのことが好きだから、好きのまま走っていく。その先に、どんな辛い結末が待っていようと。

「今日、一樹の部屋に行っていい?」
「…ああ」

誰もいない、夜の生徒会室。残っているのは、私と一樹の二人だけ。他のメンバーは、みんな先に帰ってしまったから。

残っていた仕事を終えた一樹が、「そろそろ帰るか」と提案した。だから私は、それに素直にうなずき、そして今晩部屋に行ってもいいか問いかけた。

その瞬間、小さく揺らいだ若草色の瞳。一瞬のことだったけど、私はそれを見逃さなかった。だけど、それからすぐに一樹が了承してくれたから、あえて気づかないフリをした。

二人で生徒会室から出るときに、チラッと背後に視線を移す。振り返った先には、ガラス張りの大きな窓。その窓からは、柔らかな月光が降り注いでいる。

青と白のグラデーションに染まった光景を見ていると、なぜか、泣きそうになった。

「どうかしたのか?」
「…ううん。何でもない」

私がそう言うと一樹は、「そうか」と特に気にもせず左手を差し出した。

それが合図だったかのように、私の右手は自然とそこに重ねられる。人の平均体温より少し高い一樹の体温が伝わってくることが、なんだか少し嬉しかった。

それから二人で手を繋いで牡羊座寮へ向かう。

誰にも見られないように。こっそりと。
月光からも、逃れるように。

「俺は先にシャワー浴びるけど、名前はどうする?」
「私はいい。待ってる」
「ん。いい子にしてろよ〜」

わしゃわしゃと私の頭を撫でる一樹の手の平は優しい。ああ、ほら。またあなたに惹かれていく。

一樹にとっては何てことないことなんだろうけど、私にとっては幸せすぎて泣きたくなるほどのもの。私の胸は、こんなにも一樹への想いでいっぱいだから。

一樹がシャワーを浴びている間、部屋の電気を消してベランダの窓辺に座り込んだ。

そこから見える星空を眺めながら、考えるのは一樹のこと。

一樹と私は、彼氏と彼女。放課後は一緒に生徒会の仕事を片付けて、仕事が終わったら一緒に帰る。時々、こうして部屋にも寄る。でもそれは、どれも表面上のもの。

私の気持ちが一樹に向いていても、一樹の気持ちは私に向いていない。一樹が想う人は、世界でたった一人だけ。それは、私じゃない。

一樹が月子ちゃんのことを好きなのは、付き合う前から知っていた。だって、一樹はいつも月子ちゃんのことを目で追っていたから。優しく目を細めて、見守っていたから。

だから、一樹が私の告白を受け入れてくれたときは驚いた。だけど、それと同時に知ってしまった。

一樹は、忘れたいんだ。月子ちゃんのことを。
だから、私を利用した。

一樹は、私に優しくしてくれる。好きだって言ってくれる。だけど、そこに愛はない。

一樹は、私のことを好きになろうと努力している。私だけを見て、私だけを想えるように。それでも、一樹の心は正直だ。月子ちゃんを忘れようとすればするほど、彼の心は悲鳴を上げている。

だけど、ね。その悲鳴が聞こえても、私は気づかないフリをする。だって、仕方がないよ。悔しい程あなたが愛しいから。どんな形でも、あなたの傍にいたいと思ってしまうから。

だから、一樹の本当の気持ちに気づきながらも、こうして報われない関係を続けている。

「考え事か?」
「…うん」

お風呂から上がってジャージに着替えた一樹は、ドサッと私の後ろに座り込むと、後ろから私を抱えるように抱きしめた。

髪が濡れているせいか、雫が垂れて、私の首筋を濡らす。

「なに考えてたんだ?」
「んー…一樹のこと」
「お前はいつもそう言うな」

クツクツと喉を鳴らして笑う一樹。きっと一樹は、冗談だって思っている。私は、いつも一樹のことしか考えていないのに。

それに、ホラ、こうやって抱きしめられるとあなたのことを諦められなくなる。

この関係に、幸せな未来なんて待っていない。
こうやって二人一緒に居ても、分かり合えないのだから。

「一樹」
「なんだ?」
「…好き」
「……俺も、好きだよ」

一樹の気持ちが、私と同じじゃないなら、そんな言葉や態度なんていらない。

一度でいいから、あなたが好きな月子ちゃんになって、「好き」と言われてみたい。気持ちがこもった「好き」と言われることが、どんなに幸せなのか感じてみたい。

でも、それは叶わないから。

叶わない恋だと分かっていても、一樹への想いはもっと熱く強くなって、そして哀しくなる。だけど、一樹の前じゃ笑うことしかできないの。

泣き叫んで、みっともなく縋って、捨てないでと請う。きっとそうすれば、一樹は私のことだけを見てくれるはず。

でも、ね。それもできないの。
二人で歩んだ日々が、一樹に幸せになってほしいと願ってしまうから。

今日まで私が流した沢山の涙は、一樹を想う切ない恋心。「好き」というたったそれだけの気持ちで動いてきた。

だから…だからこそ、好きだからこそ。

「一樹、別れよう」
「え…?」
「もう、一樹のこと好きじゃなくなった」

私の顔を覗き込む一樹。その瞳には、下手な笑顔を作る私の顔が映っていた。

「嘘だろ?なんで、そんな…!俺が何かしたか?」
「ううん。一樹は悪くない。私の気持ちがなくなったの」
「っ…!」

スルリ、と一樹の腕から抜け出す。向き直ってから、もう一度、一樹の顔を見た。

意味が分からない、どうして、嘘つき、哀しい。そんな気持ちが入り混じったかのような、複雑な顔をしている一樹。だけど、一樹も本当は分かっているでしょ?私たちは、長くは続かなかったってこと。

だから、一樹からさよならを言われる前に、私から言うの。私が、さよならするの。

この、「大きな片思い」に。

「さよなら、一樹」
「…待ってくれ」
「……ごめんね」

もう、振り返らない。一樹にも、過去にも、この気持ちにも。

だからもう、私に優しくしないで。私を甘やかさないで。私に、好きと言わないで。たとえ、私の心が好きだと叫んでも、その気持ちに答えないで。

部屋を出ても、一樹は追いかけて来ない。分かっていたことだけど、その現実に涙が溢れてくる。

ほら、ね。やっぱり報われなかった。



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song:H.Y / N.A.O

14/02/09
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