Starry☆Sky | ナノ
※ 誉生誕記念


部屋に飾ってあるカレンダーに、この前部屋に遊びにきた桜士郎が、大きな赤丸を残していった。ひときわ目立つその印がある日にちは、五月の十四日。今日がその十四日。僕の誕生日だ。

朝から、教室に行けば桜士郎と一樹がクラッカーを構えて僕を待ち構えていた。朝のHRが始まるぎりぎりまで、彼らと、そしてクラスのみんながお祝いしてくれた。昼休みには、夜久さんに食堂に呼ばれて、そこに向かえば、弓道部員のみんなと、陽日先生がいた。みんなからおめでとうの言葉をもらって、それから宮地くんオススメのうまい堂のバースデーケーキを食べた。すごく、すごく、幸せな誕生日だった。だけど、僕は今日、まだ彼女に会えていない。

放課後、僕は部活がないのにも関わらず弓道場に向かっていた。きっと、放課後なら彼女がここにいるを踏んだから。


「お願いします」


神聖な道場に、頭を下げて入る。道場の奥へ進んで行けば、僕の予想通り、正座をして目を閉じている彼女がいた。


「ここにいたんですね。…名字先生」
「金久保くん」


彼女は、この星月学園で天文学を教える今年教師になったばかりの新米教師。そのせいか、まだ幼さが残る彼女の顔。僕が来たことによって、スッと開けられたその瞳は、ただ真っ直ぐと僕を見つめていた。

正座する彼女の隣に、僕も正座する。彼女はこの弓道部の副顧問で、多忙でなかなか顔を出せない陽日先生とは違い、毎日この道場に僕らの様子を見に来てくれる。彼女と初めて出会ったのは、僕が1年生のとき。そのとき、彼女はこの星月学園に教育実習生として来ていた。そのときも、彼女はこうして弓道場に足を運んでいてくれた。


「金久保くん、誕生日おめでとう」
「…金久保くんっていうのは、やめてほしいな」
「じゃあ、誉。誕生日おめでとう」


そう言って、彼女は柔らかく笑った。これは、僕たち二人しか知らない秘密。僕は彼女を愛していて、彼女も僕を愛している。教師と生徒の、禁断の関係。だけど、僕たちが付き合い始めたのは名前が教育実習生のときで、まさか彼女がこんなにも早く星月学園の教師になるとは、あの頃の僕たちには予想できなかった。僕が3年生になって戻ってきた彼女。僕たちは、この一年間、秘密を守ると誓って、今もこの関係を続けている。


「本当は、もっとちゃんとお祝いしてあげたかったな」
「名前のその気持ちだけで、十分だよ」
「だけど、彼女にとっては彼氏の誕生日は特別な日なんだよ?できることなら、誉に手料理とか振舞いたいし、二人でお出かけしたかった」
「ふふ、そうだね。名前の手料理、食べてみたかったな」


僕たちは、恋人同士である前に、生徒と教師という関係になる。普通の恋人たちみたいに、手を繋いで街を歩くことはできないし、お互いの部屋にも気安く遊びには行けない。弓道部の部長と副顧問という関係がなかったら、もしかしたら僕たちはこの学園内でこうして喋ることも難しかったかもしれない。

どうして、僕は生徒で、彼女は教師なんだろう。そう考えたことがないわけじゃない。むしろ、いつもそう考えている。だけど、それを深く考えたとしても、何の解決法も見つからない。この一年、この一年だけ我慢すれば、僕たちは普通の恋人同士になれる。だけど、その一年がとてももどかしいものだった。こんなにも近くにいるのに、お互い触れ合うこともできないなんて、ある意味拷問だ。


「名前、こっちに来て?」
「ん?」


そう言って、僕は名前の手を取り、道場の奥にある部室に連れ込んだ。それと同時に、聞こえてくる雨音。その雨音は、まるでこの世界に僕と名前しかいないような雰囲気を作り上げる。外からは、誰かがバシャバシャと水溜りを蹴っ飛ばして走る音や、下校中の生徒の話し声が聴こえる。そんな中、僕は名前のことを部室で抱き締めていた。

甘い、花の香りがする。少し早まる心臓を落ち着かせるように、僕は深呼吸しながらその香りを肺に取り込んだ。


「誉、誰か来たら…!」
「今日は部活がないから大丈夫。それに、さっき来たときに道場の鍵は閉めておいたよ」
「もしかして、最初からこうするつもりだったの?」
「どうかな?」
「ふふ、いけない子」


そう言って意地悪く笑う名前が、なぜかとても色っぽく見えた。その微笑む唇に、僕は自分の唇を重ね合わせる。小鳥が啄ばむようなキスを繰り返していれば、くすぐったかったのか、名前はクスクスと笑って口を開けた。その瞬間を、僕は逃さない。名前の舌に自分の舌を絡ませて、大人のキスをする。ここが部室だという背徳感からなのか、それとも、イケナイコトをしているせいなのか、いつもより名前の口から漏れる吐息が甘い。


「っん、はぁ、…好きだよ、名前」
「あたしも、好きだ、よ」


熱っぽいその瞳と目が合ってしまえば、僕はもう逃げることはできない。明日からまた、僕たちは生徒と教師の関係に戻る。だったら、せめて今だけは普通の恋人同士のように、甘いキスを交わしていてもかまわないだろう。ああ、このまま時間が止まってしまえばいいのに。

制服の上着を部室にあった長テーブルの上に敷いて、そこに名前を寝かせたとき、彼女はもう一度微笑んで「誕生日おめでとう、誉。生まれてきてくれてありがとう」と言って、僕の首に腕を回した。






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誉、誕生日おめでとう!

13/05/18
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