Starry☆Sky | ナノ
月明かりだけが辺りを照らす真夜中。仕事で疲れた身体を癒やすこともできないまま、俺は車を走らせていた。原因は、つい先ほどかかってきた高校時代からの友人である一樹からの電話だ。ハァ、と溜め息をつきながらアクセルを踏む。向かう先は、行きつけのバー。その行きつけのバーで、一樹と誉ちゃんと一緒に飲んでいるであろう彼女を、迎えに行かなくてはならなくなった。

高校のときから付き合っている俺の彼女の名前。彼女が大学を卒業してから始めた同棲生活。だけどそれは、こうやって毎回酔いつぶれた彼女を迎えに行くために始めたものじゃなかったはずなんだけど…。ハァ、と何度目か分からない溜め息をついたときには、すでに目的地に到着していた。


「あ、やっと来たね」
「遅いぞ、桜士郎。さっさとこいつを引き取ってくれ」


そう言って一樹が指差したのは、バーのカウンターでうつ伏せ寝した名前。どうやら、迎えに来てあげたお姫様は俺の到着を待っている間に寝てしまったらしい。無防備なその寝顔を、俺以外の男に見せていたのかと思うと、頭が痛くなった。まったく、前にこうなったときも厳しく言っておいたのにさー…。一緒に飲んでいたのが一樹と誉ちゃんだったとしても、警戒心は持ってもらいたい。


「ふふっ。さっきまで、ずっと桜士郎の話をしていたんだよ」
「俺の?」
「半分はノロケで、半分は愚痴だったけどな」
「たまにはちゃんとかまってあげないと、嫌われちゃうよ?」
「…はいはい」


誉ちゃんの忠告を半分聞き流して、俺は名前を抱き上げた。「お姫様抱っこか〜若いな!」って言っている酔いどれオヤジの一樹は無視しておいた。とりあえず、二人に名前が呑んだ分のお金を渡して、店を出る。彼女の柔らかい髪からは、ふわりとお酒の匂いがした。

車の助手席に名前を乗せてシートベルトをしてやれば、名前はゆっくりと目を開けた。まだ酔いが回っているのか、焦点が合っていないその瞳は、とろんとしていて、熱っぽく俺を見つめた。


「おはよう。お姫さま」
「おーしろ?」
「ん〜…その様子だと、かなり飲んだみたいだね」
「のんれないよー」


キャッキャと楽しそうに笑う名前。その笑顔が可愛いと思ってしまうのは、俺が彼女にベタ惚れだからだろう。名前を軽く宥めて、助手席のドアを閉めてから、俺は運転席に座った。隣では、名前がジーッと俺のことを見つめていた。俺と目が合うと、彼女はふにゃりと頬を緩ませた。


「ねぇ、俺が前に言ったこと覚えてる?」
「んー?しらなーい」
「俺がいないところで、お酒は飲んじゃダメって言ったじゃん」
「らって、おーしろー帰ってこなかったんらもん」
「出張だって、言ったでしょ?」
「れも、さみしかったよー」


そう言って、俺の方に倒れ込んできた名前。さっきしてあげたシートベルトは、いつの間にか外してあった。うーん…ちょっと困ったねー。ここは車の中だし、周りからは丸見えだし。ぐずりだした名前の頭を撫でて、俺は運転席を後ろに倒した。これなら、窓からのぞき込まれない限り、周りから中の様子が分かることはない。運転席を倒したことによって、名前は俺を押し倒すような体勢になる。俺は名前の後頭部を手のひらで包んで、そのまま顔を引き寄せた。柔らかい唇に噛みつくようにキスをすれば、お酒の味がした。


「おーしろー、もっと、ちゅー」
「そんなこと言ってると、止まらなくなっちゃうよ?」
「もっと、ちゅーしたい」
「我がままなお姫さまだね」


グイッと名前の腕を引っ張れば、あっけなく暗転し、俺が名前の上に覆い被さった。もっと、とせがむ唇にキスしてやれば、ギュッと名前が俺の服の裾を掴んだのが分かった。何度も、角度を変えてキスをする。少し開いた隙間に舌を滑り込ませてやれば、名前の熱い舌が絡んできた。少し強めに舌を吸ってやれば、名前の目からは涙が零れた。その涙に、俺は欲情した。


「っ、はぁ、おーしろー…」
「ははっ、かーわいー…」


赤く染まった頬、乱れた荒い呼吸、ポロポロと零れる生理的な涙、俺の名を呼ぶ潤った唇。ああ、もう。俺しか見ることができないであろうその姿。耳元で愛の言葉を囁けば、細い腕を俺の首に絡めてきた。まったく、どこでこんなの覚えてきたんだか…。本当、酔っ払った名前はたちが悪い。


「おーしろー、もっと、すきって言って?」
「…好きだよ。ううん、愛してる」
「あたしも、すきー」
「好き、だけ?」
「んーん。あいしてる」


そうやって笑った名前のせいで、プツンと理性の糸が切れたのが分かった。勢いに任せて名前の首筋に舌を這わせれば、最初の内は脳みそが溶けそうなほどの甘ったるい声で鳴いた名前だったけど、しばらくすれば、その声は聞こえなくなった。代わりに聞こえてきたのは、規則正しい名前の寝息。顔を上げて名前を見れば、こてん、と首を横にして眠っていた。


「名前?」
「んっんー…」


呼びかけてみても、起きる気配はない。これからってときに、こうして寝てしまう彼女を見て、力が抜けた。仕方なく、俺は起き上がって運転できる体勢を整える。…家に帰ったら、覚悟しておいてよね。気持ちよさそうに眠る名前の寝顔に、俺はもう一回、キスを落とした。






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13/02/17
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