Starry☆Sky | ナノ
言葉だけだと、伝わらないこともあると思うんだ。理屈なんかを並べるよりも、もっとシンプルな伝え方がある。だけど、お前は言葉で伝えることも、そのシンプルな方法で伝えることも苦手だという。それでも、頑張って俺に伝えようとしてくれるその姿は可愛い。


「だ、から…その、」
「うん?」


星月学園の図書館。奥にあるひっそりとしたスペースに、俺と名前はいた。ここには分厚い資料しかないから、めったに人がくることはない。それでも、ここが公共の場だという意識のせいだろうか。名前の顔が林檎みたいに真っ赤なのは。「林檎みたいだ…。食べちゃいたい」って俺が言えば、ますます顔を真っ赤にした。

隅っこの方で二人で座り込む。名前の背には本棚。目の前には俺。もちろん左右は俺の腕で包囲しているから、名前はもう逃げることができない。俺の手のひらで名前の真っ赤な顔を包む。少し力を込めれば、名前はビクッと肩を震わせた。


「…錫也……」
「ほら、はやく」


そもそも、どうしてこうなったんだ?…ああ、名前が哉太と喋ってばかりいるからだ。俺と名前と哉太と月子の四人で、図書館で勉強しているはずだった。最初のうちは真面目に勉強をしていたけど、勉強に飽きた名前と哉太は二人でこそこそ喋りだした。俺は、それが気に食わなかった。独占病と言われるのも、仕方がないのかもしれないな…。

俺は哉太と話していた名前の腕を取り、図書館の隅へ連れて行った。そして今に至る。俺は名前に自分の気持ちをはっきり伝えてもらいたくて、いつの間にか壁まで追い詰めていた。ただ、名前の口から俺が好きだと言ってもらいたいだけのために。


「…名前、」
「ふ、やぁっ」


名前の耳元で息を吹き込むように名前を呼ぶ。そっと唇で耳たぶをはさめば、名前はまた甘い声で鳴いた。そうやって、どんどん俺を意識すればいい。俺しか考えられないようになってしまえばいい…。そうすれば、甘い吐息を含んだ声で、骨の髄まで溶かしてあげるから。耳から首筋に舌を這わせる。かぷり、と名前の首筋に噛みついた。


「すず、も、無理…」
「名前がただ素直になってくれればいいだけの話だよ」
「っ、ふ、」


首筋から離れて、名前の唇に噛みつく。さっきまでキスをしていたせいか、名前の唇はてらてらと濡れていた。それを舐めとるようにして、キスをする。名前が甘い声で鳴くたびに、俺の理性は蝕まれる。図書館という場所にはもっとも似合わないこの行為。ぞわりと、背筋で何かが走った。


「俺のこと、好き?」
「…う、ん」
「それじゃダメ」
「…っあ、う……好き」


蚊の鳴くような声だった。それでも、静まり返った図書館では十分響く。…その言葉が聞きたかったんだ。名前の綺麗な髪を、手に取る。だけど、それは呆気なく俺の手から零れてしまった。名前の頭を抱え込むようにして抱きしめれば、名前の身体が強張ったのが分かった。


「…疑っているわけじゃないんだ。でも、こうして時々言葉にしてくれないと不安になる」
「…恥ずかしい、よ」
「じゃあ、もっと簡単な方法を教えてあげようか?」
「え?」


言葉よりもシンプルな方法。俺は人差し指で、名前の唇を撫でた。薄ピンク色のその唇は、まるで熟した桃みたいだ。ふにふにとその柔らかい唇を指で弄んでいれば、名前はだんだん熱っぽい視線で俺を見つめるようになった。…お前が今、何をしてほしいのか俺には分かるよ。だけど、今ここで俺がしてしまえば、意味がないじゃないか。スッと唇から指を離せば、名前は寂しそうに眉をへの字に下げた。


「名前からキス、してくれないか?」
「え!?」
「シッ。そんな大きい声出すと、誰か来ちゃうだろ?俺はそれでもいいけど」
「っ、」


それでもいい、わけないだろ。こんなに可愛い名前は、俺以外には見せたくない。真っ赤に染まった頬、少し荒い息づかい、潤んだ瞳、乱れた髪。その一つ一つが、俺をどんどん追い詰めていく。「ダメか?」と耳元で囁けば、名前は小さく首を横に動かし、震える手のひらで、俺の顔を包み込んだ。


「…目、閉じて?」
「…ほら、」


言われたとおりに目を閉じる。鼻をかすめる名前の甘いシャンプーの香りに、肺が満たされる。喉が、上下に動くのが分かった。一瞬、柔らかい感触がしたかと思えば、それはすぐに離れた。…今は、これがこいつの精一杯だよな。下を俯いている名前の顔を覗き込めば、今にも涙が零れそうな瞳と目があった。ああ、これだからこんなにもお前を愛おしいと思うんだな。


「名前、愛してる」
「…私、も」
「顔、上げて?」


ゆっくりと顔を上げた名前の唇に、俺はまた、かじりついた。







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13/02/16

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