Starry☆Sky | ナノ
※妖(アヤカシ)パロ




小さい頃から時々、変なものを視た。普通の人には視えないそれは、妖怪と呼ばれるものの類。

私は、なぜか小さい頃からよく妖に狙われていた。理由は分かっている。私は妖にとって『とてもおいしそうなもの』らしい。私に両親はいない。小さい頃に亡くなった。それからは親戚中をたらい回しにされた。普通の人には視えない妖を視る私は、周りの人にとっては不気味だったらしい。だから、私は高校生になると同時に、全寮制であるこの星月学園に入学した。
そこで私は、一匹の妖に出会った。彼は、自分は妖を守る者だと言った。高貴な妖の彼は、自分よりも弱き者を守るためにこの地に昔から住んでいるらしい。私は、彼に協力する代わりに、彼に私を狙う妖から守ってもらうことになった。彼の名は、小熊。人間に化けているときの名は、小熊伸也。


「待って!」


目の前で、小熊と星月先生が戦っていた。星月先生の正体は小熊から聞いたことがある。有名な祓い屋の一族の次期頭首。小熊にとって、妖を払う者は敵らしい。だけど、私には星月先生がそんなに悪い人には見えなかった。星月先生が何人かの妖を連れて歩いている姿は何回か見たことがあるけど、妖を無理矢理従えているようには見えなかったから。


「名字…?」
「星月先生…実は、私にも視えるんです。妖が」
「…それで、そいつは何者だ?」
「小熊は天狗です。天狗の中で一番力を持っていて、私のことを助けてくれます」
「じゃあ、お前が最近怪我していた原因はなんだ?」
「…私は、妖にとって『とっておいしそうなもの』らしいんです。だから、妖に狙われています」
「そうだったのか…」


本当は、星月先生にこのことを話すつもりはなかった。というより、祓い屋の人間にこのことを話すつもりはまったくなかった。言えば、彼らは祓われてしまう。私は知っている。妖の中にも、悪い妖ばかりではないことを。小熊みたいに私を守ってくれる妖がいるってことを。だけど、話さないときっと小熊が祓われてしまう。ゴクリと喉を上下に動かす。この話を聞いて、星月先生がどう思うか分からない。もしかしたら、私はもうここにはいることができなくなるかもしれない。


「…そうか、悪かったな。小熊」
「星月先生?」
「そういうことなら、話は変わる。俺もお前を守るよ」
「…え?」
「祓い屋風情が名前を守るのは難しいと思いますけど?」
「そう言わないでくれよ、小熊。これでも、力には自信があるんだ」


話の展開が急すぎて、上手くついていけない。…でも、これでよかったのかもしれない。星月先生の答えは意外だったけど、正直、最近妖に狙われることが前よりも多くなった私にとっては、有り難い話だった。小熊も、学生に化けているからにはいつも私と一緒にいることはできない。だから、星月先生が味方になってくれるのは心強い。小熊の方を見れば、小熊は私の気持ちが分かったらしく、はぁ、とため息を吐いて頷いた。


「名前を守るためですよ」
「ああ」
「…本当は祓い屋とは手を組みたくないんですがね」
「ははっ、そうだろうな」
「星月先生、ありがとうございます」
「ああ。妖に狙われたらいつでも俺のところにこい。守ってやるからな」
「…はい!」


これが、私たちの関係の始まりだった。あの桜が舞っていた季節が…懐かしい。



――――……



妖に狙われる少女、名字名前。彼女は妖にとって『とてもおいしそうなもの』らしい。だからこそ、彼女は妖に狙われる。ある出来事から、俺は彼女を守ることになった。なぜ彼女が妖にとって『とてもおいしそうなもの』に見えるのかは分からないが、祓い屋として彼女をほっとくわけにはいかない。だからこそ、こうして彼女を見守っているんだが…。


「名字、お前は無防備すぎだ」
「え?」
「その肩に乗せている妖はどっから連れてきたんだ?」
「裏山にいたんです。怪我をしていたみたいで…」


妖に狙われているのに、こいつはこうして妖を助ける。おかしな話だ。こいつのおかげで、俺が学園を守るためにはった結界は穴だらけだ。本来なら、小熊のような力の強い妖以外は入ることができないはずなんだが…なぜか、な。


「星月先生、この子可愛いですね」
「あのなぁ…」


優しい目で小さな妖を見つめる名字。俺はため息をつきながらも、それ以上のことは言わなかった。なぜか、名字を見ているとそういう気にはなれなかった。彼女を纏う優しい雰囲気のせいなのかもしれない。お互い、妖が視えると分かったあの日から、名字はよく保健室に来るようになった。それから、少しずつだが名字のことを知っていった。名字を見ていると、不安な気持ちと愛おしい気持ちが込み上げてくる。いつか、妖に襲われて命を落としてしまうのではないかという不安な気持ちと、それでも自分の運命に悲観せず、健気に生きる姿を愛おしいと思う気持ち。本当、名字は不思議な奴だ。


「星月先生、」
「なんだ?」
「私、この学園に入学したのは、運命だったんだと思います」
「運命?」
「だって、こうして星月先生に出逢えた。星月先生がいなかったら、今ごろ私はいなかったかもしれない」
「小熊もいるだろ?」
「でも、小熊はー…」
「?」
「…なんでもありません。本当にありがとうございます、星月先生」
「どういたしまして」


花が咲き誇るように笑う名字。その笑顔を守ってやりたいと思う。小さな身体に抱え込んだその運命を、俺も一緒に背負ってやりたいと思う。こう思うようになったのも、名字だからだろうか。危うくも健気に生きる名字を、いつまでも守っていきたい。それはただの俺のエゴなのかもしれない。俺には、守れなかった人がいるから…。だからこそ、こいつだけは守りたい。俺の持つ、全ての力を使ったとしてもー…。





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ここまでお付き合いしてくださり、ありがとうございました。この話はまた時々書くかもしれません。そのときはよろしくお願いします。

13/02/12
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