Starry☆Sky | ナノ
※妖(アヤカシ)パロ




俺には、普通の人には視えないものが視える。それはきっと妖(アヤカシ)と呼ばれるものの類いだ。これは、俺の家系にだいだい伝わっている業。祓い屋、星月家。表では実業家として栄えているが、裏では祓い屋の三大勢力の内の一つである有名な祓い屋。俺は星月家の次期頭首として、育てられた。今は星月学園の保健医として働いているが、本来の目的は、この辺りにいる妖を祓うこと。この辺りには、昔からよく妖が出ると噂されている。だから、俺はこの地に保健医として潜伏しながら、祓い屋としてこの地を守っている。


「失礼しまーす。星月先生?いないんですかー?」
「…んー…っ……」
「またベッドで寝てる。星月先生、起きてください」
「…名字か。どうした?」


星月学園に通う二人の女子生徒のうちの一人である名字名前。とりあえず元気だけが取り柄の活発な少女。元気がいいのは良いが、ときどき男子に紛れてサッカーをするのはどうかと思うぞ。名字は「見てください」と言って、学校指定の靴下を脱いだ右足を俺に見せた。陶器のように白いその足の膝が、赤く染まっていた。


「…また転んだのか」
「最近転んでばっかりですね」


はぁ、とため息をつきながら、俺はベッドから起き上がる。最近、こいつが保健室に来るのはどこかしらを怪我しているときだ。最初は男子に紛れてサッカーでもしているせいだとは思ったが、本人に聞くと、それは違うと言い切った。どうやら、いつも何もないところで躓いているらしい。「ちゃんと前を見て歩きなさい」と、何回名字に言ったか分からない。いつものように傷口を消毒し、包帯を巻く。「包帯は大げさですよ」と名字は言ったが、傷が残っては大変だ。名字を治療していると、バタバタと騒がしい足音が聞こえて、その足音の正体は思いっきり保健室の扉を開けた。


「名前ちゃん!」
「あ、小熊」
「小熊じゃないか。どうかしたのか?」
「名前ちゃんが怪我をしたって聞いて…大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ」


ホッと安堵の息を漏らす小熊。名字と小熊は確か部活動が一緒で仲が良いらしいな。そのとき、俺は微かだが小熊に違和感を感じた。俺がいつも、ある特定のときだけに感じる違和感。探るように、小熊を見る。そんな俺の視線に気づいたのか、小熊は俺と目が合うと人懐っこい笑顔で笑った。


「星月先生、ありがとうございました」
「ん?ああ、気をつけるんだぞ」
「はーい」
「ありがとうございました」


名字が立ち上がったと同時に、小熊が名字のカバンを持って一緒に立ち上がる。そのまま二人は俺に礼を言って保健室から出て行った。しばらく俺は、二人が出て行った先を見つめる。…もしかしたら、名字が最近になって怪我をする理由が分かったかもしれないな。


「朧、夕月」
「はい、主様」
「なんだよ、こんな時間に呼び出して」


長い銀色の髪を靡かせ、口調が丁寧なのが朧。蒼と銀のオッドアイを持ち、口調が乱雑なのが夕月。二人とも俺が使役している妖だ。他にもいるが、俺が結界をはっているこの学園内で動けるのは、この二人ぐらいだ。そう、この結界の中ではより高貴な妖でないと動くことができない。つまり、小熊はー…。


「小熊伸也の正体を暴け」
「小熊伸也?なんでまた?」
「うるさいぞ、夕月。きっと主様はあの者が人間ではないと気づいたのだ」
「嘘だろ!?琥太郎がはった結界の中であんなに自由に動ける奴がいるのか!?」
「だから正体を暴いてほしいんだよ、夕月」


そう言うと、二人は頷いて姿を消した。小熊伸也はきっと妖が人間に化けたものだ。ああして人間に化けて人間に紛れて暮らす妖は少なくないが、俺の結界の中で動けるとなったら話は別だ。それに、もしかしたらあの小熊が最近の名字の怪我の原因かもしれない。力のある妖は災いを呼ぶことが多い。…急がないと最悪な事態になるかもしれない…。フゥッと息を吐いて、俺は保健室にある自分の椅子に座って、朧と夕月が帰ってくるのを待った。



――――……



「…遅い」


時計の針が夜中の12時を指しても、二人は戻らなかった。心配になった俺は、二人を探しに行く。使役している妖の気配なら、だいたいは分かる。それを頼りにして着いた場所は、学園の裏庭だった。だが、二人の姿を探してもどこにもいない。キョロキョロと辺りを見回すが、猫の一匹すらいなかった。その瞬間、禍々しい気配を感じて後ろを振り返る。振り返った先にいたのは、あの人懐っこい笑顔をした小熊だった。


「…小熊」
「さすが祓い屋として有名な星月家の次期頭首ですね。気づかれちゃいましたか」
「…二人はどうした」
「ちょっと鬱陶しかったので、遠くに行ってもらいました。明日には帰ってくるはずですよ」
「…目的は何だ?なぜ名字のそばにいる?」
「…貴方のような人がいると厄介だな。ここで倒してしまおうか」
「!?」


そう言って、俺に襲いかかる小熊。何とかして避けたのは良かったが、朧と夕月がいない俺には少し相手が悪い。白衣のポケットの中から、何枚か札を取り出す。…仕方がない、封印してしまおう。札を両手に数枚持って構える俺。その姿を、宙を舞う小熊は面白そうに見つめていた。ザッとお互い相手に攻撃を仕掛けようとする。そのとき、「待って!」と誰かが叫んだ。声がした方を見れば、そこには名字がいた。






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続きます。朧→おぼろ、夕月→ゆうづきと読みます。

13/02/10
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