Starry☆Sky | ナノ
※モブ視点




中学生の頃、憧れていた先輩がいた。名前は不知火一樹先輩。同じ中学の人できっと彼のことを知らない人はいないと思う。私の一つ上の学年だった彼は、中学では有名な不良だった。いつどこで不知火先輩を見かけても、彼は傷だらけだった。それでも、不知火先輩が喧嘩に負けたっていう噂は聞かなかったから、きっと強かったんだと思う。どこの不良グループにも属していなかった彼は、いつも一匹狼だった。そんな彼を、私の同級生の女の子たちは、怖い、だとか、かっこいいとか噂していた。そういえば、不知火先輩のファンクラブもひっそりとだけど存在していたなぁ…。

いつもあの若草色の瞳は、遠い目をしていた。まるで何も彼の瞳は映していないようで、少し怖かった。不知火先輩のあの瞳には、一体どんな世界が見えていたんだろう?


「あ、」


ある日、学校で偶然不知火先輩が喧嘩をしているところを目撃してしまった。複数の人数に囲まれている不知火先輩。裏庭だったせいか、周りには不知火先輩たち以外誰もいない。たまたま日直だった私は、裏庭にある焼却炉にゴミを捨てに行こうとしていた途中だった。誰かが不知火先輩に殴りかかろうとする。不知火先輩はそれを綺麗に交わして、相手の顔を殴る。すごい!と思ったのもつかの間、一人が不知火先輩を羽交い締めにすると、他の人たちが一気に不知火先輩に殴りかかる。バキッと嫌な音が響く。その光景を見ていられなくなった私は、ガタガタと震える足を抑えながら、大声で叫んだ。


「先生!こっちです!」
「チッ。誰だよ、いいとこだったのに」
「おい、いこーぜ」


私が叫んだ言葉を聞いた何人かの不良たちは、不知火先輩を残してその場から立ち去った。もちろん、先生なんて呼んでいない。こうでもしないと、彼らは不知火先輩を殴るのを止めないと思ったから。慌てて、不知火先輩に駆け寄る。「大丈夫ですか?」と言って手を差し出したけど、その手はパシンと振り払われてしまった。


「…俺にかまうな」


とても冷たい目をした不知火先輩が、私を睨んだ。そこから動けなくなった私を見て、不知火先輩はどこかに行ってしまった。別に、これを機に不知火先輩と仲良くなろうなんて思っていなかった。ただ、不知火先輩に私のことを知ってもらいたかった。だけど、不知火先輩の瞳に私は映っていなかった。それがショックで、私は涙を流した。ああ、私はどうしようもなく不知火先輩が好きだったんだと実感した。




あれから何年か経って、私は大学生になっていた。あれから不知火先輩は星を専門的に学ぶ学校に進学したと、風の噂で知った。星なんて不知火先輩には似合わないって思ったけど、なんとなく、あの瞳に美しく輝く星空はどんな風に映るんだろう?と思った。

都会の大学に進学した私は、夏休みを利用して久しぶりに地元に戻ってきた。昔からあまり変わらない地元の風景。それが懐かしくて道を歩いていると、一人の女の人がキョロキョロと周りを見回していた。この辺りでは見かけない女の人で、さっきから同じ場所を行ったり来たりしている。…もしかして、迷ったのかな?


「どうかしましたか?」
「あ、いえ…あの、地元の方ですか?」
「ええ」
「不知火神社って、どこにあるか分かりますか?」


そう言って、女の人は困った顔で笑った。不知火神社と言えば、この辺りでは有名な神社で毎年夏には夏祭りを開催している。それに、そこには確か不知火先輩が住んでいたって聞いたことがある。私が「よかったら、案内しましょうか?」と言うと、女の人は向日葵みたいに輝く笑顔で「ありがとうございます」と言った。

しばらく二人で並んで歩けば、不知火神社の前にある長い階段が見えてきた。その階段の下に、一人の男の人が立っていた。思わず、息をのんだ。忘れもしない、あの姿。そこに立っていたのは不知火先輩だった。中学のころより伸びた身長。それに雰囲気もすごく大人っぽくなっていた。不知火先輩はこっちを見ると、急いで駆け寄ってきた。


「名前!どこに行ってたんだよ!」
「ごめんね。迷子になっちゃった」
「ったく、お前はなー…。すいません、こいつを送ってもらって」
「あ、いえ…」


不知火先輩は、私のことを覚えていなかった。だけど、私の記憶の中にいる不知火先輩はもうどこにもいなかった。遠くを見つめていた瞳は、輝きを取り戻していて、堅く閉ざされていた唇は、柔らかく弧を描いていた。ああ、きっと不知火先輩はもうあの頃の不知火先輩じゃなくなったんだ。私の知らないところで、きっと何かが彼を変えてくれたんだ。それはきっと、彼の隣で笑う彼女のおかげだと思う。


「ありがとうございました」
「どういたしまして」


二人は私にお礼を言うと、手を繋いで階段を上っていった。私も、その場から立ち去る。一度だけ、後ろを振り返ってみれば、愛おしそうに彼女を見つめながら目を細めて微笑む不知火先輩がいた。…すごく、幸せそう。きっと、彼女は不知火先輩にとって何よりも大切な人なんですね。あの彼女の向日葵のような笑顔が、貴方の凍ってしまった冷たい瞳を溶かしてくれたんですね。だから、あの頃の貴方はもう…いない。

なぜか、心が温かくなった。幸せそうに笑い合う二人に向かって、心の中で「お幸せに」とつぶやいた。どうか、彼らの幸せがいつまでも続きますように、と願いを込めながらー…。







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13/02/06
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