Starry☆Sky | ナノ
暖かな日溜まりが、木漏れ日のように柔らかに降り注ぐ。女友達三人と一緒に大学のキャンパス内にある食堂でランチをしていた。最初は講義がしんどいだとか、単位が危ういとかそんな話をしていたけど、ふと視界に入った最近噂が絶えない彼を見て、話題が彼一色となった。


「水嶋くんってさ〜いっつも綺麗な女の子と歩いているよね」
「分かる!分かる!でも、どれも同じ子じゃないって噂だよ」
「彼女じゃないってことかな?」
「なーに?名前は水嶋くんが気になるの?」
「そんなんじゃないってば」
「怪しい〜」


キャッキャと女友達三人でその話題に盛り上がっていれば、あっという間に昼休みは終わってしまった。次の講義がある教室はここから遠いから急がなくちゃ。いまだにおしゃべりに花を咲かせる二人に別れを告げ、私はカバンを肩に掛けて少し早歩きに駆け出した。


「…あれ?」


急いで教室に来てみると、教室には誰もいなかった。教室にある黒板には、白チョークで大きく『休講』と書かれていた。…なーんだ、急いできたのに損した。仕方なく、元来た道を戻ろうとしたら、さっきまで話題の中心にいた水嶋くんが教室に入ってきた。あ、そういえば水嶋くんもこの授業を選択していたんだっけ?


「今日は休講みたいだよ」
「…みたいだね」


私と黒板を交互に見て、水嶋くんは綺麗な顔で笑う。うん、これはいろんな女の人を横に連れていても誰も文句は言えない。思わず水嶋くんに見とれていると、水嶋くんはクスッと笑ってかけていた眼鏡をはずした。


「ねぇ、さっき僕の話してたでしょ?」
「え!?」
「君は、僕のことどう思う?」


ゆっくりと、水嶋くんが近づいてくる。水嶋くんが前に一歩、また一歩と踏み出すたびに私は反射的に後ろに下がる。そんな私を見て、水嶋くんは意地悪な顔をしてクスクスと笑う。スッと伸びてきた腕が、私の頬に触れる。ゆっくりとまるで花びらを撫でるように私の頬を指でなぞる。ゴクリと自分の喉が上下に動くのが分かった。このまま流されちゃダメだってことは分かっている。だけど、私を見つめる水嶋くんの目から逃れることができない。


「…っ、水嶋、くん」
「郁って呼びなよ。…名前」
「っ、あ」


ガタッと背中と壁がぶつかる。どうやら、もう後ろに下がることは不可能らしい。ドクン、ドクンと心臓が大きく上下する。水嶋くんにこの鼓動が聞こえてしまっているような気さえしてきた。頬を撫でていた指は、スルッと私の首から肩にかけて降りていく。肩に降りてきた手のひらは、優しく私を水嶋くんの方へ引き寄せた。


「…郁って言ってごらん」
「…い、郁……」
「…ふーん。顔を真っ赤にして可愛いね」
「…あの、」
「ん?」


私の腰に回した手のひらとは逆の手のひらで水嶋くんは私の頬を包み込む。抱き寄せられているせいか、いつもより水嶋くんの顔が近い。私よりだいぶ背の高い水嶋くん。少し顔を上げれば、水嶋くんの綺麗な薄い唇が目に入った。色っぽい唇に、思わず目が釘付けになってしまう。形のいいそれは弧を描いていて、そこから漏れる吐息が私をどうしようもない思いにさせる。


「名前が僕にしてほしいことを言ってごらん」
「…え?」
「さっきから、ずっと僕の唇を物欲しそうに見つめている」


カッと顔に熱が集まるのが分かった。水嶋くんにバレていたんだ!すごく恥ずかしくて顔を下に向ける。だけど、水嶋くんの手のひらがそれを許さない。クイッと私の顎を上に向けて、無理やり目を合わせる。真っ直ぐに私を見つめる綺麗な水嶋くんの瞳。それとは反対に、さっきから私の目は右へ左へと泳いでいる。ゆっくりと、水嶋くんが私の腰を撫でる。小さく震えた私の腰を見て、水嶋くんは妖艶に微笑んだ。


「言ってくれたら、してあげる」
「…そんな!」
「言わないのなら、このままだよ」
「…っ、」


ダメだって分かっている。だって、私と水嶋くんは恋人じゃない。たまたま取っている授業が一緒で、だけどこうやって喋ったことは一度もない。挨拶くらいならするけど、それ以上のことはまったくなかった。だから、どうして今こういう状況になっているのかは分からない。だけどー…。水嶋くんにキスしてもらいたいっていう気持ちが、私の心をぐちゃぐちゃにする。離れなくちゃいけないのに、離れられない。


「水嶋、くん」
「何度言ったら分かるのかな?郁って呼んでって言ったよね」
「…で、でも」
「でも?」
「やっぱり、ごめんなさい!」


グイッと水嶋くんを引き離して、私は教室から走って出て行った。…危なかった!あのまま水嶋くんと教室にいたらどうなっていたか分からない。…水嶋くん、いつもああしていろんな女の人を口説いているのかな?なんだか、自分もそのうちの一人になってしまったような気がして嫌になった。安っぽい女、そう思われたのかもしれない。あのとき、あのまま流れで水嶋くんとキスしてしまったら、その関係はその限りで終わってしまう。…そんなの、虚しいだけだよ。…水嶋くん、どうして水嶋くんはこうして他人からの愛を強欲に集めようとするの?一人から受け取る愛じゃ、足りないの…?




「ごめんなさい、ね」


そう告げて、彼女は走り去った。…なぜか、彼女のことが気になる。今まではこうして僕が触れれば女の子はみんな僕の思うようになった。だけど、彼女は違った。初々しい反応を見せながらも、僕のことが欲しくてたまらなかったくせに、彼女は僕の腕から逃げ出した。名前、か。面白いものを見つけちゃった。明日からはしばらく彼女で暇つぶしさせてもらおう。そうすれば、彼女も僕を意識する。そのときに、安っぽい愛のおこぼれをもらえれば僕はそれで十分だからー…。







----------------------------------

13/01/25
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -