Starry☆Sky | ナノ
これの続き




真っ白な雪がひらひらと桜の花びらみたいに舞い踊る。雪に触れようと、ソッと手を伸ばす。手のひらに落ちてきた雪は、私の体温のせいであっという間に溶けて消えてしまった。マフラーに顔をうずめながら、サクサクと降り積もった雪の上を歩く。マフラーの隙間から漏れる真っ白な息は、雪のように空へと消えてゆく。空を見上げれば、満天の星。冬は夏よりも日が暮れるのが早いから、まだ夕方のはずなのに辺りは夜みたいに真っ暗だった。


「名前ちゃん、それ片づけちゃったら今日は終わりだから」
「はーい」


声をかけてくれたバイト先の先輩に返事をして、私は持っていたゴミ袋をゴミ捨て場に置いた。はぁ、と腰をトントンと叩きながらため息をつく。実は、つい最近人見知りを克服しようと思ってバイトを始めた。きっかけは、犬飼が「お前、俺たちがいなくなったらどうすんの?」と冗談混じりに言った言葉が始まりだった。俺たちっていうのは犬飼と青空のことを言っているんだと思う。私がいつも学校でも外でも犬飼と青空以外とはあまり関わろうとしないから、犬飼はそうやって言ったんだろう。

犬飼は冗談のつもりで言ったんだろうけど、でも、このまま二人だけと一緒にいるのはダメなんだろうな、と思った。いつかきっと二人から離れなくちゃいけないときがくる。そう思うと、怖くなった。でも、今更学校のみんなと仲良くしていくのはちょっと難しい。だから、街にでてバイトをしてこの人見知りを治そうとした。バイト先は街にある小さなカフェ。犬飼の友だちの宮地君が紹介してくれたとこで、店長さんも従業員さんもみんな優しくしてくれる。


「名前ちゃん、今帰り?一緒に帰らない?」
「あ…」


ゴミ捨てを終えて、着ていたエプロンを脱いだときに私に声をかけたのは、私が入るちょっと前からここで働いている男の先輩。実は、この人が少し苦手。働いている時間帯が同じなせいか、よく帰りが一緒になるし、ときどきご飯に誘われたりする。何かと理由をつけて断っているけど、この先輩はちょっとしつこい。


「バスがすぐ来るので…」
「俺さ、この前車買ったんだ。だから、それで送ってったげるよ」
「でも…」
「ね?たまにはいいじゃん」


そう言って、ロッカーに入れてあった私のコートとカバンを持って私の手を引く。…どうしよう、断れなかった。この先輩、あまり良い噂を聞かないんだよね。前のバイト先でそこで働いていた女の子にいろいろしたっていう噂も聞いたし…。ぐいぐい引っ張られるままに、私は外に出る。外の駐車場には真新しい真っ黒なワゴン車が停まっていた。…怖い。あれに乗ったらきっと後悔する。心臓の鼓動がバクバクと早く鳴り、私の体中に警笛を鳴らす。私は握られていた手を思いっきり振り払った。


「あ、あの…一人で帰れます…」
「そんなこと言わずにさ、ね?」
「コートとカバン、返してください」
「…チッ。黙ってついて来ればいいのによ。ほら、早くしろって」
「きゃっ」


ぐいっと強引に手を引っ張られた。今度は、振り払うことができない。駐車場がちょうどカフェから死角になっているせいか、カフェの人たちは誰もこのことに気づかない。まともな抵抗ができるわけもなく、停められている車まであと少しになってしまった。だけど、先輩に引っ張られていた方とは反対の手を、誰かが掴んだ。


「…犬飼?」
「あ?なんだよ、お前」
「お前こそなんだよ。悪いけど、こいつ嫌がっているみたいだし、離してくんね?」


振り返った先にいたのは犬飼だった。確か、今日は部活があったはず。バイトがある日と犬飼が部活のある日はわざと重ねているから間違いない。だけど、今目の前にいるのは紛れもなく犬飼で…どうしてここにいるの?と聞きたかったけど、私が見たことない怖い顔で先輩を睨む犬飼を見て、何も言えなくなってしまった。


「…チッ」


先輩は小さく舌打ちをすると、私の手を離して持っていたコートとカバンを放り投げた。そのまま何も言わずに背を向けて車に乗り込んだ。犬飼は雪の上に落ちた私のコートとカバンを拾い上げると、パッパッと雪を払って「ほらよ」と言って差し出した。「ありがとう」と言って受け取ると、「本当、お前ってバカだよな」ってちょっと怒った顔で言った。


「バカとは何よ」
「もう少し警戒心持てっての。あのままいってたら危なかっただろ?」
「…なんで、ここにいるの?」
「はぁ?…名字が前に言ってただろ。苦手な男の人がいるって」
「…え?」
「だから気になって来たんだよ」


そう言った犬飼の顔は、ほんのりとピンク色に染まっていた。先輩のことを犬飼に言ったのはだいぶ前のことなのに…覚えていてくれたんだ。「ほら、帰るんだろ」と言って犬飼は歩き出す。先を歩く犬飼の背中を見ると、トクン、トクンとさっきとは違う意味で鼓動が早くなるのが分かった。スタスタと歩いて行ってしまう犬飼を慌てて追いかけて、隣に並ぶ。


「ね、犬飼」
「なんだよ」
「私、やっぱり人見知り治らなくっていいや」
「はぁ?」
「だって、犬飼と離れるなんて考えられないんだもん」


そう言って笑う私を見て、犬飼は「…バーカ」と言いながらも、優しく微笑んで頭を撫でてくれた。きっと、この先の未来でも犬飼はこうして私と一緒にいてくれる。犬飼がいない未来を頑張って想像してみたけど、ちっとも思い浮かばなかった。私に合わせて歩調を遅くした犬飼の手を握れば、ギュッと握り返してくれた。緩んだ頬を、私はマフラーの下に隠した。







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13/01/23
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