Starry☆Sky | ナノ
※Zodiacパロ。死ネタ。流血シーンあり。



コツ、コツと灯りのない廊下を歩く。一歩、また一歩と進むたびに、俺は自分の首が絞められている感覚に陥った。向かった先はZodiacのアジト内にある俺の部屋。扉の隙間から明かりが漏れている。扉を小さくノックすれば、中から「はーい」と綺麗なソプラノ声の返事が聞こえた。

ガチャッと開いた扉の先にいたのは、俺の最愛の人である名前だった。…本当、神様ってのは残酷だよな。俺が今からする行動は誰も報われないってのに。


「任務お疲れさま。疲れたでしょ?」
「………。」
「…一樹?」


名前の問いに返事をしない俺を不審に思ったのか、名前は小さく首を傾げる。ああ、そんな心配そうな目で見ないでくれ。決心が揺らいでしまうだろ?俺は決めたんだ。自分の望みを…叶えると。


「Zodiacにスパイが潜り込んでいる」
「…え?」
「Libraの話によれば、そいつは女らしいんだ」
「…そう」


ゆらっと名前の瞳が揺れたのが分かった。つい先ほど、任務から帰ったばかりの俺にZodiacのボスであるLibraが告げた衝撃の事実。できれば、信じたくなかった。信じろと言われても無理だった。だが、あまりにも確実な証拠に俺は何もLibraに言い返すことができなかった。だから、俺は自分から申し出た。そのスパイを、俺の手で葬り去ると。


「…お前が、そのスパイなんだろ?」
「………。」
「…名前、」
「なーんだ、もうバレちゃったの」


さっきまで俺の顔を心配そうに覗き込んでいた名前は、くるりと振り返ると部屋の奥にあるテーブルに足を組んで座った。俺と目が合うと、名前はクスッと妖艶に微笑んだ。そこに俺が知っている名前はいなかった。そこでようやく理解できた。俺はこいつに騙されていたんだと。おかしいと思った。なぜかZodiacの情報管理システムが俺のパスワードで何回もアクセスされていた。俺のパスワードを知ることができるのは、パスワードの持ち主である俺と、いつも俺の一番近くにいる名前くらいだろう。

俺は、名前に気づかれないように、腰に隠し持っている拳銃に手を伸ばした。


「ねぇ知ってる?貴方って、拳銃を握るときに必ず左足を一歩後ろに引くの」
「なっ!?」


ガチャッと俺が名前に拳銃を向けるのと同時に、名前も名前がいつも愛用している拳銃を俺に向けた。両者とも引き金を引かずに、お互いの様子をうかがう。そうしている間も、名前はあの妖艶な微笑みをたやさなかった。まるで、今の状況が可笑しくて仕方がないみたいだ。…分からない。名前が何を考えているのかまったく分からない。俺は、拳銃を構えたまま口を開く。


「一体、何の目的があってZodiacに潜入したんだ?」
「貴方たちが狙っている宝石…あれ、うちのボスが欲しがっているのよ」
「…ボス?」
「そ。私はマフィアなの」


通りで人を欺くのが上手いわけだ。名前が俺にくれた愛は、全部嘘だったってわけか。本当、笑えるよな。あまりにも滑稽な話だ。昨日まで愛を囁き合っていた二人が、今はこうしてお互いに銃口を向けている。今まで何度か命を狙われることはあったが、こういうのは始めてだな。…なぜか、心は妙に落ち着いてしまった。名前に裏切られたと分かった瞬間に冷え切ってしまった心は、もしかしたら麻痺して感情がなくなってしまったのかもしれないな…。


「ねぇ、一樹」
「…なんだ?」
「御伽噺は、何もハッピーエンドで終わるわけじゃないのね」
「…ああ、バッドエンドだ」
「…さようなら」


そう名前が別れを告げた瞬間、俺たちは同時に引き金を引いた。バンッという銃声がアジト内に響き渡る。…正直、死んだかと思った。だが、恐る恐る目を開けてみると俺は生きていて、目の前には血を流す名前が倒れていた。…どう、なってんだ?いくら名前が女だからって、Zodiacで雇われるくらいの戦闘力は備わっている。それに、こいつの専門は銃だったはずだ。この距離なら、名前が俺の心臓を撃ち抜くことは容易にできる。俺は、冷たくなった名前の手のひらが握っていた拳銃を抜き取る。


「…嘘、だろ?」


拳銃に、弾はなかった。

…名前は分かっていたんだ。いつかこうなることが。だから、名前は最初から自分の拳銃に弾を入れていなかった。…俺を、殺さないために。なぁ、お前は一体何を考えていたんだ?お前が俺にくれた愛は嘘じゃなかったってことか?血で濡れてしまった名前をギュッと抱き寄せる。着ていた白いシャツに真っ赤な血が染みこんだってかまわない。…もう、お前は俺が何度名前を呼んでも返事をしてくれないんだな。


「…名前、名前…」


冷え切っていく名前の身体。いつの間にか、名前から流れていた血はその流れを止めていた。温かい血が、固まっていく。ガタガタと小さく震える俺の身体。ああ、なんて取り返しのつかないことをやってしまったんだ。あのとき、どうしていれば名前を失わずにすんだんだ?俺がお前の本当の気持ちに気づいてやれなかったのがいけなかったのか?お前は俺に殺されると分かった瞬間、何を想ったんだ?お前の揺れた瞳には、俺の顔はどう映っていたんだ?


「…愛してる、名前」


俺は冷たくなってしまった名前の唇に自分の唇を重ね合わせた。







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13/01/22
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