Starry☆Sky | ナノ
※羊生誕記念


サクサクッと雪の上を歩く。ハァッと吐いた息は、白く、白く、水蒸気となって真っ暗な星空へと消えた。寒さで赤くなった鼻を隠すように、僕はマフラーに顔をうずめた。僕は今、アメリカにいる。アメリカに来てから、もうすぐ5年経とうとしていた。

今でも僕はよく、星月学園にいたあの日々を思い出す。錫也と哉太、それに月子。そして、僕の最愛の人である名前。5人で過ごしたあの日々が、すごく懐かしい。今でも連絡は取り合っているけど、毎日会えるわけじゃない。名前と錫也と月子はもうすぐ大学の卒業式を控えているし、哉太はきっと今ごろ天体写真を撮るために世界中を旅してる。みんなそれぞれ、あの頃より前に進んでいる。僕も、毎日星の研究を続けている。…充実しているけど、やっぱり少し寂しい。なんだか、みんなに会いたくなっちゃったな…。

なんてことを考えていると、ポケットに入れていた携帯からブブブッとバイブ音が聞こえた。こんな時間に、誰だろう?ディスプレイに表示された名前を見ると、そこには一番逢いたいと思っていた人の名前が表示されていた。


『もしもし?羊?』
「Oui!珍しいね、こんな時間に電話してくるなんて。何かあったの?」
『もしかして、何で私が羊に電話したか分からないの?』
「? うん」


名前から電話がくるなんて珍しい。名前は忙しい僕に気をつかってか、あまり僕に電話をかけてこない。僕としては、毎晩だって名前と電話したい。でも、僕が忙しいことに変わりはないから、名前のその優しさに甘えてしまっているところもある。逢いたい、とか、寂しい、とか名前は滅多に口にしない。遠く離れた国にいる僕を困らせないように、いつも気をつかうんだ。…やっぱり、彼氏としては彼女に気をつかってもらってばかりではいたくないんだけどね。


『羊、今日誕生日でしょ?』
「…今日?」
『あれ?今日だよね?』
「ふふっ、そうだね。もし僕が日本にいたら、今日が誕生日だったね」
『…あ、時差』
「うん。時差があるから今日はまだ僕の誕生日の前の日だよ」
『うそ!?』


電話の向こうにいる彼女の慌てる姿が目に浮かぶ。そっか、日本にいたら僕はもう誕生日を迎えているはずだったのか。そんなことを思いながら、必死で謝る彼女を宥めた。別に、謝ることないのに。こうやって、名前が僕の誕生日に電話をしてくれたことが何よりも嬉しい。本当は、会って直接言ってもらいたいんだけど…そんなことを言っても彼女を困らせるだけだ。


『羊、今どこにいるの?』
「研究所から家に帰っている途中だけど…どうしたの?」
『あ、ううん。なんでもないの』


彼女の不自然な質問に、首をかしげる。そういえば、さっきから電話の向こうが少しうるさい。時差のことを考えても、いつもなら彼女は家にいる時間だ。どこか、別の場所にいるの?一瞬、嫌な予感が僕の頭をよぎった。まさか、彼女にかぎって…他の男のとこにいるなんてありえないよね?誕生日を最後に振られるなんて、今どき安っぽい昼ドラでもありえない。それでも、小さな不安はだんだん大きくなっていく。


『羊?』
「ごめん。ボーッとしてた」
『大丈夫?疲れてるの?』
「大丈夫だよ。名前の声が聞けたから、すごく元気が出た」


そう言うと、名前は黙ってしまった。なにかいけないことを言ってしまったのかな?「名前?」と名前を呼んでも、返事はない。やっぱり、僕のことが嫌いになっちゃった?アメリカにいて毎日逢うことができない僕よりも、同じ日本にいて毎日会うことができる人の方が良くなった?そんな考えが溢れかえって、僕は足を止めた。立ち止まって、名前が返事をしてくれるのを待つ。いつの間にか、ひらひらと粉雪が降り始めていた。


『羊は、私に逢いたい?』
「え?」


やっと彼女が返事をしてくれたと思ったら、意外な質問をされた。そんなの決まっている。僕はいつだって名前に逢いたい。そう答えると、名前は「最近、羊が逢いたいって言ってくれなくなったから…」と言った。じゃあ、つまり、名前は僕に逢いたいって思っていてくれたってこと?そういえば、最近彼女も卒業を控えているからか、忙しいと言っていて、僕はそれに気をつかってあまり逢いたいって言うことがなかった。…なんだ、彼女も僕と同じことで悩んでいたんだ。そう思うと、さっきまでの不安が嘘のように消えてなくなった。


「いつだって、名前に逢いたいと思っているよ」
『本当?』
「もちろん。名前は?」
『ふふ、それはもう少しで分かるよ』


そう言うと、彼女は電話を切ってしまった。その瞬間、キキッと目の前でタクシーが停まる。夜のせいか、暗くてよくタクシーの中が見えない。だけど、もしかしなくてもタクシーに乗っているのはー…。


「来ちゃった」
「名前!」


タクシーから降りてきたのは、さっきまで電話をしていた名前だった。僕は驚いて持っていた携帯を危うく落としてしまいそうになった。名前は「さっき空港に着いたばっかりだったから、時差を確認していなかったの。だから、間違えちゃった」と言って、僕が大好きな笑顔で笑った。僕は思わず、彼女を抱き寄せた。「羊!?」と驚く彼女にかまわず、きつく、きつく、彼女を抱きしめた。…ずっと、こうしたかった。彼女から伝わる温もりが、逢えたことをさらに現実にする。夢じゃ、ないんだね。…逢いたかった。


「羊、お誕生日おめでとう。生まれてきて、そして私と出逢ってくれて、ありがとう」
「お礼を言うのは僕の方だよ。最高の誕生日プレゼントをありがとう」


そう言って、僕は寒さで冷たくなってしまった彼女の唇にキスをした。何度も、何度も。飽きることなくキスをする。柔らかい名前の唇は、甘いお菓子みたいで、キスするたびに幸せな気持ちになった。それを味わうかのように、僕はもう一度、彼女にキスをした。







----------------------------------

羊くん、誕生日おめでとう。

13/01/12
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -