Starry☆Sky | ナノ
※どちらも報われない話。


あの日は、一日中雨が降り続いていた。梅雨の季節には珍しくない雨。だけど、こんなにも静かに、シトシトと降り続く雨は珍しかった。夏服だけだと少し寒くて、うっかりしていたら風邪を引いてしまいそうな天気だった。雨は好きだけど…今は、嫌いかな。この重たい空気が、僕の気持ちを暗くする。そして、彼女の気持ちも…。


「……誉」
「うん、」


僕の部屋にいる名前も、外の天気と同じように静かに雨を降らせていた。彼女の大きな瞳から溢れ出すそれは、まるで降り続く雨のように止まることを知らない。

彼女が泣いている理由。それは、彼女が僕の部屋に来たときから分かっていた。彼女は今日、長い片思いに終止符を打った。正確に言えば、終止符を打たれた…かな?名前はずっと、彼だけを見てきた。だけど、彼の目線の先にはいつも違う人がいた。僕はそれに気づいていたのに、何も言わなかった。名前が傷つくと分かっていたのに、僕は本当のことを教えることができなかった。…彼を見つめているときの名前が、あまりにも綺麗だったから。


「あたし、振られちゃった」
「…そっか、」
「守りたい人がいるんだって」
「………。」
「一樹のことは、あたしが一番近くで見てきたのになぁ…」


名前と一樹と桜士郎と僕は、いつも四人で一緒にいた。留年組の一樹と桜士郎、そして二人が留年したおかげで同じ学年になった僕たち二人。学校に一人しかいない女の子を、一樹が生徒会に入れないわけもなく、そこから僕たちは仲良くなった。そのときから、名前は一樹に恋をしていた。周りからしたら、名前の気持ちは一目瞭然だった。もしかしたら、気づいていなかったのは一樹だけかもしれない。


「名前は、まだ一樹のことが好き?」
「…うん」
「…そうだよ、ね」
「忘れれるもんなら、忘れたい。だけど…無理だった」


そう言ってまた、彼女は涙を流した。…本当、一樹が羨ましい。名前に泣くほど想われているなんて。名前が一樹に振られて、安心している僕がいる。こんなこと彼女に言ったら、きっと今までの関係は全部崩れてしまうんだろうね。きっと名前はそれを望まないから、僕の気持ちは心の底に隠しておく。

いつから、名前を好きになったんだろう。一樹に恋をしている名前を見ているうちに、僕も一樹みたいに想われたいなって思ったのが始まりだった。そのときから、僕は名前の恋愛相談の相手という友達よりも少し上のポジションについた。なぜか名前から恋愛相談を受けるのは辛くなかった。確かに、僕は名前が好きだ。だけど、一樹のことが好きだと言って照れ笑いする名前の顔が一番好きだった。恋をしている女の子って、どうしてあんなに輝いているんだろう?


「名前は、一番一樹のことを想っていたと思うよ」
「…ありがと」
「僕が保証する。だから、今は思いっきり泣いてもいいんだよ?」
「…誉。…あたし、誉のことを好きになればよかった……」
「ふふっ、そうかもね」


冗談だって分かっている。だけど、名前のその言葉に一喜一憂してしまう僕がいる。名前が、一樹じゃなくて僕のことを好きでいてくれたら…。あの照れ笑いが僕を想っての表情だったら…。ドロリと胸の奥から、黒い感情がこみ上げてくる。これは、嫉妬。一樹に嫉妬する醜い僕をごまかしたくて、僕は優しく名前の髪を撫でた。それが合図だったかのように、名前は声を上げて泣いた。

きっと彼女は、こんなにも辛い思いをしたのに、明日は一樹の前で笑っているんだ。「一樹は悪くない。あたしは大丈夫だから」とでも言うように、一樹には泣き顔を見せない。一樹はきっと、それを見て安心するんだろうな。そしていつもと変わらない態度で名前に接する。その態度のせいで、彼女がまた涙を流すとは知らずに。だけど、この泣き顔は…僕だけのものだ。


「明日からは…ま、った…笑顔でいるか、ら……今、だけ…は…い、いっよね…?」
「大丈夫だよ。僕が隣にいてあげるから。今は、僕しかいないから」
「…ありが、とう…っ……」


そう言ってまた涙を流し続ける彼女を、素直に、綺麗だと思ってしまった。本当、名前は僕の気持ちを揺らすのが上手だね。こうして男と二人きりで部屋にいるのに、僕だからと言って、まったく警戒心を持たない。名前が嫌がることはしたくないけど…そろそろ、限界。

ねぇ、名前。その涙でぐちゃぐちゃに濡れた顔を見せるのは、僕の前だけにしてね?一樹も、桜士郎も知らない顔。名前が泣きたいときは、僕がまた、こうして髪を撫でてあげる。だから、さ。僕がいないとダメだって、言ってよ。僕がいないと生きられないようになってしまえばいい。もっと、僕に依存していいんだよ。もっと、もっと。僕には、名前しかいないんだから…ね?







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12/12/31
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