Starry☆Sky | ナノ
※ 梓生誕記念


「〜♪」


さっきから、名前先輩は鼻歌を歌いながら何かを作っている。せっかくの部活がない放課後に彼氏である僕が先輩の部屋に遊びに来ているのに…はぁ、いい加減、僕にかまってくださいよ。ペラッと読んでいる雑誌のページをまためくる。だけど、内容はまったく頭に入ってこない。視界の端に映る先輩のことが気になって、集中できない。


「梓!梓!」
「どうしたんですか、先輩?」
「これ!どう?」
「うぐっ」


やっと先輩が話しかけてきたと思ったら、いきなり口にスプーンを突っ込まれた。口に広がる甘い生クリームの味。どうやら、先輩がさっきから必死で泡立て器を動かしていたのは、これのためだったらしい。…どこかの生クリーム好きの鬼の副部長じゃないから、いきなり突っ込まれるのは少しあれだったけど、「どう?」と可愛く笑う先輩を見ていたら、そんなことはどうでもよくなった。


「美味しいですよ」
「本当!?じゃあ、これで完成だね」
「何を作っていたんですか?」
「何って…気づかなかったの?」
「?」


先輩の部屋に甘い香りが充満していることに、今になって気づいた。もしかしなくてもこれは…ケーキ?タイミング良くオーブンの焼き上がりを知らせるチンッという音がした。先輩はそこから、型にはいったスポンジケーキを取り出して、テーブルの上に置いた。スポンジケーキに生クリーム…。どうやらこれは、この日のために僕に用意されたものらしい。


「気づきませんでした」
「ふふっ。梓と一緒に誕生日ケーキにデコレーションしようと思ったの」


そう言って先輩は、冷蔵庫からいちごやフルーツの缶詰め、ポッキー、ミニシュークリームなどを取り出してきた。そういえば、小学生のころ、家庭科の調理実習でデコレーションケーキを作ったっけ…。まさか、高校生になってもするなんて思ってもみなかった。僕は、そういう名前先輩の子供っぽいところや、純粋なところが好きだ。楽しそうにスポンジケーキに生クリームを塗っていく先輩は、とても可愛かった。


「梓、年の数だけポッキーたてる?」
「ローソクじゃないんですか?」
「じゃあローソクもたてる?」
「…ローソクだけで大丈夫です」


とりあえず、お互い担当する場所を決めてデコレーションをしていく。…先輩の担当場所は、なんかもうケーキというよりお菓子の家みたいな感じになっている。正反対な僕と名前先輩のデコレーションを見て、少し手が止まった。

先輩は、僕にはない色を持っている。前に、先輩が「梓には透明っていう色があるんだよ」と言っていたのを思い出した。よく言えば、何にでも染まることができる。だけど、悪く言えば、個性がない。教科書に載っているようなありきたりなものになってしまう。だからこそ、僕は名前先輩に惹かれた。先輩みたいな色に染まりたい。そう、思ったからだ。優しくて暖かい先輩の色。僕もそうなりたい。…そんなことを思ったのは、先輩が初めてだった。


「美味しそうだね〜」
「そうですね」
「梓はどの部分を食べる?」
「僕は…僕は、先輩がデコレーションした部分がいいです」
「え!?で、でも、なんか調子に乗りすぎちゃって、最初は綺麗だったのに、なんか汚くなっちゃったし…梓がデコレーションしたとこの方が美味しそうだよ?」
「僕は先輩がデコレーションした部分の方が美味しそうに見えますよ?」
「…嬉しい!」


そう言ってまた笑った名前先輩。…さっきから気になっていたんだけど、先輩の口の端に生クリームがついている。どんだけベタな展開なんですか。…こうなったら、アレをするのがお決まりだと思う。むしろ、先輩がそれを狙ってるんじゃ…いや、名前先輩にかぎってそれはない。


「せーんぱい、」
「んー?…っふぇ!?」
「生クリーム、ついてましたよ」


僕の方を向いた先輩の口を舐めれば、生クリームの甘い味がした。顔を真っ赤にする先輩。僕、先輩のその顔大好きだな。そうだ、いいこと考えた。今だに顔を真っ赤にしている先輩の腕から、生クリームが入ったボウルを取った。不思議そうに小首を傾げる先輩を見ながら、僕は生クリームを人差し指ですくい、口の端につけた。


「あ、梓?」
「先輩、取ってください」
「えっ!?」
「さっき僕がやったみたいに、ね?」
「ででででできないよ…」
「先輩、今日は僕の誕生日ですよ?」
「………うぅ」


そう言ってしまえば、先輩はもう僕には逆らえない。大人しく座って待つ僕。決心したように、のどをコクリと鳴らした先輩は、僕の肩を掴んで、おそるおそる顔を近づけた。いつも僕からするキスとは違って、先輩の緊張している顔がはっきり見える。ペロッと舌で口の端についていた生クリームを舐めとった先輩。…そんなの、反則じゃないですか。子供っぽいのに、そうやって急に色気を魅せる。僕は先輩のそのギャップに振り回されてばかりだ。


「甘い…」
「先輩、もっと甘くなる方法、教えてあげましょうか?」
「?」
「こうするんです」


ゆっくりと離れていった先輩の後頭部を、手のひらでまた僕の方に押し戻す。そのまま先輩の上唇に優しく噛みつく。噛みついたところを舐めて、それから口の中に舌を滑り込ませる。これでもう、先輩は僕の思うがまま。生クリームの味見のしすぎのせいか、先輩の口の中はいつもより甘かった。本当…甘くて、眩暈がしそうだ。


「あ、ずさ…」
「なんですか?」
「もっかい…」
「先輩は意外と欲張りですね」


今日は、デコレーションケーキよりも、まずは先輩からいただくことにしよう。目を閉じて僕のキスを待つ先輩に、僕はまた、噛みついた。







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梓くん、誕生日おめでとう。

12/12/20
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